124 Interlude5 開戦
商人同士の酒場での小競り合いから1日。
たった1日で、リオネスベルクの街中は不穏な空気に包まれていた。
そうして事は起きた。
王都アレリアの使節団に雇われた冒険者たちが共和国側の陣営に手を出したのだ。
私はその場に居合わせたわけではないが、共和国使節団の指揮官であるライラさんに話を聞く限りではこうだ。
最初は酔った冒険者が陣営の門番に素手で戦いを挑んだことから始まったという。
相手にしていなかった陣営の門番も、思い切り殴られると表情を変えた。
門番は殴ってきた冒険者を捕まえると、縛り動けないようにして陣の中に監禁したのだという。これにはその冒険者の仲間が黙っていなかった。即座に解放を要求する冒険者。
直に要求はヒートアップしていき、双方ともに武器を手に取った。
しかし門番は強かった。上級冒険者以上の実力を持った門番が一人で冒険者たちを撃退。
破れた酔った冒険者達は、街の南側に居を構える王都アレリアから来た使節団の陣に逃げ込んだ。
そうして1時間後、ライラさんの元へ捕まえた冒険者を開放しなければ開戦するとの脅しが来る。ライラさんは「我が国の使節団に対して武力行使に及んだ者を、裁きなしに解放することできない」と拒絶。逆に王都アレリアの使節団に逃げ込んだ冒険者達の引き渡しを要求した。しかし、これに王都アレリアの使節団に随伴していた参謀が激怒。開戦の流れとなった。
「しっかし、今のところはまだ相手方に動きなし……と。なに仕掛けてくるかにゃ?」
共和国の陣でライラさんに聞くと、ライラさんは「分からぬ」とだけ返した。
まぁそだよね。相手さんの指揮官のアルベールさんはソラから平和主義者だって聞いてるけど随伴してた参謀がどうやら開戦派の手先だったらしい。
何をしてくるかはその参謀次第だろう。
「それよりも、イア殿はこちらへついてくれるのでしょう?」
「んまぁね。ホウコさんからそんな感じのこと言われてるし、悪いのはどう考えてもあっちでしょ」
「それは大いに助かる……頼りにしております」
「いやいや、そんな頼られても困るって! こちとら特級に限りなく近いとはいえ上級冒険者なんでね!」
ライラさんとそんな会話をしてからセーフガルドのホウコさんへ開戦の報せを送ると、私達は王都アレリア側の使節団の動きを待った。
∬
開戦から3日目の夜。ついに動きがあった。
王都アレリア側の使節団が大盾を構えて列をなすと、街の北側へ向けて進軍を開始した。
それを冒険者ギルド横の監視塔で発見した私達は、即座に共和国の陣へと向かった。
「不味いよ……ライラさん。奴さん達本気でやる気だ! 進軍を開始してる!」
「……こちらも兵を出せ! 防御陣形を形成せよ!」
ライラさんが指示を飛ばし、鎧を着込んだ。
そんな時だった。共和国陣営の指揮官の天幕が上がり、中に一人の老人が入ってきた。
「よぉ……指揮官はあんたかい?」
「こんな時に誰だ! 名を名乗れ!」
「なんだい! こちとらキルエスから名馬で必死に駆けて、中央山脈登山までしてきたってのに大した歓迎だな!」
老人は老獪そうな目でこちらを睨みつける。
「キルエスから……? は! まさか貴方様は……!?」
「おう、ファルゲンっていや通るかい?」
「まさか勇者ファルゲン殿!? よもやこんなところまで来て頂けるとは……! 歓迎致します!」
ライラさんが大きな声で歓迎を表する。
「おいおいおい、ファルゲンつったらあの神級冒険者の?」
私がファルゲンの爺さんをつま先から頭の上まで観察する。
そして一言、「やれるの?」と聞いた。
すると鑑定が飛んできた。
妨害することも考えたが、仲間だと思ったので素直に受け入れる。
「なんだ嬢ちゃん……上級冒険者のようだが、みたとこ実力的には特級冒険者ってところかい? 俺の実力に疑問を感じるのもまあ無理はないが……」
ファルゲン爺さんはそう言って自身の顎髭を撫でる。
「それよりも……王国の武装使節団が我が陣に迫っています! 私は指揮を取るため行きますが、ファルゲン殿は?」
ライラさんが急かすように私達にそう言うと、ファルゲンさんが「もう開戦しちまったのか……なら、まずは俺に任せてもらおう!」と豪語した。
そして天幕を出るファルゲン爺さん。
「な……まさか爺さん一人で行く気!?」
「あぁ……ちょいと肩慣らしってとこだ、まぁ見ときな」
「待って待って私達も一緒に行くって! 爺さん一人で無理すんなし!」
「ふん、好きにしな」
私達は天幕を出ると、共和国陣営を出て街の中程まで進んだ。
街の中程には王都アレリアの武装使節団が大盾を構えて列をなしていた。
そこへファルゲン爺さんが大声で警告する。
「これ以上前へ出れば共和国及び冒険者ギルドへの敵対と判断する!」
爺さんは自身の槍で地面に線を引いた。
「この線を超えた者は容赦しない! 以上だ!」
言い終えると10mほど後退した。
「んで、なにすんのさ。まさか警告だけ? そんな時間稼ぎすぐ駄目になるに決まってんじゃん。爺さん何考えてんのさ!?」
私が爺さんを責めるように言うが、爺さんはまるで聞く耳を持たず「言葉通りだ。まぁ見てな嬢ちゃん」と言うばかりだ。
「あーほら! もう動き出したじゃん奴さん達!
ほら爺さん、線を超える……」
よ……と言ったその瞬間、隣で腰を叩いていたはずの爺さんが凄まじい速度で動いた。
神速!? それもただの神速じゃない。なんだこの凄まじい速度は!?
あの爺さん、耄碌してるだけかと思ったらとんでもないかも!?
そうして王都アレリアの使節団の前衛の大盾部隊に接近したファルゲン爺さんは、大きく腰を落とすと闇元素を纏ったらしき黒色の槍で大盾を薙ぎ払った。
その凄まじい一撃に、薙ぎ払いを受けた4、5人が後方へと吹っ飛んでいく。
「言ったはずだぜ、この線を超えた者は容赦しないってな」
勇者ファルゲンが堂々とそう言い放ち、槍を自身の右肩へと掛けた。
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