118 神級冒険者

「ほう特級冒険者か……鑑定妨害Sと鑑定Sをお持ちだろう。鑑定合戦の強さで分かるよ」

「はい……」

「……そうかやはりか。まぁそれは置いておこう。ギルドマスターのレアさんはいるかな?」

「はい。お呼びしますので少々お待ち下さい」

「あぁ、分かった」


 私は急ぎレアさんのいる執務室へと向かい、レアさんを呼んできた。


「ラフバインさん! 来ていただけましたか」

「えぇ……レアさん。どうやら急ぎの用事らしいですね。何かありましたか?」

「それは……まぁもう議会には宣戦布告してきてしまったので、場所を移す必要性もないでしょう。実は……」


 レアさんがSランクの開戦派の動向を探る依頼についてラフバインさんに話す。

 そして昨夜襲われたことも合わせて教えた。


「それは……冒険者ギルドと王都アレリアの貴族との間で対立が起きているということですか?」

「はい。恐らくは……もしかすればサトゥルヌス家を始めとした開戦派との戦いになるやもしれません」

「それは中々に見過ごせない事態ですね……」

「私の護衛はトリスタルさん達に頼んで問題はないと思いますが、神級冒険者として事態の収拾にあたって頂けないでしょうか?」

「……分かりました。Sランクの開戦派の動向を探る依頼、お受けしましょう」

「……! ありがとうございます!」


 ラフバインさんが依頼を受け、レアさんがお礼を言って頭を何度も下げた。

 神級冒険者とは貴族であるレアさんにも、こうまで尊敬されているのか。


「それでは、セーヌさんをご紹介します。セーフガルドからいらして、件の依頼をレイナ姫のご意向で受けてくださっているのですよ」

「それはそれは、実は先程自己紹介してもらいました……優秀な冒険者のようだ。そう言えば私から自己紹介がまだだったね。鑑定結果でご存知だとは思うが、神級冒険者のラフバインです。よろしくお願いします」


 ラフバインさんが私に丁寧に頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくお願いしますラフバインさん」


 私が再びペコリと頭を下げる。


 古今東西冒険者図鑑にも収録されている生ける伝説。剣神ラフバイン。

 その本人がこうして私に丁寧に頭を下げてくれたのだ。

 私も全身全霊を込めて頭を下げた。


「それで……件の依頼。次に打つ手をお考えで?」


 レアさんと私にラフバインさんが問う。


「いいえ、私は天狐様の議会での動向を注視しているところです」


 レアさんが答え、私は「私はサトゥルヌス家に面会申請を出したところです」と言った。


「なんと……! 敵陣に颯爽と乗り込もうというわけですな! これは恐れ入った!」


 ラフバインさんが豪快に笑い、レアさんが「セーヌさん!?」と心配するような目線を寄越す。


 そう言えばレアさんには話して無かったなと今更ながらに思う私に、ラフバインさんが提案する。


「ここは一つ。私もその面会に同行させて頂くというのはどうでしょうか?」

「それは……私は構いませんが、よろしいので? 戦いになるやもしれませんよ」

「えぇ。そうなったらなったで良し、それに私がいても仕掛けてくるとなればサトゥルヌス家は相当な胆力をもってことにあたっていると見て良い。これでも一応名は知られている方ですから! ハッハッハッハッ!」


 再びラフバインさんが豪快に笑う。

 とても楽しそうだ。私、何かしてしまっただろうか?


「それでは……今日のところは冒険者ギルドで待ちですね! あ、セーヌさんのパーティメンバーのリエリーと申します! 上級冒険者です!」

「わ、私もパーティメンバーのネルと言います。同じく上級冒険者です!」


 リエリーさんとネルさんが挨拶すると、「これはこれは女性ばかりのパーティに親父が邪魔をして申し訳なかったかな?」とラフバインさんが謙遜する。


「いいえ、そんなことは……かの剣神の実力。しかと見せて頂ければ……!」と、リエリーさんが応え、ネルさんも「そんなことはないです……!」と無理矢理に笑顔を作る。

 二人共生ける伝説を目の前にして、舞い上がっているように見えた。


「そう言えば、セーヌさん達はセーフガルドから来たとか。あちらに特級に推薦してくれるような超級冒険者がいましたかな?」

「いいえ……セーフガルドには……。

 実は西方に行った折に、城塞のレェイオニードさんに推薦して頂きました」

「ほぅ、あの若造に! そう言えばレイナ姫の護衛で西方に行ったとか……それで件の依頼をレイナ姫から?」

「はい。レイナ姫とは仲良くさせて頂いています」

「なるほど……しかしあのレェイオニードが認め、天狐様も認めるほどの特級冒険者などと聞いたことがありません。セーヌさんはよほど優秀な冒険者ということでしょう」

「いえ……ただの特級冒険者に過ぎません」

「ハハハ! そう謙遜なさることはない」


 ラフバインさんが笑いながら首を横に振った。


「そうですよ! セーヌさんは西方でエンプレスを討ったほどの実力をお持ちですから!」


 リエリーさんがそう言うと、ラフバインさんが「まさか最近西方で出現したゴブリンエンプレスを討ったというのは……?」と聞いてきて、リエリーさんが「はい! 私も直接見たわけではありませんが、セーヌさんとレェイオニードさんの二人で倒したと聞きました!」と答える。


「なんと……あの厄介なゴブリン軍団をレェイオニードとお二人で……? それは中々に凄い戦果ですな。私も昨年ゴブリンエンペラーを東方で相手取りましたが、数が多く中々に骨が折れる相手でした」

「なんと……エンペラーを屠ったというのはラフバインさんでしたか……!」

「えぇ……軍団を作り上げていて数的不利に苦労したものです」

「私も緊急レイドクエストが発令されていなければ、ゴブリンの群れ相手に手間取っていたでしょう……ラフバインさんはお一人で……?」

「私が到着するまでに何パーティかが討伐に参加していましたが、上級冒険者にも満たないようなひよっこ共でしたね。エンペラーに敗れて一人がエンペラーに捕らわれてしまっていました……」


 ラフバインさんが顔を伏せる。


「……! それは……私の知っている方かもしれません」

「そうでしたか……私が助け出した時には、既に精神をやられてしまった後のようでした……残念です」

「はい……残念なことです……」


 私も精神がやられてしまった冒険者を思い出して暗澹たる気分になった。

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