117 人質交渉の依頼とスキル

 クワランド・ミドリーさんパーティの中級冒険者サイドーさんの報せを受け、金品を供出して貰おうと、ミドリー家へとサイドーさんを送り出した。


 一時間ほどしてサイドーさんが冒険者ギルドへ戻ってくる。

 ミドリー家の人らしい貴族が一緒にいた。


「こちらスキーナ・ミドリーさん。ミドリーさんの母君だ」


 サイドーさんに紹介され、私達は会釈する。


「それで、そのスキーナさんがどういったご要件で?」


 私が聞くと、スキーナさんが話し始める。


「うちのクワランドが捕まっているのはご承知の通りです。かわいいあの子の為ならば無論、金品は惜しみません。ですが中級冒険者のサイドーさんにお金を渡しても、あの子が帰ってくる保証がありません。お金だけ取られて、また要求をしてくるなんてことになりかねませんわ! ですから冒険者の方を雇用したいのです。特級冒険者以上のパーティを雇用する依頼を出させて下さいまし」


 スキーナさんがそう言ったので、私はカウンターに回って依頼票の書き方を教えた。

 そしてスキーナさんが依頼票を書き終えると、それを私が受け付ける。


「はい。Sランクの緊急依頼を受付させて頂きます。依頼料は8000エイダとなりますがよろしいでしょうか?」

「勿論ですわ!」


 私は1万エイダ大金貨を渡され精算する。


「それでは依頼を受け付けました」


 私は依頼掲示板に依頼を張り出すと、鐘を鳴らし叫んだ。


「Sランクの緊急依頼を受け付けました! 冒険者の方は詳細をご確認ください!」


 依頼ランクが特級冒険者以上しか受けられないSランクともなると中々決まらないのではないかと考えていたのだが、思った以上に集まりが良かった。

 王都には特級冒険者以上の冒険者が数多くいるということだろう。


 すぐに受付に女冒険者がやってきた。


「今出たSランクの緊急依頼。私のパーティが引き受けよう」

「野盗との人質交渉の依頼ですね。この依頼は依頼者の意向で特級冒険者以上で構成されたパーティしか受けられませんが、よろしいでしょうか?」

「あぁ、三人とも特級冒険者だ」

「それではパーティメンバーを呼んで頂けますでしょうか? 冒険者カードを確認しますので」

「分かった! おーいミザリー、サンディ! 冒険者カードを確認させてくれってさ。

 それとこれ、私の冒険者カード」

「確認させて頂きます」


 私は水晶へとカードを当てた。


「クララさん……特級冒険者、クラン鋼の女傑のリーダー……。

 はい。確かに確認させて頂きました」


 続いて、受付に来たミザリーさん、サンディさんと確認していく。

 いずれもクララさんのクラン、鋼の女傑のメンバーの特級冒険者だった。


「はい。それでは依頼の受諾を受付させていただきました。緊急性の高い依頼ですので、お早めに達成しますよう、よろしくお願いします。こちら依頼票になります」

「あぁ、ありがとう。そう言えば、見ない顔だけど新人さんかい?」

「はい。セーフガルドから来ました、特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌと申します。以後お見知り置きを……」

「そっか! セーヌさんよろしく! それで、依頼者のスキーナ・ミドリーさんは?」

「あちらの御婦人になります」

「了解! ありがとう!」


 クララさんは私に感謝の言葉を述べるとスキーナさんの元へと行った。


 私はクワランドさんが無事、人質と金品の交換に成功して戻ってくることを願った。




   ∬




「私、てっきり私達のパーティがクワランドさんの人質交渉に向かうと思っていました。セーヌさんは特級冒険者ですし……」


 ネルさんが私の方を見て意外そうに言う。


「私もてっきりそうなるかと身構えていたのですが、さすがは王都アレリアですね。数多くの特級以上の冒険者がいるようです」


 リエリーさんが重ねる。


「そうですね。セーフガルドでは考えられません。私達ももっと頑張らねばなりませんね」


 私が纏めるとリエリーさんが、「それで、レアさんの護衛も必要ありませんでしたし、どうしますか?」と問うた。


「私、サトゥルヌス家の動向が気になります。ですのでいっそ敵陣に攻め込むつもりでサトゥルヌス家の方を訪ねて見ようかと……」

「本気ですかセーヌさん!?」

「それは……大胆ですね!」


 リエリーさんが驚きの声を上げ、ネルさんが楽しそうに笑う。


「まずは貴族街門へ行き、サトゥルヌス家の方に面会申請を出しましょう!」


 私の提案に、リエリーさんが「何も起こらないと良いのですが……」としきりに心配していた。


 貴族街門へ行き、サトゥルヌス家に面会申請を出した後、私達はまた冒険者ギルドへと戻ってきた。サトゥルヌス家の人も午前も午後も議会へと出ているはずである。

 だから返事が来るのは早くて今日の夕方以降、普通に考えて明日以降だろう。


 やることも無かったので、私は自身の冒険者カードを水晶に当てた。


 【竜騎乗S】。

 ドラゴンを自由自在に乗り操ることができるようになる。


 【対空戦闘A】。

 空にいる敵に対して攻撃を上手く行えるようになる。


 【主狩りA】。

 山の主や海の主などの主を相手にしたときに能力が向上する。


 【超級大剣術S】。

 超級大剣術を習得した証。

 超級大剣術を行う際に大幅な技量補正を受けられる。


 【剣圧波S】。

 超級大剣術を行う際、剣圧を飛ばせるようになる。


 【集団戦闘指示B】。

 的確な集団戦闘の指示を出せるようになる。


 【飛び道具防御A】。

 飛び道具に対する防御が上手く行えるようになる。


 【峰打ちB】。

 峰で敵を打つ際、正確な攻撃が出来るようになる。


 【手加減B】。

 相手に適切な手加減をすることが出来るようになる。


 死鳥との戦闘とツバキさんとの修行、そして盗賊スキル持ちとの戦闘で得られたスキル郡。

 中でも気になるのは竜騎乗スキルだ。

 道中、ネルさんにフレちゃんさんの乗り方を教わったからだろうか? Sランクで獲得できている。

 今後、フレちゃんさんの背に乗ることも、もしかしたらあるかもしれない。有用なスキルに違いないだろう。


 次に超級大剣術と剣圧波。

 この二つは私の今後の冒険者人生において柱となるに違いないスキルだ。

 ツバキさんに教えて貰ったことで目論見通りSランクを獲得できている。


 そして峰打ちや手加減を始めとした、相手を殺さずに無力化するためのスキル。

 私とて好き好んで相手を殺したりしたくない。

 今のところは人間の相手は実力差のある相手ばかりだから成り立っているが、いずれは人を殺さなければならなくなることもあるだろう。

 今のうちから覚悟しておく必要がある。


 私が冒険者カードでスキルを確認し終えたと思った時、いきなり鑑定を仕掛けられた。

 そして鑑定合戦を繰り広げ、私はなんとか勝利した。

 こちらの情報は漏らさずに済んだはずだ。


「恐らくは鑑定A持ちでしょうか? 一体誰が……」


 私はギルド会館内に鑑定を張り巡らせた。

 鑑定Aならば効果範囲は会館一帯が限度だろうと思ったからだ。

 すると、すぐに先程鑑定合戦を始めた人の元素を感知する。

 ギルド会館の入り口に立っている白髪混じりの黒髪の男性だ。

 鑑定合戦を仕掛ける私。


「負けはしません……!」


 最初、まるでミサオさんと戦っているかのような強さの敵。

 しかし、ミサオさんとの戦いとは違い、勝ち筋が見えてきた。

 きっとミサオさんとの鑑定合戦で得た超級鑑定妨害抵抗の賜物だろう。

 そして鑑定結果が出る。


【ラフバイン】

【人族。男性】

【剣神S】、【神級剣術S】、【神級冒険者A】、【神速A】、【元素感知A】、【元素操作A】、【鑑定A】、【鑑定妨害A】、【英雄S】、etc……。


「これは……剣神ラフバインさん!?」


 私が驚きの声を上げると、ラフバインさんがこちらへとやってきた。


「君が鑑定失敗した人だね? まさか冒険者ギルドの受付嬢かい?」

「はい……上級冒険者ギルド受付で特級冒険者のセーヌと申します」


 私は恭しく頭を下げた。

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