116 突然の報せ
「よい。皆に聞こえるように話せ」
「はい」
ダンビエールさんが言い、執事の人がリオネスベルクで起こったという小競り合いについて話し始める。話によれば、どうやら使節団が帯同していた商人同士が酒場で大喧嘩をしたという話らしい。
「では使節団の本隊同士ではぶつかっていないのだな……?」
「はい。そのようです。ですがアルベール様のご報告では、本隊同士がぶつかるのも時間の問題だと記載されております」
「ふむ、そうか……。今すぐにでもアルベールに共和国ライエスタの使節団を伴って、王都アレリアまで引くように報せを出したいところだが、議会の承認が得られねば何もできぬ……」
「そもそも小競り合いがあったというのはいつの話なのじゃ?」
ツバキさんが心配そうに問う。
「はい。日付は一週間前となっています。早馬業者を使ってリオネスベルクから王都アレリアまで一週間かかるようですな……」
「では現地は今、より緊迫した状況になっているということですね……」
とリエリーさんが言い、「恐らくはそうでしょう」とダンビエールさんが同意する。
「とにかくじゃ、今日の議会からは開戦否定派に回って貰うぞダンビエール。お主の意見を聞いてくれる貴族にだけでも根回しをしておくんじゃ」
ツバキさんが議会での態度を改めるよう指示し、ダンビエールさんが「はい」と頷いた。
「引き続き儂は議会に参加することにするが、セーヌ、お前たちはどうするのじゃ?」
「はい。またレアさんが襲われる可能性もありますから、私達は冒険者ギルドへ控えていようかと……」
「ふむ、そうそう連続で襲われることもないと思うが分からんからのう。ではレアは任せるぞセーヌ」
「はい」
私が返事をして続ける。
「きっと今頃、レアさんも護衛の冒険者を雇っている頃でしょうから、私達が役に立つかは分かりませんが……それでは失礼しますダンビエールさん」
そうして、私達はオーベル家を出た。
∬
オーベル家をでて十数分、貴族街門を抜けて平民街にある冒険者ギルドへ来た私達。
レアさんに「私達が護衛をしましょうか?」と尋ねると、既に特級冒険者以上の冒険者を三名雇ったとの話だった。そして三人を紹介される。
「こちら、剣聖トリスタル卿。非開戦派の貴族冒険者で超級冒険者よ」
「超級冒険者のジナラーン・トリスタルです。よろしくお願いします」
「次に、特級冒険者のニーナさん。ニーナさんは格闘術での接近戦が得意よ」
「ニーナです。接近戦ならお任せください!」
「最後に、特級冒険者で斧槍使いのロバートソンさん」
「よろしく」
三人を紹介され、私も「特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌと申します」と名乗る。
「天山を踏破されたパーティとお伺いしました。よろしくお願いします」
とトリスタルさんが私に握手を求めてきた。
「いいえ、踏破したと言っても特殊な方法を使ってしまいましたので実力はそれほどでもありません。よろしくお願いします」
トリスタルさんと握手をしながらフレちゃんさんで踏破したことを仄めかす私。
「トリスタルさんはツバキさんに超級剣術を……?」
私は気になったので聞いた。
「はい。3年ほど前にご指導頂きました。習得まで3ヶ月もかかってしまいましたが……」
「それは大変でしたね……」
「いえ、神級冒険者の剣神ラフバイン殿から推薦を受ける方が大変でしたね。『超級武器術など超級冒険者として初歩に過ぎん』と言って、身体強化と武器強化の練度が上がるまで認めて頂けませんでした。こちらは1年かかりました」
「神級冒険者の方のお弟子さんですか……? それはまた凄いですね……」
「いえ、私はかの剣神殿には足元にも及ばず……弟子とも言えないようなものでして……」
トリスタルさんはそう謙遜する。
「ま、とにかくレアさんの護衛はあたしらが居るから問題なし!」
ニーナさんが拳を合わせてニカッと笑う。
すると、一人の冒険者がほうほうの体で冒険者ギルドへ駆け込んできた。
「頼む……! 助けてくれ……!」
「大丈夫ですか……?」
私が介抱すると、冒険者は息を整える為に数回深呼吸した。
「ミドリーさんが……クワランド・ミドリーさんが東の森で野盗に捕まってしまったんだ!」
「なに!?」
トリスタルさんが驚きの声を上げる。
突然の報せに、私は無言で目を細めた。
「クワランド・ミドリーさんのパーティの方ですか?」
「あぁそうだ。俺は中級冒険者のサイドーという。昨日の午後、俺たちは東の森へ行き、そこで野盗討伐にあたったんだが、俺が最初に罠にかかっちまったんだ。それでミドリーさんたちはたった二人で十人に囲まれて戦う羽目になって……もう一人の上級冒険者はたぶん死んだ。俺もミドリーさんと共に野盗に捕まったんだが、連絡役として今朝解放されたんだ。奴らはミドリーさんを人質に多額の金品を要求してる……!」
私は自業自得ですと言いたいところだったが堪える。
やはり中級冒険者には荷が重すぎたのだ。
ミドリーさんがあの時私の警告を聞き入れてくれていれば、こんなことにはならなかった。
「ミドリー家にはもう?」
リエリーさんがサイドーさんに聞く。
「いや……まだだ」
「でしたらミドリー家に素直に助けを求めるのが良いでしょう。人質を取られていては超級冒険者であっても救出は困難です。素直に金品を差し出して解放させるのが肝要かと」
リエリーさんがくるくると指回しをしつつ結論を出す。
「しかし、ミドリー家になんて言えばいいんだ……」
サイドーさんは混乱している。
「私達に話したように素のままをお話するしかないでしょう。
それで金品を出して頂けなかった時は、ミドリーさんの命もそれまでです」
リエリーさんが残酷にも現実を突きつけた。
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