115 Interlude4 小競り合い
リオネスベルクに滞在して一週間と2日。セーフガルドを出て11日目。
結局、王都アレリアからの使節団は共和国ライエスタの使節団の話し合いの要請に答えることなく、2日が過ぎようとしていた。
共和国の使節団は基本的には街の北口に敷いた陣営から出ることはないようだったが、しかし食糧調達に関しては話が別だ。陣を敷いたその日から、街中ではライエスタの使節団に同行してきた商人と、王都アレリアの使節団に同行してきた商人とで熾烈な買い占め競争が勃発していた。
「パン一つに100エイダ金貨を出すなんて聞いたことがありません……このままでは街の皆さんも飢えに苦しむことになってしまいます……。私、教会へ行って王都アレリアの使節団長のアルベールさんに話し合いに応じるよう説得してきます!」
ソラが街の行末を心配し、冒険者ギルドを出ていく。
「まぁ相手さんは態とやってるんだろうから無駄だと思うけどね……ナミアはどうするん?」
「私は街の酒場へ行ってみようかと……どうせ酒と水以外に出すものはないでしょうが」
「そっかそっか、じゃあ私もご一緒しようかにゃ」
私達二人は酒場へと向かった。
酒場に入りカウンター席へと座る。
店内には酒を飲みに来たらしきライエスタ風の服を着た商人たちがいた。
酒と水くらいしか出すものはない酒場だ。
何をしに来たんだろうか?
考えていると、ちょうど私達のあとから男たちが騒ぎながら入ってきた。
「だーっはっはっはっ! ライエスタの商人共の顔ったらないぜ! 俺たちがパン一つ100エイダを顔色もかえずに買い占めていくのを、指を咥えて見ているしかないんだからなぁ!」
「おい、やめとけって件のライエスタの商人さま達がいるぞ!」
「なんだなんだー? 自棄酒でも飲みにきたのか? 商売じゃこっちが上でどうもすみません! なんてなー! だーっはっはっは!」
王都アレリアの商人の煽りに、ライエスタの商人が椅子をガタッと鳴らしながら立ち上がった。血気盛んそうに見える若者だ。
「お前らなにさまのつもりだー!?」
「おい、やめておけテリウス!」
仲間の商人がテリウスと呼ばれた青年を必死に抑える。
「なんだい坊っちゃん、喧嘩の売り方を教えてやろうか?」
「すみません、まだ若いもんで」
ライエスタの商人の一人が王都からの商人に謝った。
「おやっさん! もう陣へ帰りましょう! ここで酒を飲んでも不味いだけだ!」
「あぁそうだな……帰るか」
テリウスと呼ばれた青年が帰陣を促し、ライエスタの商人たちが腰を上げた。
「なんだなんだー? もう帰るのか? この腰抜け共! 商売だけじゃなく喧嘩でも腰抜けかー?」
「なにぃ!?」
「テリウス! ほら、帰るぞ」
年配の男性がテリウスと呼ばれた青年を抑えつけようとするが上手く行かない。
青年は仲間の腕を掻い潜ると、一息に王都アレリアの商人たちに接近する。
青年が王都アレリアの商人に殴りかかろうとする。
「まーめんどくさいけどしゃーなし!」
私そう呟くと神速を発動。
テリウスと呼ばれた青年と王都アレリアの商人の間に割って入った。
そして青年の拳を左手で受け止める。
「はーい。ここまでここまで~解散解散~」
私が気の抜けた声で喧嘩を仲裁すると、「なんだよ! どけ」と青年が言う。
「今仕掛けたら共和国側が最初に戦争を仕掛けたって言われちゃうよ? それでいいの?」
私が声を低くして凄むと、青年は「くっ……」と声を漏らしつつも拳を下げた。
「なんだ嬢ちゃん……邪魔するんじゃねぇ、せっかく良いところだったのによぉ」
「はいはい。絡むな絡むな! 解散する解散する!」
私が酔っ払いを邪険に扱うと、「そうは問屋が卸さねぇってな!」と王都アレリアの商人が青年へと殴りかかった。青年は頬を殴られる。
「くっ……やったな!」
青年は殴り返そうと間に入っていた私を避ける。
「ちょ……やめときなって! マジで戦争になるよ!」
「あっちが先に仕掛けてきたんだ! あんたが証人だろ!」
私は再度青年を止めるが、青年は止まらず相手へと殴りかかって行った。
そうして青年が相手の脇腹に重い一発をくれてやったところで、王都アレリア側の商人が全員がかりで青年に殴りかからんとする。
しかし、共和国ライエスタの他の商人たちも相手に先に手を出されては黙っていられなかったようで、次々と喧嘩に加勢していった。
酒場の中は大乱闘だ。
私はナミアの元へ戻ると、「あーあー私は止めたかんねナミア!」とふくれっ面をする。
するとナミアが「イアに喧嘩の仲裁は向いてませんからね」と笑った。
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