114 説得
盗賊スキル持ちを撃退した後、レアさんのお家で一夜を過ごし、私達は朝早くからティーナさんに会いにオーベル家へと足を向けた。
「朝早くに申し訳有りません、ティーナ・オーベルさんはご在宅でしょうか?」
「これはこれは……お嬢様でしたら確かにご在宅です。どちら様でしょうか?」
執事の男性が私達に怪訝そうな視線を向ける。
「特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌと申します」
「それと儂はツバキじゃ! 天狐の方が通りがええかの」
「……! 天狐様に特級冒険者の方でしたか、急ぎお嬢様を起こして参ります!」
天狐様が名前を出したことで、飛び上がるように執事は急ぎ屋敷の中へと入っていく。
しばらくして、ティーナさんがドレス姿でやってきた。
「ふわぁ……おはようございますセーヌさん。それに天狐様……?」
ティーナさんは朝早く起こされたからかあくびをしながら私達に対応する。
「ティーナさん。お願いがあります。
ダンビエールさんにお取次ぎをお願いできないでしょうか?」
「はい……? 長兄にですか?」
「はい。国難が迫っているのです」
「わ、分かりました。では暫く屋敷に入ってお待ち下さい」
私達はオーベル家の応接間へと通された。
「じゃあちょっとお待ち下さいね」
そう言うと、ティーナさんが去っていく。
「なんと言えば良いんでしょうか? リエリーさん」
「まず第一に伝えるべきは、サトゥルヌス家が食料危機を起こそうとしていることでしょう」
「そうじゃな。おそらくはダンビエールはそこまでは知らぬはずじゃ、あくまでも恐らくじゃがの」
話をしていると、ダンビエールさんを伴ってティーナさんがやってきた。
「これはこれは天狐様……それで本日はどのようなご要件で?」
「うむ。単刀直入に言う。お主はサトゥルヌス家に謀られておるぞ」
「……と、言いますと?」
「昨夜、儂らは議会を出た後、冒険者ギルドに寄りそれから各々の宿へ戻ったのじゃが……賊に襲われたんじゃ」
「なんと……!」
「知らんようじゃの。最初はお主の差金かと思ったんじゃがの」
「滅相もありません。幼き頃、我が母を救って頂いたご恩……忘れてはおりません。天狐様に賊を差し向けるなど、天に誓ってしておりません……!」
「そうかの……であれば儂らの話を聞いてくれ」
「はい」
ダンビエールさんは深くゆっくりと頷いた。
天狐様が以前言っていた母を錬金術で作った薬で救ってやったことがあるという話は、ダンビエールさんのお母さんのことだったのか。
「まず最初に、儂らを襲った賊はサトゥルヌス家の手のものらしいのじゃ」
「……なんと、サトゥルヌス家が!?」
「お主ら開戦派の一員……そうじゃの?」
「それは……はい。確かに我らの派閥に数えられています」
そこへリエリーさんが口を挟む。
「ずばりサトゥルヌス家が飢饉を起こそうとしていると言ったら信じますか?」
「……飢饉を?」
リエリーさんが昨夜、私達に披露した推理をダンビエールさんにも教える。
すると、ダンビエールさんは黙り込んでしまった。
「……どうじゃダンビエール。お主の共和国との外交を見直すという策に飢饉まで案に入っておったかの?」
「……それは……いいえ、多少の戦争用品を始めとした物価の高騰は已む無しと考えてはいましたが、まさか食糧政策を担当するサトゥルヌス家がよもやそれを利用して飢饉を起こして大儲けしようと考えているとは……」
「ふむ、どうやらサトゥルヌス家に良いように使われたようじゃの! ダンビエール、いま引き返すならば良し、そうでなければ凄まじい国難がアレーリア王国を襲うじゃろう。飢饉と共和国との戦争を同時になど、到底国が保たんぞ?」
「……分かりました。議会での態度を改めましょう。
しかし、私だけの意見で開戦派全体を動かすことができるとは思わない方がいい……」
「どうしてでしょう? オーベル家が開戦派の旗振り役なのでは?」
私が問うと、ダンビエールさんはゆっくりと話し始める。
「……それはそうだが、私は自派閥を肥やすことに躍起になりすぎた。
開戦派をやっているのは実のところ、押し切られたからに過ぎないのだよ。恐らくはサトゥルヌス家を始めとした元々の魔族領に対する開戦派に言い様に使われていたということなのだろう……」
ダンビエールさんは額に右手を当てると、首を横に振った。
「つまり……開戦派の動きは止めようがないと……?」
私が呟くと、オーベル家の執事がダンビエールさんの元へとやってきた。
なにやらダンビエールさんに耳打ちする執事さん。
「なに!? リオネスベルクで小競り合いがあっただと!?」
とダンビエールさんが声を荒らげた。
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