113 盗賊スキル持ちの襲撃 その2

 貴族街。貴族門を「緊急事態です!」と急いで抜けて着くと、レアさんの邸宅は既に盗賊スキル持ちに襲撃されたあとのようだった。

 玄関ドアが開け放たれている。


 しかし――、


「――ぐわあああああああああああ」


 という男の叫び声がレアさんの邸宅から鳴り響いた。

 ツバキさんが付いているのだからレアさんやその家族は安心だと思いながらも、私は放射状にレアさんの邸宅へ向けて鑑定を展開する。


 ある者は死亡……そしてある者は気絶と凄惨な現場となっているようだ。

 しかし、死んでいるのも気絶しているのも盗賊スキル持ちだった。

 やはりツバキさんが付いていたからレアさんたちは無事なようだ。


 レアさん達を感知した大部屋へと入る。


「レアさん! ツバキさん! ご無事で!?」


 私が叫び、味方の安否を気にすると、ツバキさんが「なんじゃ、来たのか!」と私達に声をかけた。


 レアさんとその家族、使用人らしき人たちがツバキさんの背後で丸まっていた。

 部屋にはツバキさんが仕留めたと思しき、盗賊スキル持ちの遺体やら生体やらが散乱している。

 どうやらここは食堂のようだ。料理こそ運び込まれていなかったが、帰った直後を襲われたのだろう。


「はい。私達も襲われまして、その内の一人からこちらも襲われていると聞き出しまして……」

「そうか。まぁ大丈夫じゃ。それほどの手練はおらんかった!」


 ツバキさんは槍を二本持っている。

 右手に長槍、左手に短槍。双槍術で敵を倒したのだろうか。


「双槍術ですか……?」

「そうじゃ! 人質を取られぬように間合いを取りたかったのじゃ!」


 言いながらツバキさんは長槍を空間へと収納する。

 そして短槍のみを左手に、気絶しているうちの一人のもとにしゃがみ込んだ。


「おい! 起きるのじゃ! 死んでもらっては困る。お主が襲撃犯のリーダーじゃろう!」


 ツバキさんが男を平手で打つと、男が目を覚ました。


「ひぃ! 頼む! 助けてくれ! なんでもやる! なんでもやるからゴハアァ」


 男が血を吐いて咳き込む。


「さっきお主の右肺を突いた。放っておけば窒息死するじゃろう。治療魔法をかけて欲しければ吐くんじゃ!」


 短槍を突きつけて男を脅すツバキさん。

 男はしばらく咳き込むと、「分かった、何でも話す!」と言った。


「まずお主達をけしかけてきた貴族の名じゃ! 名はなんと申す! ダンビエール・オーベルか?」

「ダンビエール……? いや違う、俺たちを雇ったのはサトゥルヌス家の人間だった……」

「サトゥルヌス家じゃと? 嘘を吐くな! 王都では専ら食糧政策を担当する争いごととは無縁の家系のはずじゃ!」

「いや……間違いないサトゥルヌス家だった……本当だ。許してくれ……」

「ふむ……嘘はついておらんようじゃの。ではお主たちの棲家はどこじゃ!?」

「東の森の……ゲフンゲフン……岩場にある洞窟だ」

「儂とその仲間を狙った輩以外に、棲家に仲間はあと何人おる!?」

「10人だけ残してきた……本当だ……! 頼む……! ゴホッゴホッゴホッ……!」

「……良かろう」


 ツバキさんはそう言うと男に右手を当てると、治療魔法を施した。

 緑色の光が男の体を包み込む。


「完全には直しておらん。せいぜい衛兵が来るまで大人しくしとるんじゃな」


 ツバキさんが言った直後のことだ。

 貴族街門で私達をなんとか通してくれた衛兵が、私達の後を追って数人でやってきた。


「これは一体全体、どういうことだ!?」

「こやつらは盗賊じゃ! 盗賊スキル持ちだから鑑定するといい」


 ツバキさんに言われ、鑑定持ちが鑑定を実行。

 まだ生きている者が盗賊スキル持ちであることが判明する。


「だがしかし、どうして盗賊がこんなところに……!? どうやって貴族街門を通ったというのだ!」

「主らは貴族の馬車を検分しないで安易に通し過ぎじゃ。大貴族の物は特にそうじゃ!

 とにかく、こやつらの処遇は任せたぞ!」


 ツバキさんが言い放ち、門から来た衛兵に盗賊たちが引き渡された。

 生きているものから順々に運び出されていく。


「しかし、まさか今日にも仕掛けてくるとはの! 儂はてっきり暫くの間、監視でもされるのかと思っておったのじゃが……どうやら敵は相当に焦っておるらしいのぅ。

 それに関わっておった貴族がオーベル家の者ではなく、サトゥルヌス家とは……」


 ツバキさんが考え込む。


「サトゥルヌス家とは一体どのようなお家なのでしょうか?」

「うむ。サトゥルヌス家は代々この王都で食糧政策を専門としておる。配下にはミドリー家やコムギー家などがあって、アレーリア王国の農村をまとめあげておるのじゃ」


 ミドリー家にコムギー家……。私はその名前を聞いたことがあった。

 今日、午後に受付業務で東の森の野盗討伐依頼の受諾を受け付けたのがクワランド・ミドリーさんだ。野盗とはまさに私達を襲ってきた盗賊スキル持ちだろう。

 サトゥルヌス家が野盗と裏で繋がっていたとなると、クワランド・ミドリーさん達パーティはどうなったのだろうか? もしや口封じの為の野盗討伐なのか。あるいは何も知らされていないのか。どちらにせよ心配だ。


「しかし、食糧政策がご専門の貴族が何故私達を……?」

「開戦派ということじゃろう。きっと戦争用品を裏で買い占める傍ら、食糧も買い占めておったんじゃろうて。それならばサトゥルヌス家が関わっておるのも納得できる。

 レア、お主は食料価格の高騰に関してはなにか掴んでおらんかったのかえ?」

「いえ……確かに多少高騰していますが、市場から食糧が消えるというほどではありません」

「ふむ……」


 ツバキさんが再び考え込み、リエリーさんが「私、分かりました!」と魔女帽子を深く被る。


「恐らくはリオネスベルクでは、二つの使節団がかち合ったことで食糧が絶望的に不足しているはずです。足りなくなった食糧を他地方から寄せ集めるでしょう。そうなれば、食糧を買い占めていたとすれば莫大な利益を生み出せるはずです。

 ましてや戦ともなれば更に食糧難は進みますから、開戦非開戦のどちらに転んだとしてもサトゥルヌス家は大儲けというわけです! 如何でしょう!?」


 リエリーさんが推理を披露する。


「なるほどのぅ……戦争用品だけではなく、生きるのに必須の食糧を買い占めておるのか……であるならば各地で飢饉の発生が危惧される大変な事態じゃ……リエリーの推理は当たっておるかもしれんのぅ。こうなってくると、ダンビエールのやつは良いように使われておるだけなのかもしれんの……」

「では……私達はどうすれば?」


 私が聞くと、リエリーさんが「ティーナさんにお話を通して貰いましょう。ダンビエールさんを説得するのです!」と閃いたように言った。

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