112 盗賊スキル持ちの襲撃 その1

 冒険者ギルドを出てレアさんツバキさん達と別れ、宿への帰り道。

 私は鑑定索敵を常に展開しつつ警戒を怠らないことにした。

 さきほどから6人が私達を付けてきている。


「リエリーさんネルさん。6人に付けられているようです。何も無ければ良いのですが、一応警戒を……!」

「はい。分かりました!」とリエリーさん。

「うーん街中じゃ炎魔法バンバン打つわけにも行かないしどうしよっか?」とネルさんは困惑している。


「もし仕掛けて来た場合、ネルさんは自身にファイアウォールの炎壁を展開して自衛をよろしくお願いします。賊は私とリエリーさんでなんとかしますから」

「はい……せっかくツバキさんに教えて頂いた特級片手剣術もまだ習得には至っていないと思いますが、さすがに上級冒険者に匹敵する手練を送り込んでくることは少ないでしょう! 私でも十分お役に立ちます!」


 リエリーさんが自信を見せた。

 その時だった。

 ネルさんを狙ったのか、街角から吹き矢が放たれる。

 私はそれをすぐに感知すると、ミスリルの大剣で弾いた。


「何者ですか! 姿を表しなさい!」


 そう言うと、ゆっくりと賊たちが姿を表した。


「お嬢ちゃん達……何者か知らねぇが不味い人を怒らせちまったみたいだな? 悪いことは言わない。抵抗しなけりゃ命は助けてやれる」


 男の内の一人がそう言って自身が右手に持つ得物の曲刀を光らせる。


「話し合いの余地はなさそうですね……ネルさん手筈通りに!」

「はい! ファイアウォール!!」


 ネルさんは自身の前方3方向へ炎の壁を展開した。

 これで吹き矢からは守られるだろう。


「リエリーさん。吹き矢に狙い打たれないように動きを止めないように!」

「はい! 任せてください! エンチャント!!」


 リエリーさんも自身のミスリルの剣に炎魔法を宿らせる。

 真っ赤に燃えるミスリルの刀身。


 先に動いたのは私だった。

 曲刀の男の真横へと素早く移動すると、ミスリルの大剣の峰で薙ぎ払った。

 男は右手の曲刀でそれを受けることには成功したものの、ゴリっと嫌な音を立てて左腕ごと私に薙ぎ払われる。左腕が折れたらしい男が悶絶する声を上げた。

 まず一人!


 そこへ吹き矢が再び今度は私を狙って放たれた。

 私はそれを大剣で叩き落とすと、吹き矢を打った主へと神速で迫った。

 リエリーさんやネルさんの心配がある、早い内に遠隔攻撃持ちを倒しておきたい。


 吹き荒れる風の嵐。その急速な接近速度に恐れをなしたのか、吹き矢の主は「ひぇっ」と声を上げる。

 そこを思い切り大剣の峰で吹き矢の筒を狙って叩くように斬リ上げた。

 鈍い小さな音がして、男の手首があらぬ方向へと曲がる。

 そして吹き矢の筒は遠くへと吹っ飛んでいく。


「ぐぁああ」と嗚咽を漏らす男を放置して、再びリエリーさん達の元へと神速で戻る。


 リエリーさんが男二人を相手に苦戦していた。

 そして更にもう二人の男が迫らんとしている。

 囲まれたらリエリーさんと言えどもひとたまりもない。

 私は神速でリエリーさんに迫っていた男達の背後へと接近すると、その横っ腹めがけて峰で痛烈な一撃を二度放った。

 私の神速からの大剣攻撃に為すすべもなく倒れる賊二人。


「リエリーさん遠隔攻撃の主は仕留めました! あとはその二人です!」

「はい! はああぁあああああぁ!」


 リエリーさんが渾身の一撃を放ち、相手取っていた一人の男の胸を袈裟斬りにする。

 少なくない血しぶきが上がり、炎魔法のエンチャントによってその血潮が蒸発する音が辺りに響く。


「さぁ、どうしますか! 私はセーヌさんのように手加減は出来ませんよ!!」


 私とリエリーさんの二人に囲まれた残り一人の男は、「参ったぁ! すまねぇ助けてくれ!」と得物を地面に落とした。


「おい! 馬鹿野郎!!」


 片腕を私に折られて悶絶していた男が、得物を捨てた男を叱責する。


「だってよ! こいつら強すぎるだろ! 特にその女なんて速すぎて見えやしなかった!

 きっと超級冒険者か神級冒険者だぞ!?」


 私は曲刀を持ちまだ抵抗を諦めていなそうに見える男へと言った。


「これ以上続けるのであれば加減はしません!」

「くぅ……ずらかるぞ!」


 逃げていく曲刀の男と角にいた吹き矢の男。

 私に横っ腹を叩かれた二人の男は意識を失っているようだ。

 得物を捨てた男も逃げ遅れている。


「へへ……じゃあ俺もこの辺で……」

「待ってください!」


 リエリーさんが剣を得物を捨てた男へと向ける。

 赤紫色の炎がリエリーさんの剣に爛々と輝いている。


「誰の差金か吐いてから帰ってください!」

「とある貴族だ……! それだけで勘弁してくれ!」

「やはり貴族が……」


 私は左手を顎に添えて考え込む。


「私達の他には誰を狙いましたか……?」


 リエリーさんが男に剣を突きつけて聞く。


「冒険者ギルドマスターの家へもう一つの一団が貴族馬車で向かった……!

 場所はこの地図の通りだ! 俺が知ってるのはこれだけだ! 頼む許してくれぇ!」

「良いでしょう……! さぁ行きなさい!」


 リエリーさんが剣を下ろすと、男は一目散に逃げていった。


「ネルさん、ファイアウォールを解除しても大丈夫です」


 男たちが居なくなったのを確認して私がネルさんに告げる。

 ネルさんはファイアウォールを解除すると、その場にへたり込んだ。


「どうなるかと思いましたぁ……こんな街中で攻撃系の炎魔法を使うわけにも行きませんし……」

「セーヌさん、レア・ライネさんのお宅に向かいましょうか?」

「そうですね……心配です。急ぎましょう」


 私達は男の置いていった地図を頼りに、貴族街にあるレア・ライネさんのお家へと急いだ。

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