111 議会
議会はダンビエールさんの議題を聞くこととなった。
「皆も知っているように、我々は共和国ライエスタとは隣国同士ながら敵対せずにこれまでやってきた経緯がある。だがしかし、全ては我が国の仇敵たる魔王擁する魔族領という敵があってこそ、共和国ライエスタとは無難な外交が続いてきていたということに過ぎない。
ここ最近、魔族領との停戦や和平を求める声がニール王とレイナ姫によって齎された……仇敵がいなくなったのであれば、我々はこれまで魔族領との戦いがあるからと無難な外交をしていた共和国にもっと強く出て然るべきだろう! 幸いにも今年は十数年に一度の共和国ライエスタからの使節団が訪れる年だ。また既にリオネスベルクには共和国を迎える使節団を送り込んでいるのは皆も知ってのとおりだ。私はこの機会に共和国ライエスタとの関係を改めるべきだと考えている! 皆の者はどうか!」
ダンビエールさんによる演説のような議題提起が終わり、ダンビエールさんが席に座った。
「よく言うのぅ。関係を改めるどころか、開戦しそうな気配を纏った使節団を送り込んでおいて……」
ツバキさんが小声で言う。
しかし、やはりライエスタとの開戦をダンビエールさんは望んでいるのだろうか?
それとも既に動かしてしまっている武装使節団がいる手前、強気に出ているだけで、実は自勢力の抑えが効かなくなっているのか、どちらかは読めない。
「ダンビエール・オーベル殿の議題に意見のある者はいるか」
議長が進行し、ツバキさんが手を挙げる。
「これはこれは……天狐ツバキ殿! ご意見を伺いましょう」
議長に指名され、ツバキさんが立つ。
「うむ。端的に言って、儂はアルベルトの倅の意見には大反対じゃ! ダンビエールは無難な外交をしてきたと言うが、そもそも中央山脈が二国間を遮っていて、基本的に国交も玄関口のリオネスベルクを通して限定的にしか行われて来なかったというだけのことじゃ。
それしか国交を持たなくても仲良くやってきたのじゃから、今更にその態度を大きく変えようなどと、愚かな行為じゃと断言できる!
良い機会じゃから儂からも言っておく!
儂は冒険者ギルドからの依頼を受けて、ここ王都アレリアでの共和国及び魔族領に対する開戦派の動向を探っておる! 冒険者ギルドは安易な国家間の闘争を決して容認はせぬ! もし開戦などという愚行が試みられた場合、各国の冒険者ギルドはアレーリア王国の敵となることを理解せよ!」
ツバキさんが大きな声で言い放った。
ダンビエールさんを見ると、彼もさすがに苦い顔をしているようだ。
「天狐様ありがとうございました。それでは他に意見のある者はいるか?」
議長が意見を募る。
しかしダンビエールさんの議題に対して、ツバキさん以外に意見のあるものはいないようだった。
「それではダンビエール殿の議題に対する決を採る! 共和国ライエスタに対する外交的態度を改めるべきと思うものは挙手を……!」
議長の採決に少なくない人数が手を挙げる。
ダンビエールさんは既にたくさんの開戦派の貴族を取り込んでいたということだろう。
挙手した人数は過半数に迫らんとしているほどだ。
集計を担当する役人が挙手を数え、ツバキさんが「やはり人数をそれなりに集めておったか……」と呟く。
そして集計が終わった。
「集計の結果……賛成多数! ダンビエール殿の議題が採択されることとなった!
では続けて、どのように共和国ライエスタへの外交態度を改めるかについての協議に移る! 意見のあるものは!」
議長の呼びかけに多くの人が手を挙げる。きっとその殆どが開戦派だろう。
私はニール王を見やる。王としてこんな事態を見逃して良いのかと。
しかしニール王は頬杖を突いて事態を見守っているのみで、これといって意見しようと考えている態度には見えなかった。
そうして開戦派の意見を多く受け、議会は進んでいった。
∬
「お疲れ様でした天狐様」
議会から戻り、冒険者ギルドのギルドマスター執務室で私はツバキさんを労う。
「はぁ……なんとか開戦とまでは行かないよう反対することには成功したわけじゃが、リオネスベルクからの報告を待って、明日以降も対応を継続審議することにはなってしまったのぅ。まだ気は抜けんぞ……」
ツバキさんが椅子に背を預けながらため息を吐く。
「今日の様子からして、ツバキさんが居なかったらきっと今日にも開戦の運びとなってしまっていたでしょうね……!」
リエリーさんが指回しをゆっくりとしながら指摘する。
「うむ。そうじゃな。思っていたよりも相手方の動きがずっと早かったようじゃ……それと、のうセーヌ……気付いておったか?」
「はい?」
私はツバキさんの言わんとしていることが理解できなかった。すると「お主は鑑定もSランクなんじゃろ? 鑑定してみぃ」と言うので私は鑑定してみることにした。
元素を薄く周囲に散布していく。
リエリーさんやネルさん、周囲にいる冒険者や王都民が次々に鑑定索敵に引っかかっていく。
そして私は暫くして鑑定を終えた。
「これは……盗賊スキル持ちが十数人、王都に紛れ込んでいるようですね……」
「ほぅ……帰り際からちょろちょろと千里眼で見えておったが、盗賊とはの」
それも冒険者ギルドの周囲を囲むように盗賊スキル持ちは配されていた。
「これはまさか……!?」
「うむ……恐らくは開戦派の手先じゃろうて」
「なんと……!」
レアさんも驚いて声を上げる。
「ではすぐに門番の兵を呼びましょう!」
レアさんがそう提案する。
「無駄じゃよ。門をスルーして入ってきているということはじゃ、貴族の息が掛かっていると見て間違いないじゃろう。どうせ馬車かなにかで鑑定を回避しつつ入ってきたんじゃろうて。そんな奴らを門番の兵に差し出したところで、開戦派の貴族らがなにかしら理由を付けてお縄を回避するに違いない」
「ではどうすれば……」
レアさんが困惑している。
無理もない。盗賊スキル持ちがこうも堂々と王都内に潜り込んでいるのだから、何をされるのか分かったものではない。
「あちらの動きを待つしか無いの。レア、しばらくの間、儂はお主の家に泊まるぞ。開戦すれば冒険者ギルドは敵に回ると宣言してきてしまったからのぅ」
「はい……よろしくお願いします」
「セーヌ、主らも宿へ戻れ……今日は相手方の出方待ちじゃ!」
「はい」
返事をすると解散となった。
私達3人は商人生産者区の宿へと向かうことにした。
夜道は盗賊スキル持ちになにをされるのか分からない。
こんなことならば中央通り沿いの人気の多い宿を取っておけば良かったと、若干後悔する私だった。
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