110 Interlude3 リオネスベルクで開戦派の動向を探る その2

 リオネスベルクに着いて1週間経った。

 セーフガルドからの早馬は私達に遅れること30分でここリオネスベルクにも到着した。

 あちらは私達よりも1時間先にセーフガルドを出て、馬を交換しつつ来たはずだ。それでも名馬との差は覆し切れなかったようで、私達よりも遅れたのだろう。


 せっかく着いた早馬の報せも冒険者ギルドマスターのミランダさんが握りつぶすと、共和国ライエスタの首都レイクスタットまで急ぐよう早馬の業者に伝えた。ここからは中央山脈を超える為の登山が必要になる。早馬業者でも急いでもレイクスタットまで3日以上かかるという。


 ことが着々と進んでいく中、私達もリオネスベルクの酒場などで情報収集にあたった。


「使節団の指揮官はアルベール・オーベル。王都アレリアから来た貴族……ここまでは間違いないでしょう」


 冒険者ギルドマスター執務室で、ナミアが使節団の指揮官の名を上げる。


「はい。街の教会にも確認を取りました。どうやら敬虔な光神サーミュエルの信徒なようです。こちらへ来てからというもの毎日のように通っているのだとか」


 ソラが情報を補足する。

 いつもならばこの後に賢者のユリアスが情報を分析するのだが、残念ながらユリアスはいまはいない。私達は話し合いでこれからの行動を決定することにした。


「ひと目見て明らかに武装してることは間違い有りません。他にも戦争用品を多数持ち込んでいます。ミスリルやオリハルコンといった魔法金属の武具類に、魔法使いの換えの杖すら街からは在庫がなくなっているようです」


 ナミアが使節団の武装具合を報告すると、ミランダさんが「そう……けれど問題は食糧ね……」と嘆いた。


「フランシュベルトへは食糧の支援頼んでみたの?」

「えぇ……ゼフさんに連絡したら、多少は倉庫の在庫を送ってくれたわ。

 けれど結局のところ、仕入先はここリオネスベルクとさして変わらない。

 イアさん、あなたの故郷のディッセントブルクみたいな西部地方の農村から仕入れているのがほとんどよ。だから急に生産量を増やすことはできない」

「まぁそだよねー。農民も全部売ったら食いっぱぐれちゃうしね」

「フランシュベルトからの分で多少ギルド倉庫から支援はできるようになるでしょうけれど、それでも共和国からの使節団が来た場合、その全ての食糧をまかない切れるとは思えないわ」

「共和国の使節団がライエスタを出る前に早馬が届いていればおけかな?」


 私が聞くと、ミランダさんが首を横に振った。


「十分な準備をしてきていたとしても、過酷な中央山脈を超えるのに消費しないわけがないもの、やはり食糧の心配はしなければならないわ。

 セーフガルドやサウスホーヘンにも念のために食糧支援を要請する早馬を出したから、そろそろ食糧が届き始める頃だとは思うのだけれど……とても十分とは言えなさそうね」

「うーん、むっずかしいなぁ」


 私は食糧危機解決の難しさに唸り声を上げた。

 戦えばいいというならば簡単だったが、それでは解決に全くならないのが困る。


 私がなんとかならないか考えていたところ、ギルドマスター室のドアが開け放たれた。


「お母さん! ライエスタからの使節団が来たみたい!」


 ミーナちゃんが飛び込んで来てそう告げた。


「嘘……! 早すぎるわ……ライエスタは一体何を考えているの? 早馬は使節団が出る前に間に合わなかったのかしら?」

「いいよ、私達がちょっくら聞いてくる?」

「えぇ……よろしくお願いできる? イアさん」

「おっけ、かしこまり! 行くよソラ、ナミア!」


 私達は共和国から来たという使節団の元へと向かった。




   ∬



 リオネスベルクに着いたばかりらしい共和国ライエスタの使節団が、街の北口に陣取っていた。まだ陣を敷ききれていないらしく場は混乱していた。

 正面の南口に王都アレリアからの使節団が陣取っているのだから無理もないけどね……。


「冒険者ギルドからの依頼できましたー。指揮官とお話できるかにゃ?」


 陣の入り口に立っていた使節? の内の一人に話しかける。

 こちらの使節団もやはり使節とは思えないくらいに重武装だ。

 入り口に立っていた使節は重鎧を着込んでいた。


「なに? 冒険者ギルドから……? 少し待て……!」


 待たされること数分、「入れ」と言われて共和国ライエスタの陣へと入っていく私達。

 天幕の中へと案内されると、指揮官らしき女性がいた。

 これまた鎧を着込んでいる別嬪さんだ。


「ふむ……冒険者ギルドの依頼で来たというのはお前たちか?」

「うんうんー。ちょっと聞きたいことがあってね」

「そうか。私は使節団の指揮を任されてきたライラだ。

 それで……? 聞きたいこととはなんだ?」

「私は上級冒険者のイア! まず第一に、セーフガルド冒険者ギルドから早馬がレイクスタットへ届いたと思うんだけど、それを確認しているかってことかにゃ?」

「……あぁ、それは確認している」


 にゃんと、確認してるのかー。

 じゃあある程度準備してから来たってことでおけかな?


「じゃあ事の委細は承知済みってことでおけだよね? なになに凄い重武装っぽいけど、あっちとは戦争しに来たの?」

「……そうではない。我々は、ただアレーリア王国側が武装した使節団をライエスタとの国境付近であるここリオネスベルクに送り込んでいると聞いて、ただ急いでやってきたまでだ」

「ふーん、んじゃ聞くけど食糧の備蓄はどのくらい?」

「それは答える訳にはいかない。だが十分に準備はしてきた。十数年に一度の使節団を送る年が今年だったというのもある。事前に準備もしていたからな」


 ライラさんは腕を組んで答える。


「んじゃ単刀直入に言っとくね。あちらさんは食糧を買い占めてる。持久戦をするにしても食糧争奪戦になるよー。冒険者ギルドとしては各地から食糧をかき集めてはいる。いるけど、足りないって感じかなー」

「……そうか。私達としては、補給無しに王都アレリアまでは保たない。

 それに武装使節団を前に置かれたまま、そのまま見過ごして王都アレリアに向かうこともしない。あちらはこちらと話し合う気はないのか?」

「さぁね……どうもそういう気はなさそうってだけで、私達も試したことはないけど」

「そうか……ならばまずは試して見るとしよう。おい!」


 ライラさんは部下を呼んだ。


「はっ!」

「あちらの使節団に話し合いを設けたい旨を伝えるんだ。取り敢えずはそれだけでいい」

「はっ! 了解しました!」


 呼ばれた部下が去っていく。

 これで話し合いの場を作ってくれればいいんだけどね……。

 私はあまり期待せずに事態を見守ることにした。

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