108 議会場へ

「おぉ、帰ってきておったかセーヌ」


 冒険者ギルドでツバキさんが私達を見つけて声をかける。


「セーヌ、リエリー、ネル。早速じゃが議会へ乗り込むぞ!」

「はい? 議会への申請手続きはよろしいので?」

「それがの。受け付けることには受付たんじゃが、最初、二週間先になるなどとのたまいおった。じゃからこれまでどれだけ儂に世話になったかを叱りつけて緊急の用じゃと伝えたら、今度は午後にすぐに来いと言い出しおっての!」

「それは随分と急ですが、さすがは天狐様ですね……議会に顔が効くというのは本当なのですね」

「うむ、まぁの! さぁ、行くぞ!」


 ツバキさんはフードを被ると、私達を先導して行く。

 私達はすごすごとその後に続いた。


 貴族街門をツバキさんの顔パス同然に何の問題もなく通り抜ける。

 そして貴族街の大通りを真っすぐ進んで王城区へと繋がる門に辿り着いた。

 それまでと違い、王城区の守りはただの兵士ではなく王都騎士団が担っているらしい。

 鎧を着込んだ騎士たちが守っていた。


「止まれ!」


 二人の騎士が互いの槍を交差させて私達の進路を阻む。

 そして三人目が私達に問うた。


「何をしに王城へきた?」


 その問いにツバキさんが再び「儂じゃ儂じゃ!」とフードを取る。


「……これはこれは天狐様、どのようなご要件で?」

「うむ、議会へ用じゃ。話を聞いておらんかえ?」

「こちらでは何も……確認を取らせていただきますが、よろしいですか?」

「うむ。はよう頼むぞ」


 話をした騎士団員は詰め所へと向かうと何やら魔導具で通信をしている。

 フランシュベルトでは街中で使えた通信の魔導具を、どうやら王城内だけで活用しているらしい。


 確認が取れたのか、すぐに騎士団員が私達の元へと帰ってきた。


「失礼致しました。議会場までお通しするよう言われました。どうぞお入りください」

「うむ」


 騎士団員が私達を案内してくれるようだ。

 道すがら、私はレェイオニードさんについて聞くことにした。


「すみません。レェイオニードさんは勤務中でしょうか?」

「副団長殿ですか……? 失礼ですが、どのようなお知り合いで?」


 私はフランシュベルトでレイナ姫の護衛としてご一緒したことを話す。


「そうでしたか……副団長殿は、現在レイナ姫様のもとで護衛に当たっています。ですからちょうど今は姫様の居室付近に控えているかと……」

「そうでしたか……ありがとうございました」


 王城にいるというならば折を見てお話することができるかもしれない。

 そう思っていると、議会場の入り口へ着いたようだ。


「こちらで武器の類は全てお預かりします」


 言われ、私は大剣を、リエリーさんは剣とナイフを数本、ネルさんが杖を預ける。

 そうして、私達は議会場へ通された。


 フランシュベルトの円卓の間よりもかなり大きい。

 中には既に貴族たちが大勢集っていて、向かい側には冠を被った王らしき人物がいた。

 私達の入場に、大勢の貴族たちが振り返って私達を見やる。

 ざわざわとした話し声が議場を支配する。


「静粛に! 静粛に!」


 議長らしき男が木槌を叩き静寂を促す。


「どうぞ、こちらへ」


 私達は執事らしき男性に案内され、議会場の隅の使われていない席へと腰を落ち着けた。

 どうやら順番が来るまで待っていろということらしい。


「では緊急の議題に移りたいと思う」


 定例らしい議題はどうやら終わったようで、議長がそのように口にした。


「まず始めに、ダンビエール・オーベル殿の議題だ」


 議長に指名され、ダンビエールさんらしき貴族が立ち上がる。

 まずい……。先にダンビエールさんの議題が審議されるとは思っていなかった。

 ツバキさんを見やると「まずいのう」と一言小さく発した。


「ご指名に預かり恐縮です。

 皆に今日審議して貰いたいのは、北の隣国、共和国ライエスタとの関係についてだ」


 ダンビエールさんが堂々と議題を口にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る