107 王都の依頼

 それから、ツバキさんがレアさんと議会へ乗り込む手続きをする間、私達3人は一度宿へ戻りお風呂へと入った。そして商業生産者区にあった屋台で軽く串焼きを食べてお昼を済ませると、再び冒険者ギルドへと顔を見せた。


「そう言えば依頼掲示板をまだ見ていませんでしたね。見てみましょう」


 私がそう提案すると、リエリーさんとネルさんが「そうですね」と私に続いた。


・Fランク依頼:貴族街の清掃依頼。

・Bランク依頼:貴族への元素魔法指南依頼。

・Bランク依頼:セーフガルドまでの荷物運搬依頼

・Aランク依頼:東の森の野盗討伐依頼。

・Sランク依頼:天山での天桃の採集依頼。

 etc……。


 他の街では余り見ない依頼が街の清掃依頼だ。

 街に住む人々が普通率先してやるので、依頼として成立しないのだが、しかし貴族街となれば話は別だ。貴族が使用人を雇ったりするのと同じ感覚で、冒険者を雇って街の清掃をさせているのだろう。まぁそれだけでは王都で食べていくのもままならないレベルだろうが、無いよりはマシな依頼だろう。

 東の森で野盗が出ているのか……それは早めに討伐した方が良いだろう。

 天山の天桃の採集依頼……事前に受けておけば良かったと深く後悔した。きっとツバキさんに聞けば簡単に見つかっただろう。

 セーフガルドまでの荷物運搬依頼はきっと私が出した依頼だ。

 良い人に依頼を受けてもらいたいものだ。


「元素魔法の指南依頼……気になります! 一人で行動している時に受けたいですね!」


 ネルさんが魔法指南依頼への興味を覗かせる。


「はい。私も貴族の方への元素魔法指南は気になります」


 依頼ランクがBということは、上級冒険者以上を指定しているということだろう。

 一体どんな魔法を教えろと言われるのだろうか?

 またどんな貴族が教えを請うてくるのか、興味が尽きない。


 私達が依頼掲示板を物色していると、「邪魔だ、受ける気がないなら退きたまえ」と背後から声をかけられた。背後を見やると、きらびやかな装備から明らかに貴族であることを思わせる冒険者の男が私達を見て怪訝そうな顔つきをしていた。


「はい。申し訳有りません……」


 言いながら退く私達。


「ふん。見ない顔だな? 王都は初めてか?」

「はい。先日初めて王都へと来ました」

「そうか。私は上級冒険者のクワランド・ミドリーだ。せいぜいよろしく頼む」

「ご丁寧に……特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌと申します」


 私が名乗ると、奇異の目を私へと向けてくるミドリーさん。


「ほう……特級冒険者か。聞かぬ名だな? 冒険者ギルド受付もしているのか?」

「はい。ご指名であれば、依頼の受諾を受け付けますが……?」

「ふむ……それではこれを頼む」

「はい」


 私は受付へと回ると、ミドリーさんの依頼を見た。


「東の森の野盗討伐依頼ですか……? まさかお一人で?」


 私が眉をしかめて問う。


「いや、パーティメンバーがいる。私の他に上級冒険者が1名に中級冒険者が1名の計3名だ」

「……」


 私は貴族に対して非礼に当たらないか慎重に言葉を選びながら言った。


「……出来れば他の依頼にあたるのをオススメします。Aランク依頼ですので、最低でも上級冒険者のみで構成されたパーティか。特級以上の冒険者を加えたパーティで臨むことが推奨されます」

「なんだ、私達が受けられない依頼でもあるまい? それとも私達では実力不足だとでも言うつもりか?」

「……繰り返しになりますが、最低でも上級冒険者のみで構成されたパーティで挑むことをオススメします。中級冒険者には荷が重すぎる依頼かと」

「ふん。お硬いな。まるで冒険者になりたての小僧を諭すように言うじゃないか。

 心配は無用だ。私達はこの依頼を受ける! これは決定事項だ。さっさと受諾させたまえ」


 ミドリーさんはそう言い切る。


「……仕方が有りません。ただし私はお止めしました。このことは重々承知した上で慎重に依頼に当たってください」


 私は仕方なく依頼の受諾を受け付けた。

 魔導具を使い、冒険者カードに依頼の受諾を書き込むとミドリーさんへと返した。


「あぁ分かっているさ。忠告、感謝しよう」


 ミドリーさんはそれだけ言うと冒険者ギルドから去っていった。


「セーヌさん……あの偉そうな貴族の相手は終わりましたか?」

「はい。お待たせしてしまい申し訳有りませんでしたリエリーさん、ネルさん」

「いえいえ、指名されてしまったのでは仕方ありませんよ。ところで揉めていたようですが彼らは何を……?」


 リエリーさんが指回しをしながら私に聞く。


「はい。東の森の野盗討伐依頼を……」

「それは……上級冒険者パーティだったのですか?」

「いいえ、一人中級冒険者が混じっているとのことでした」

「それは……心配ですね」

「はい……一応止めはしたのですが、聞いて頂けませんでした」

「そうでしたか……共和国か魔族領と開戦間近だというのに、未だに野盗が野放しになっているあたり、王都周辺の治安は必ずしも良くないようですね。王都の騎士団はなにをしているのでしょう?」


 リエリーさんが指回しをしながら、王都騎士団の職務怠慢を嘆いた。


 王都の騎士団と言えば、レェイオニードさんもフランシュベルトからこちらへ戻っているはずだ。王城で勤務しているはずだから面会申請が面倒だ。しかし勤務を終えれば平民街へと戻ってくるはずなので、あとで話を聞けないか試して見る価値はあるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る