106 ツバキさんを連れて王都アレリアへ

 早朝の修行を終えた私達は、朝ごはんをご馳走になると、天山を降りることにした。

 フレちゃんさんの元へと行く私達4人。


「ほほ! フレイムエンド久しいのぅ! しばしの間乗せてもらうぞ」

「あぁ……久しぶりだなツバキ。任せておけ」


 そうして、私達は再びフレちゃんさんの背に乗り、王都アレリアを目指した。


 1時間ほど飛んだだろうか。王都アレリアが見えてきた。王都まであと2kmほどだろうか。


「フレちゃんさんさすがに門の目の前に降りるのはみなさんを刺激してしまいます。ここら辺で結構ですので……」

「そうか……分かった」


 フレちゃんさんが私達4人を下ろしてくれる。


「それでは、まただセーヌ、リエリー、ネル、そしてツバキ」

「はい。ありがとうございました。

 良い旅でしたフレちゃんさん。またよろしくお願いします」

「私もいい経験をさせて頂きました!」

「世話になったの、相変わらず快適な空の旅じゃった」

「うん、またねフレちゃん!」


 私、リエリーさん、ツバキさん、そして最後にネルさんが挨拶をし、フレちゃんさんは再び空へと舞い上がっていった。


「さて、儂らも行くかの」


 ツバキさんはフードを深く被ると私達を先導する。




   ∬




「止まれ……! あぁお前たちか」


 平民街への入り口の門で私達は先を阻まれる。

 しかし以前入った時に相手をしてくれた主任兵士がすぐに私達に気付いた。


「以前は三人パーティだったか、一人増えているが?」


 怪訝そうに私達を見る主任兵士。


「儂じゃよ!」


 深く被っていたフードを取るツバキさん。


「こ、これはこれは天狐様……! 良くぞ遥々お出でくださりました!」


 ツバキさんを見て、瞬く間に歓迎の顔になる主任兵士。


「特級冒険者と聞いていたが、まさか天山を踏破してきたのか?!」

「えぇ……まぁ。そのような感じです」


 私が答えると、門番の主任兵士は私を見る目の色を変える。


「それでじゃ、通っていいかの?」

「はい! 天狐様方をお通ししない理由がありませんので!!」

「ほほ、そうかそうか! いつもご苦労じゃ!」


 ツバキさんは再びフードを深く被ると、威風堂々、門を超えた。


「相変わらずじゃの、この魔導具は。

 儂に作らせればもう少しマシな物を作ってやるのにのぅ」


 ツバキさんはどうやら鑑定妨害をせずに鑑定を受けたらしい。

 私も再び鑑定妨害を受けずに入門する。

 何事もなく平民街門を通過した私達は、そのまま中央通りにある冒険者ギルドへと向かった。


「レアはおるかの?」

「はい? ギルドマスターですか? あぁ……あなた達は! 少々お待ち下さい」

「うむ」


 受付をしていた女性はツバキさんのことを知らないようだったが、私達を見て先日のことを思い出したらしい。レアさんを呼びに奥へと行く。

 そして数分してレアさんがやってきた。


「セーヌさん達! お戻りでしたか。

 それに天狐様。良くぞおいでになられました。どうぞ奥へお入りください」


 ギルドマスター室へと案内され、私達は長椅子に腰を落ち着けた。


「して……共和国か魔族領との開戦の話、どうなっておるかの?」


 フードを取ると、ツバキさんが情勢を聞いた。


「はい。レイナ姫様とも連携を取ってことにあたっておりますが、依然として議会でライエスタや魔族領との開戦の話は持ち上がっていないようです。しかし、戦争用品の買い占めは相変わらず行われていて、一部の物価にかなりの変動があります。魔法金属や補給に使う魔導具類がかなりの上げ幅となっています」

「ほほ。それは厄介じゃのう。平民にとって保冷の魔導具などの値上げは死活問題じゃ」

「はい。ギルドからも魔導具職人の方に増産を依頼してはいるのですが、なかなか思うようには行っていません……」

「まぁ例えば保冷の魔導具であれば、氷元素力を秘めた魔石を作るのは氷魔法使いでもかなり厄介なものじゃからな。上級以上の魔法使いが一つ作るのに一週間はかかる代物じゃ。簡単に量産できるものではないからのぅ」

「なるほど……」

「そうじゃ魔石と言えばじゃ……! ほれセーヌ、これをお主達にやろう」


 ツバキさんが空間魔法を使うと、そこから魔石を取り出した。

 頭二つ分ほどあろうかというかなり大きな魔石だ。


「あとこれらもじゃな……! 毛皮の方はさすがに使い物にならなんだ」


 と嘴と骨を取り出す。


「これは……まさか死鳥の?」

「うむ、そうじゃ。今朝、お主たちを起こす前にトドメを刺すついでに採取してきたんじゃ」

「私の一撃でまだ死に絶えてはいなかったのですか?」

「まぁの、アンデッド族というものはそういうものじゃから気にするな。動けぬようにはなっておったぞ」

「そうですか……有り難く頂いておきます。リエリーさん、ネルさんこちら私が買い取らせて頂きます。お代はセーフガルドに帰ったあとにお支払いしますね」


 私がそう言うと二人共「了解しました」「分かりましたー」とすぐに返事をくれた。


 魔石は持ち歩くのも面倒なので、冒険者ギルドにセーフガルドまで運搬の依頼を出すことにした。ミサオさん辺りにお土産にすればきっと喜んでくれるだろう。


「レアさん、こちらの魔石のセーフガルドまでの運搬をお願いできますか?」

「はい……ですが良いのですか? こんな上物を。

 依頼料がかかりますし、もしかしたら盗られてしまうかもしれませんよ」

「はい……セーフガルドまで持ち帰るのも面倒ですし……かといって宿屋に預けておいても盗まれる可能性があるのは同じでしょう」

「そうですか……それでは依頼を受けるためにも鑑定させて頂きます」

「はい。では私も……」


 そうして私は魔石を鑑定する。


 【死鳥のコア】

 天山の空域を支配していた死鳥のコア。

 等級値20000。


 なんと……等級値2万とは……。

 死鳥が生きたという300年以上の年月は伊達ではないということだろうか。

 凄まじい等級値だ。


 私は嘴と骨の方も気になったので鑑定する。


 【死鳥の嘴】

 天山の空域を支配していた死鳥の嘴。

 等級値7800。


 【死鳥の尾骨】

 天山の空域を支配していた死鳥の尾骨。

 等級値9500。


 なんと……! こんな等級値の高い素材を何に使えば良いのか皆目検討もつかない。


「等級値2万……! なんと等級の高い魔石でしょう」


 鑑定を終えたらしくレアさんが唸る。


「信頼のおける上級以上の冒険者に護衛をお願いするとして、セーフガルドまで七日分の費用がかかりますがよろしいですか?」

「はい」

「それでは馬車の御者への依頼料として1日700エイダ、護衛の上級冒険者への依頼料として1日2000エイダ。合計で2700×7日で18900エイダになります。

 本当によろしいですか?」

「はい。こちらでよろしくお願いします」


 私は1万エイダ大金貨を二枚、レアさんに手渡した。


「はい。確かに……それでは少々お待ち下さい」


 レアさんは執務室を出ていく。そして直にさきほどの受付嬢を伴って戻ってきた。


「こちらお釣りの1100エイダになります。お納めください。

 運搬場所ですがセーフガルドのどちらになりますでしょうか?」

「セーフガルド東区の外れにあるミサオさんの錬金工房までよろしくお願いします」

「かしこまりました。それでは依頼達成をお待ちください」

「はい。ありがとうございました」


 私がペコリと頭を下げると、受付嬢も同様に頭を下げて部屋を出ていく。


「少し話が逸れてしまったの。共和国か魔族領との開戦の話じゃったか」


 ツバキさんが話を戻すと、レアさんが話し始める。


「はい。セーヌさん達の調査や上級冒険者のティーナ・オーベルさんのお話からして、貴族を動かしているのはどうやら上級貴族のオーベル家だと分かりました」

「ふむ、儂もその辺はセーヌに一応聞いたがの。しかしオーベル家が関わっているのは分かったんじゃが、何故なのか・・・・・については分かっておらんのじゃろ?」

「はい。恐らくは元々魔族領に対しての開戦派が、フランシュベルト帰りのレイナ姫がニール王へ進言したのを機に勢力を大幅に弱体化。そこをオーベル家が吸収したものと思われます。しかし何故そんなことをしているのかについては不明です」

「ふむ。つまり魔族領との戦の準備諸々しておった貴族共を、アルベルトの倅が丸め込んだということかえ?」

「はい。恐らくは……」

「なるほどのぅ。単に自勢力を伸ばしたかっただけかもしれんの。それで抑えが効かなくなった可能性もあるのぅ」

「はい。私もそのように思います!」


 ツバキさんにリエリーさんが同意する。

 それではオーベル家の長兄であるダンビエール・オーベルさんも、何も戦いを望んでいるわけではない可能性もあるのか。

 私は先行きの見えない情勢に一喜一憂しないように頑張って行こうと、話を聞いて決意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る