103 死鳥
私達は前から私、リエリーさん、ネルさんの順番でフレイムエンドの背に乗る。手綱もないので振り落とされたらそれまでだ。
必死で彼女の鱗にしがみつくように座る。
「では行くぞ!」
フレイムエンドが羽ばたき始めた。
猛烈な風元素の乱れ。
それを御するように軽くフレイムエンドが咆哮。
するとその巨体が宙へと飛び上がった。
「天山の方向は……」
リエリーさんが天山の方向を指し示さんとする。しかし――、
「――我を誰だと思っている! 11古代竜が一角、煉獄のフレイムエンドだぞ!
この空で知らぬ場所などないわ!」
フレイムエンドがそう豪語し、高く飛び上がると天山の方角へと加速していく。
その速さはみるみるうちに上がっていく。
馬車の2倍! 3倍! いや――5倍以上の速さだ!!
「この速さならば今日中に天山へ着きそうですね! 凄いです!!」
私が向かい来る凄い風の中言うと、ネルさんが「さっすがフレちゃん! 馬車なんて目じゃないね!! ひゃっほー!!」と、とても嬉しそうだ。
「軽く計算してみましたが、この速さならば午後5時には天山へと着くでしょう。さすがはかの11古代竜が一角、煉獄のフレイムエンド……! その飛行速度を侮っていました……!」
リエリーさんが片手で魔女帽子を抑えつつ言う。
「これはきっと神速を発動していますね……前方にウィンドカッターを展開している気配がありますから」
同じ神速使いとして分かる。
しかし、このままの速度をあと9時間も維持できるのだろうか?
古代竜の体力や元素量ならば可能なのかもしれないが、確認はしておくべきだろう。
「フレちゃんさん! 神速を発動していますよね? 休憩せずにこの速度で天山まで飛行可能なのでしょうか?」
「……あぁセーヌ。問題はない。周囲の風元素力を活用しているのでな。問題は体力だが、天山付近までこの速度で飛んで、およそ7割の消耗というところだ。
しかし――、飛び立つ前に鑑定をして言ったろう。かの空域は死鳥が支配している。
体力の消耗率的に我は余り積極的に戦うことはできぬ。もし死鳥に仕掛けられた場合、そなた達に相手をして貰うぞ」
「
「死鳥はその名の通りアンデッドの鳥型モンスターだ。天山の山々に長く住んだ
「アンデッドですか、であるならば私のアンデッドハンタースキルが役に立つはずです」
「うむ、そうだな……期待しているぞセーヌ!」
「はい!」
私は意気込んで大きな声で返事をした。
∬
フレイムエンドの住まう山を出て8時間。天山が前方に大きく見えてきた。
「まもなくだ。死鳥の支配する空域に入るぞ!」
フレちゃんさんが私達にそう警告。私は球状に鑑定索敵を展開する。
周囲1kmほどに元素を薄く展開すると、その気配が掛かった。
【死鳥】
【アンデッド族。雄】
【天山の主S】、【特級風魔法S】、【特級炎魔法B】、【特級氷魔法C】、【鉤爪A】、【嘴A】、【元素感知A】、【元素操作A】、etc……。
「見つけました。死鳥です! 特級魔法を複数所持。風魔法に至ってはSランクです!
……どうやら鑑定を飛ばしたことで、こちらも見つかってしまったようです。
北方向よりこちらへ向けて、急速に接近してきています!」
「来るぞ! 攻撃に備えろ!!」
フレちゃんさんが攻撃への警戒を呼びかける。
「魔法……来ます!」
私が膨大な量の風元素の塊を探知。
フレちゃんさんが回避行動を取らんとする。
「間に合いません……! このままでは風塊がこちらへ着弾します!」
私が必死に鑑定索敵による戦況を伝える。
「任せてください! ファイアーウォール!!」
ネルさんが前方へ杖を掲げ魔法を発動する。
フレちゃんさんの前方に炎の壁が三枚ほど出来上がった。
その直後、ボフン! と言う大きな音を立てて、炎壁へと風塊が着弾。
炎の壁の内の一枚は風塊と相殺された。
「魔法だけではない……来るぞ!」
フレちゃんさんが私達に警告する。
前方に死鳥が見えた。
その翼と尻尾の一部は肉が落ちて骨が露わになっている。
頭も嘴部分こそ残っているが、顔の半分が骨化していた。
ギロリと骨になっている側の眼に赤い光が輝く。
鳥と言うにはあまりにも悍ましい姿に戦慄する私。
すれ違いざまに私達へ向けて嘴攻撃か鉤爪攻撃を放とうとしている。
動きとスキルからそう判断した私は、必死で勇気を振り絞ってフレちゃんさんの背で立ち上がった。
「セーヌさん!?」
リエリーさんが私の足を捕まえて支えてくれる。
「リエリーさんそのまま支えていてください!」
直後、すれ違いざまに死鳥が予測通りに鉤爪攻撃を放ってきた。
私はそれをミスリルの大剣でパリィ。
ギィギィィイィという凄まじい金切り音がしたが、なんとか受け流すことができた。
私は「ありがとうございました、リエリーさん」と言いながら再び背に座る。
「今度は後方から追ってくるぞ!」
フレちゃんさんの声が聞こえて、ネルさんが杖を後方へ回し振り返りながら、展開している残り二枚のファイアーウォールを後ろへと向けた。
再び、今度は後方から風元素力が集約されていくのを感じた。
「風塊弾、再度来ます!」
私がそう状況を説明すると、フレちゃんさんが「そうそう当たりはしないさ!」と横に旋回すると風弾をすんでのところで回避。
そして次は高層大気から氷元素を集約させた死鳥が、氷弾を放った。
それはネルさんのファイアーウォールで防ぐ。じゅっという音を立てて蒸発する氷弾。
これで展開されているファイアーウォールはあと一枚のみだ!
「これ以上、後ろを取られたまま後手に回っていてはジリ貧だ。仕掛けるぞ!」
フレちゃんさんがそう言って大きく旋回。
再び死鳥を正面に捕えた。
「行くぞ!」
フレちゃんさんが正面に魔法陣を展開。
口を大きく開けると、そこには煉獄のフレイムエンドの名にふさわしい炎塊が現れる。
そしてそれを「はっ!」という声と共に前方の死鳥めがけて発射した。
炎塊は確かに死鳥へと着弾。激しい爆炎に飲まれる。
「やりました!」
リエリーさんがそう喜んだのもつかの間、爆発の中から未だ健在な死鳥が姿を現す。
「ええい、やはり超級炎魔法一発では落ちないか!
もう一度すれ違いざまに攻撃が来るぞ!」
フレちゃんさんが私達に警告する。
しかし、私は一度目で鉤爪攻撃は見切っている。二度目はない!
「リエリーさん、またよろしくお願いします!」
そう言って再度フレちゃんさんの背で立ち上がる私。
周囲の風元素を集めて身体強化を発動。
そして風元素を大剣の刀身にも這わせていく。
「もしあなたが嘴攻撃をしてきたならば良し、もし鉤爪攻撃だったときは……!!」
死鳥が急速に接近してくる。
そしてすれ違いざまに放ったのは、またしても鉤爪攻撃だ!
「それはもう見切っています!!」
私はすれ違いざまに死鳥の鉤爪を弾きつつ、死鳥の右翼へ渾身の縦斬りを放った。
手応えはあった。
死鳥はバランスを崩すと、天山の山頂付近へと墜落していく。
「やった! 今度こそやりました! さっすがセーヌさんです!!」
リエリーさんが私を褒めそやす。
「やったな……! さすがは英雄だけのことはあるなセーヌ」
フレちゃんさんも私を褒める。
「いえ、皆さんのおかげです。さぁ天山へと参りましょう!」
私達も天山の山頂へと降り立つことにした。
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