102 フレイムエンドの山にて
王都を出て馬車で4日。朝7時すぎ。
セーフガルド方面へ南西へと戻った私、リエリーさん、ネルさんの3人は、古代竜フレイムエンドが住まうという山の麓にある村へとやってきていた。
中央山脈に連なるこの標高1600mほどの山の中腹に、古代竜フレイムエンドが住まうという。
「あ! ネル姉ちゃん!」
村の子供がネルさんを見つけてやってくる。
「ネル姉ちゃん、今度は何しに来たんだよ。
古代竜はもう村へは攻撃しないって話だったろ?」
「うん。まぁね。ちょっと古代竜に話があって……」
「へぇ……姉ちゃんが古代竜と友達になったって話はやっぱマジなんだな!
あれから村へも攻撃してきてないしな! すっげーや」
私達は村で水と食料を補給すると、乗ってきた馬車の御者へは帰るよう伝えた。
馬車の御者は「本当に良いんですか?」と何度も確認してきたが、この村で用事があることを伝えるとあまり納得行かない顔だったが去っていった。
「では行きましょう!」
ネルさんの先導で山登りを始める私達。
念のために鑑定索敵を飛ばした。
【古代竜フレイムエンド】
【竜族。雌】
【超級炎魔法S】、【古式炎風魔法A】、【特級風魔法B】、【特級水魔法C】、【上級光魔法B】、【上級闇魔法B】、【古式元素感知A】、【古式元素操作A】、【古式無詠唱魔法A】etc……。
確かに、この山の中腹にフレイムエンドはいるようだった。
その他、細かいモンスターを検知したが、恐らくは問題はないだろう。
1時間ほどして、山の中腹に辿り着いた。
辺り一帯には骨がばら撒かれていて剣呑な雰囲気を感じさせる。
きっと古代竜の餌食になった動物やモンスターなどの骨だろう。
「ここです! おーいフレちゃん! 久しぶり~!」
ネルさんが先へと進んでいく。
すると、竜が寝そべっていた。
大きい……! 私の身長の5倍から6倍はあろうかという巨体だ。
「いたいた! フレちゃんってば返事しないんだもん。いないかと思ったよ」
「……」
竜は返事をしない。目も瞑っている。寝ているのだろうか?
そう思った直後、突如として大気が震えた。
「……ネル。何をしに戻ってきた」
どうやら古代竜が喋っているようだ。周囲の大気を震わせるようなその声にゾクゾクっとしてしまう。
「それがねフレちゃん、実はフレちゃんにお願いがあって」
「願い……?」
フレイムエンドが瞑っていたその眼を開けた。
「そなたの願いは麓の村々を攻撃するなということだったはずだ。それはもう叶えた……他に何があるというのだ?」
「それがさー王都での依頼で、北方の天山に登らなきゃいけなくなっちゃって」
ネルさんはまるで友達に話しかけるかのごとく砕けた感じでフレイムエンドと会話しているが、どんな胆力を持っていればそんなことができるのだろうか。
私は恐怖に震えている。
そして私の横にいるリエリーさんもそれは同じようだった。
「それでフレちゃんに私達を背中に乗せて、天山の山頂まで行って貰いたいんだよ」
「……ふむ」
フレイムエンドは話を聞いて、しばし考えるように再び目を瞑った。
そして数秒してギョロリとその目を私へと向ける。
「先程、神の眼を飛ばして来たのはそなたか?」
「神の眼……鑑定Sのことでしょうか?」
私が答えると、フレイムエンドは「そうだ……」と返事をして続ける。
「であれば我の鑑定を妨害せずに受けよ……そなたらが我の背に乗って天山へと向かう資格があるかどうかを我の鑑定によって確かめよう」
そう言うと、フレイムエンドは鑑定を展開した。
私、リエリーさん、ネルさんと鑑定を妨害せずに受ける。
そして――、
「――ふむ。良いだろう。これだけのスキルを持っていれば天山の空域を支配する死鳥に抗うこともできよう。我一人で勝てぬわけでもないが、なかなかに骨が折れるのでな……」
「え!? ほんとにフレちゃん! ありがとー」
ネルさんはフレイムエンドの首の付近に抱きつくように近づいて彼女を撫でる。
「それで……どうするのだ、いますぐに飛び立つのか?」
フレイムエンドが私達に問う。
「はい。時間が余りありませんので、出来ればいますぐによろしくお願いします」
私が答えると、フレイムエンドは大きくその眼を見開いた。
「……いいだろう。では乗れ! セーヌ! リエリー! そしてネル!
我が背に乗るからには我が盟友となるということだ、覚悟しておけよ!」
「「はい!」」
「うんうん、みんな仲良く行こう!」
私とリエリーさんが元気よく返事をし、ネルさんが嬉しそうに笑った。
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