100 ティーナさんとお話
宿屋でしばらく休んだ後、ギルドでティーナさんと会う6時が迫ってきたので私達は宿屋を出た。王都の夜は意外と静かだった。これは商人生産者街である東区にいるからかもしれない。
実際、中央区の中央通りに近づくほどに喧騒が高まってきた。
しかし、街灯の魔導具こそぽつりぽつりとあるものの全体的に灯りが少ない。
これでは夜中に女子供が出歩くことは出来ないだろう。
魔導具に溢れたフランシュベルトの街とは大違いだ。
「……ティーナさんは来ているでしょうか?」
「王都のギルドマスターであるレアさんが引き受けてくれたのですから、きっと連絡は取れているでしょう。問題は彼女がなんらかの情報を握っているか否かですね」
歩きながらの私の問いにリエリーさんが答え、ちょうど私達は王都アレリアの冒険者ギルドへと辿り着いた。
「すみません、レア・ライネさんはいらっしゃいますでしょうか? セーヌが来たとお伝え下さい」
「はい……セーヌさんですね。ギルドマスターからお話は伺っています。どうぞギルドマスター室へお入りください」
そうして私達はギルドマスター室へと通された。
「あぁ! いらっしゃったようです」
部屋へと通されて私達を見つけたレアさんが声を上げる。
どうやらティーナさんは既に来ているらしかった。
長椅子に腰掛けている女性を見る。
紺色のセミロングに活発そうな水色の瞳をした女性がいた。
「セーヌさん方、こちら上級冒険者のティーナ・オーベルさんです。
ティーナさん、こちらは特級冒険者のセーヌさんとそのパーティメンバーの方々です」
紹介され、ティーナさんが立ち上がる。
「初めまして、ティーナ・オーベルです。上級冒険者をやっています」
「ご丁寧に……初めまして特級冒険者のセーヌです。セーフガルドから来ました」
「まぁ、セーフガルドからですか!? それはそれは長旅ご苦労さまです」
「まぁまぁ皆さん、立ち話もなんですからお座りくださいな」
レア・ライネさんが私達に座るよう促し、私達はレアさんの隣でティーナさんに向かい合うように座った。
「それで、態々セーフガルドから来た特級冒険者パーティが私にどんな御用ですか?」
ティーナさんがその瞳を光らせる。
「いえ、オーベル家の最近の動向について教えて頂けたらと思いまして……」
「オーベル家の……我が家のですか?」
「はい。腹の探り合いをするのもなんですからこちらの持っている情報をお教えします」
そうして私は、王都から武装使節団がリオネスベルクに派遣されていること、そしてその指揮官がオーベル家の次男であるアルベール・オーベルだということを説明する。
「それで……私達は王都における開戦派の動向を探る為にこちらへ来ました。なにかご存知ありませんか?」
「……」
ティーナさんは私達の問いに黙り込んでしまう。
そして確認するようにレアさんを見やった。
それにレアさんがこくりと頷く。
「実は……開戦派の動向を探る緊急依頼がSランクで出されています。王都では信頼のおける特級以上の冒険者にしか開示されていない情報です。ですからこちらのセーヌさん方は信用して頂いて構いません。レイナ姫の意向で動いてらっしゃるそうですから」
「そうですか……では……」
そうしてティーナさんが口を開いた。
「確かに、次兄であるアルベール・オーベルが長兄のダンビエール・オーベルの命令で西方へと向かいました。しかも重武装をして、です。戦争のための装備も多数持ち出していました。ですが、私はてっきり魔族との戦いにフランシュベルトへ行くものとばかり思っていました……」
「では北の国、共和国ライエスタとの戦争ではなく、魔族との戦いに赴いたと……?」
「私はそう思っていた……というだけです。実際にはリオネスベルクに使節団は滞在しているのでしょう?」
「はい。そのように伺っています」
「ご存知かもしれませんが……次兄のアルベールはとても気の弱い人です。戦争なんて以ての外という優しい人です。ですから、もしかして兄の命令に背いてフランシュベルトに行くのを避けて、リオネスベルクに行った可能性もゼロではありません」
「なるほど……」
「ですが次兄の参謀に付いているのは長兄の息がかかった傭兵達でしょう。ですから態々フランシュベルトを避けてリオネスベルクに行くとも考えられないのです。もしかすれば、開戦は共和国ライエスタとの間で起きるのかもしれません」
結局はどん詰まりだ。
リオネスベルクに向かったのがどんな理由であれ、魔族かライエスタかどちらかと事を構えるつもりなのはどうやら変わらないらしい。
「それで、開戦の権限は次兄のアルベールさんがお持ちなのでしょうか?」
リエリーさんがくるくると指回しをしながら問う。
「いえ、それはあり得ません。開戦の合図はきっとあとから長兄であるダンビエールから齎されるはずです」
「であれば、まだ開戦は避けられる……そうですね?」
リエリーさんが再びティーナさんへと聞く。
「はい。まだ開戦の合図が送られていなければ、ですが」
「なるほど」
私が考え込むように自身の顎に手を触れる。
「ギルドとしては各国との平和が保たれるのがベスト……そうですよね?」
ティーナさんが確認するようにレアさんを見る。
「えぇ……例えそれが長年のアレーリアの仇敵である魔族領が相手であってもです。相手が北の国共和国ライエスタであれば尚のこと、冒険者ギルドは各国に置かれている組織なのですから」
「それでは開戦を防ぐように動いているんですね?」
「えぇ、そうなります」
はっきりとレアさんが答える。
「いくら長兄であっても議会での承認無しに戦を仕掛けたとなれば、国家反逆罪に問われかねません。私はあまり議会に詳しくないのですが、そちらでは情報をお持ちでしょうか?」
その問いに私とレアさんの二人が首を横に振る。
「そうですか……では議会に詳しい人の助けが入りますね」
ティーナさんが視線を落とす。
「レイナ姫は議会では?」
「私の知る限りにおいて、レイナ姫は議会での発言権を有してはいません」
そうレアさんが教えてくれた。
そうなのか。そうなってくると尚更議会での協力者は重要だ。
「レアさん、議会の協力者に当てはありませんか?」
「……一応はあります」
その答えにリエリーさんが沸き立つ。
「おぉ、それでは問題はなさそうですね! 冒険者ギルドマスター全員で戦争に反対する署名を提出しましょう! それを盾に議会でその協力者さんに頑張ってもらうのです!」
「ですがその署名の為には、魔族領との戦いなのかライエスタに対する戦争なのかをはっきりさせる必要性があります」
レアさんが注釈する。
「それに加えて、私達ギルドの協力者になってくれる方は議会への発言権こそ有してはいるものの、だいぶ遠くにお住まいでして……王都まで来て頂くのに多少時間がかかります」
「……もしや地方領主の方ですか?」
私が思いつきで聞く。フランシュベルト領主のゲンゾウさんやセーフガルド領主のレミーリアさんのことを言っているのかと思ったからだ。
「いいえ、かの方は王都アレリアの更に北――天山にお住まいです」
レアさんが困った表情でそう言った。
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