99 謁見の手続きと宿屋

「さぁ、ティーナさんとは午後6時までに連絡が取れるだろうとのことでしたから、私達は王城へレイナ姫への面会の要請を出しに参りましょう」

「一度貴族街への門を通る必要性があるのでしょうか?」


 ネルさんが再びの検問を案じている。


「さぁ……行ってみないと分かりませんね。取り敢えず貴族街門へと行きましょう」


 私達は中央通りをそのまま北上し、貴族街門へと来た。

 貴族街門は平民街への門と違い通行者がそれほど多くなく暇なようだった。


「もし、お尋ねしたいのですが、王城で王族の方への謁見の申請をする為にはどうしたら良いでしょうか?」


 門番の兵士に尋ねる。


「約束はしているのか?」

「はい。日時は定めていませんが、こちらへ来るようにというお手紙を頂いています」

「そうか……ならばこちらで書類に記入して申請を出してもらうことになる。そうすれば明日以降に返事が王城からあるはずだ」

「分かりました、それでは……」


 私は特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌが、レイナ姫に謁見を申し込むという内容の書面をしたためた。連絡先はひとまず王都の冒険者ギルドにしておいた。


「それでは、よろしくお願いします」

「あぁ、間違いなく受け付けた」


 レイナ姫への面会申請はばっちりだ。

 次はしばらく厄介になる宿を探そう。


「リエリーさん。宿を取るならばどこが良いでしょうか?」

「費用に眼を瞑るならば中央通り沿いが良いでしょう。ですが、あまり目に付きたくない場合にはもう少し目立たない場所を探すべきです」

「そうですね、他の冒険者たちに無駄にお金を持っていることを知られたいわけでもありませんし、中央通り沿いは避けましょう」


 私がそう決めて、中央通り沿いの宿屋を敬遠することにした。


「セーフガルド同様ならば東区は商人や生産者が集まっているはずです。ひとまずそちらへ向かいましょう」


 リエリーさんが東区へ向かい歩き始めた。


 しばらく歩き、街の様子が商人生産者街じみてきたことを確認。

 やはり推測は間違っていなかったらしい。住人を見つけてリエリーさんが声をかける。


「すみません、この辺りに宿屋はありませんか?」

「あぁあるよ。そこを右に曲がってしばらく行けば商人がやってる宿屋がある。道具屋に併設されているからそれを目印にしな」

「ありがとうございました!」


 教えて貰った通りに右に曲がり、道具屋兼宿屋を見つけた。

 店に入り、カウンターにいる女性に尋ねる


「部屋の空きはありますか? 3部屋あると嬉しいのですが……」

「あら、運が良いわね。ちょうど3部屋空いてるよ。一泊50エイダだけど大丈夫かい?」


 問われ、ぼったくられていないかとリエリーさんの顔を見ると彼女はこくりと頷いた。


「はい。一泊50エイダで大丈夫です。長期滞在になると思うのですが、続けて部屋を借りる事はできますか?」

「あぁ問題ないよ。その場合、最初から全額払ってくれれば一人一月で1200エイダまで下げられるけど、どうするね?」


 私は再びリエリーさんの顔色を窺う。

 リエリーさんが軽く指回しをして、もう一度私にこくりと頷いた。


「はい。では3部屋を一ヶ月間お借りします」

「あいよ、全部で3600エイダだよ」

「では、こちらでよろしくお願いします」


 私は1万エイダ大金貨を1枚取り出して女性に渡す。

 手持ちはまだあと9万エイダほどある。

 一ヶ月分のお家賃を払ったと思えば3600エイダくらいは安いものだ。


 女性は慎重に100エイダ金貨を数え上げ、お釣りの100エイダ金貨がたんまり入った袋を作り上げる。


「あいよ……お釣りの6400エイダね」


 お釣りが入った布袋を受け取り、部屋へ案内される私達。


「なかなかいい部屋ですね……」


 私は案内された部屋でぽつりと一人呟く。

 そして私は「失礼します……」と言いながら周囲1kmに鑑定を展開した。

 半円状に元素を広げていく……。


 途中、リエリーさんらしき人に鑑定妨害されるがそれは放置しておく。それ以外に怪しい人物を見つけることはなかった。商人スキルや生産者スキルを持っている者が多数いたくらいで、至って普通の商人生産者街らしい結果が帰ってくる。


「フランシュベルトと違って、鑑定が非礼ではないのは有り難いですね……常時とは言いませんが、定期的に鑑定をすることにしましょう」


 安全のためにも鑑定索敵は必要だ。

 まだ貴族と本格的に対話したのはレアさんくらいで、他に私達に敵意を向けてくる貴族もいるかも知れないのだ。

 定期的に鑑定をするのは良いことに違いない。

 私はそう宿屋で一人決意した。

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