98 オーベル家

 門番の主任兵士が去り、解放された私達。

 まずは目の前にいるギルドマスターにお礼を述べることにした。


「レア・ライネさんどうも有難うございました。助かりました」

「いえ……態々所持スキルの確認にギルドマスターを呼ぶだなんて、なんて客が来たものだと最初は驚いたものですが、所持スキルを見て得心しました。これだけのスキルをお持ちならば、お隠しになるのも無理はありません」

「いえ……まだまだ特級冒険者として精進の身です」


 私がそう畏まると、


「これだけのスキルをお持ちでしたら、ギルドから超級冒険者への昇格を推薦できますよ。無論、神級冒険者が首を縦に振るかどうかまでは断言できませんが……」


 とレアさんが私の顔をじっと見た。


「そんな……まだ超級の武器術や魔法を身に着けているわけでもないので、分不相応です。

 せっかくの申し出ですが、超級武器術か超級魔法を身に着けた際に、更に冒険者として相応の依頼を達成できていれば推薦をよろしくお願いしたいと思います」


 私が超級冒険者への推薦を断ると、レアさんは残念そうに「そうですか……」と自身の髪を左手で撫でた。


「それで……どういったご要件で王都へ?」

「はい。確認して頂ければ……」

「ではもう一度。失礼しますね」


 レアさんが今度は冒険者カードで私が受けている依頼を確認した。


「これは……場所を変えさせて頂いてもよろしいですか?」

「はい。パーティメンバーも一緒で構いませんか?」

「えぇ……こちらへどうぞ」


 私達は3人はギルド受付を通り抜け、ギルドマスター室へと通された。


「どうぞ、お掛けになってください」


 言われ、私達3人は長椅子に腰掛けた。

 そして私達3人へお茶を入れたレアさんが向かい側へと座る。


「さて……Sランクの開戦派の動向を探る依頼ですが……10日ほど前にここ王都アレリアへも早馬が届いたところです。ですので現在は信頼のおける特級以上の冒険者に依頼し調査に当たっています」

「それで、どの程度情報が集まっていますでしょうか?」


 私が情報収集の結果を問う。


「それが複数の商人が複数の貴族に頼まれて魔法金属製の武具や戦争用品を買い漁っているらしいという情報がせいぜいでして、商人を裏で操っている貴族についても、どの貴族が動いているのかについては断言ができかねます」


 それを聞いてリエリーさんが聞く。


「ふむふむ……私達は道中で、リオネスベルクに向かった武装使節団をオーベル家の次男坊が率いていたと聞き及びました。それに関しては?」

「オーベル家ですか……!? まさか、かの上級貴族が開戦派として動いているとは……こちらとしては初耳の情報です」


 レアさんが驚くような表情を見せる。


「そのオーベル家について詳しく窺っても?」


 私が聞くと、レアさんは「はい……」と話し始めた。


「オーベル家は代々王の右腕として王都アレリアを治めている家です。

 現当主はアルベルト・オーベル。ですが齢80を超えほぼ引退為さっていると聞き及んでいます。そしてそのアルベルト・オーベルの子が三人。

 一人は兄であるダンビエール・オーベル。今年で45になる貴族らしい貴族と専らの噂です。そして弟のアルベール・オーベル。こちらは今年で32になるオーベル家の次男坊です。気弱という噂が流れることもありましたが、しかし武装使節団を率いていたとなれば、その噂も単なる噂だったのかもしれません。

 最後に冒険者でもある妹のティーナ・オーベル。こちらはまだ17歳でアルベルト・オーベル老齢にできた子で、新進気鋭の上級冒険者として我がギルドでもよく知られております」


 レアさんがオーベル家の3人兄妹について解説する。

 その内の一人が冒険者をしているとは驚きだ。


「では、ティーナさんの方へ探りを入れてはどうでしょう?

 冒険者であるということは、こちらに協力してくれるやもしれません」


 リエリーさんが即座に提案した。

 確かに、今回の開戦派の動向を探る依頼はSランク。しかも王都ではセーフガルドと違い特級冒険者以上の一部の者にしか知らされていないらしい。しかし、事の真っ只中のオーベル家に所属しているというアルベルティーナさんならば、例え上級冒険者であったとしても話を聞く価値は大いにある。


「はい。それではそのように致しましょう。後ほどティーナさんに冒険者ギルドへ来るようお伝えします。午後6時ごろまでには連絡が取れるかと……」


 レアさんがリエリーさんの提案に応じる。


「では、ティーナさんと連絡がつくまでの間、私達は王城でのレイナ姫との面会の準備をして参ります。ティーナさんと話し合いが終わったらすぐにレイナ姫に情勢の報告ができるように……」

「レイナ姫直々のご依頼だったのですね……!」

「はい。実はこのようなお手紙を頂きまして……」


 私はレアさんにレイナ姫からの手紙を見せる。


「……なるほど、レイナ姫自らの危惧から発行された依頼だったのですね。セーフガルドギルドマスター発行と聞いていたのですが、裏にこのような事情があったとは……」

「はい。ホウコさんが事態を重く見たようです……」


 依頼が発行された経緯を軽く話し、話し合いはひとまずお開きとなった。

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