97 王都アレリアでの検問

 途中寄った村を出て4日経ち、私達は王都アレリアへと到着した。


 王都アレリア。王城、貴族街、平民街と3区画がそれぞれに門によって仕切られている。

 私達はまずその第一段階目の平民街へと入る門で検問の順番を待っていた。


 途中、後から来た貴族街行きの馬車が順番を抜かして門へと進んでいく。


「はぁ……あとどれくらいかかるんでしょうか?」


 ネルさんが私達を抜かした貴族馬車を見ながら御者の男に問うた。


「いつも通りなら正午には入れるはずですから、もうすぐですよ……!」


 御者の男が笑顔で答える。

 すると、「次の馬車進め!」と門番が指示を出した。

 ようやく私達の番が来たらしい。


 馬車が歩みを進めて門にたどり着くと、門番の男がやってきて御者に聞いた。


「この馬車は何の馬車だ?」

「はい。冒険者を送迎する馬車です」

「冒険者か……どこから来た? パーティリーダーは?」


 問われ、私が御者の横から顔を出して答える。


「私がパーティリーダーの特級冒険者セーヌと申します。セーフガルドから参りました」

「なにセーフガルドから……? ド田舎の特級冒険者がわざわざ王都に何の用だ?」

「第二王女のレイナ姫直々に招待を頂きまして……」

「レイナ姫に……? 冒険者カードを見せてみろ」


 言われ、私は冒険者カードと冒険者ギルド職員カードを差し出す。


「ふむ……特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌで間違いはないようだな……では人数は?」


 門番は私のカードに魔法刻印されている階級と名前を確認し、人数を聞いてきた。


「私の他に上級冒険者が2名の合計3名です」

「特級冒険者の上級ギルド受付1名に上級冒険者が2名の合計3名、それに御者だな……よし、入ってよし!」


 門番はなにやら紙に私達の人数を書き込むと、門の通過を許可し私にカード2つを返す。

 馬車が門の内側の平民街へと進んでいく。


「平民街へ入るのにもこれだけ厳しい検査を受けるのですね……」


 リエリーさんがその厳しい検問に驚く。


「よそ者だからでしょうか? そうであると思いたいですね。街の外に依頼を受けて出かける度にこんな厳しい検問を通っていたら身が持ちませんし」


 ネルさんが唸る。


「なに、慣れればどうということもないですよ。それに馬車だから警戒されるんですよ。

 徒歩での検問はまた別ですから」


 と御者の男がかっかっと笑う。

 彼はセーフガルドと王都の間を普段から行ったり来たりしているから慣れているのだろう。


 と、平民街への門をくぐったところで何か嫌な感覚があった。


「!?」


 まるで何者かに鑑定されているかのような違和感。

 私は鑑定妨害を発動し、その鑑定を妨害し撹乱した……その瞬間だった。


 突然に平民街の門上方に備え付けられていた鐘が大きく鳴り響いた。

 そして門番の兵士達に取り囲まれる馬車。


「結界に感あり……! 魔族だ! 魔族がいるぞー!!」

「魔族だって!?」


 御者が後ろを振り向いて、恐怖に歪んだ顔を私達3人へと向ける。


「馬鹿な……あり得ません。私達は3人とも人族です!」

「セーヌさん、いま門をくぐったときにもしや鑑定妨害を……?」


 リエリーさんに問われ、私はこくりと頷く。


「原因はそれかもしれません。私は鑑定妨害に失敗してしまいましたが、セーヌさんは成功したのですよね?」

「はい。成功しましたが、それがなにか?」

「原因はずばりそれでしょう……」


 リエリーさんが自身の魔女帽子を深く被った。


「全員馬車から降りろ! ゆっくり……ゆっくりだ!」


 門番の兵士たちに言われるがまま、私達は馬車から出た。

 私は念のためミスリルの大剣を装備する。

 しかし抜刀せず背中に背負ったままだ。


 御者と共に並ばされる私達3人。


「魔族はどいつだ!?」


 私はパーティリーダーとして手を挙げて言う。


「魔族はいません……」

「嘘をつくな! それでは何故結界が発動した!」

「それは……私が結界の魔導具から発せられた鑑定を妨害したからだと思われます」

「馬鹿を言うな! 結界の魔導具は超級魔導具だぞ! 全てを見通す眼を欺けるものか!」


 私達に門番の内何人かから鑑定が飛んでくるが、私はその全てを妨害した。


「おわかりでしょう? 私は高位の鑑定妨害持ちなのです。

 ですから結界の魔導具の鑑定を弾いてしまったのです。それが原因で結界が誤作動したのでしょう。もう一度、もう一度だけ門を通ってもよいでしょうか?

 今度は鑑定妨害を発動しないようにしますので……」


 私がそう提案すると、門番は何やら鑑定持ちの門番と話し合う。

 そして数分後、渋々といった様子で「ではもう一度通ってみろ!」と門番が言った。


 御者が真っ先に門を通り抜け「私は無実です!」と主張。


 私達はリエリーさんから順番に門を再度通っていく。


「よし……良いぞ通れ」


 鐘は鳴らない。

 そして次にネルさんが通る。


「よし……人間だな」


 ネルさんにも鐘は反応せず。

 最後に私が門を通る。

 と、やはりさきほどと同じように嫌な感覚が私の元素感知にかかる。

 しかし私はその鑑定を撹乱することなく、そのまま門を通った。


「……鐘は……鳴らないな」


 門番たちが不思議そうな顔をする。

 何人かは再度私へと鑑定を飛ばしてきたが、私はこれは妨害する。


「どうやら高位の鑑定妨害持ちを魔族と誤って認識してしまうようですね……」


 私が言い、門番たちはひとまず納得したようだった。


「確かに……魔族であれば鐘が鳴るだけでなく、結界内に侵入することができないはずだ。だがお前はどうやら結界内に入ることはできるらしい」

「はい。ですから魔族ではないと……」

「では何故鑑定を妨害する!?」

「それは、冒険者として安易に実力を知られるわけには参りませんから……私は中央のセーフガルド出身ですが、西方では鑑定妨害をするのが普通とも聞き及んでいます。

 フランシュベルトからの冒険者がこちらを訪れることも珍しくはないのでは?」


 私がそう反論すると、実際にそのような冒険者がいたらしく門番たちは小さく唸り声をあげる。そうしてしばらくの間討論が交わされ、レイナ姫の招待を受けて訪れた冒険者であることが私達を最初に検問した門番から伝えられると、


「よし、では入ってよし……だがギルドで所属を確認させてもらう」


 と門の主任兵士らしき男が言った。


「所属を確認と言いますと……?」

「あんたは冒険者ギルド所属と言ったろう。ギルドの水晶で冒険者カードを確認させてもらう。無論、俺たちはスキル内容は見ないが、ギルド職員に確認を取る。本当に高位の鑑定妨害を所持しているのかをな!」

「そうですか、分かりました」


 本来はギルド職員にも自分の所持スキルを開示するのは頂けないのだが、仕方があるまい。

 出来れば誰にも知られたくないので、口の硬そうなギルドマスターを呼んで確認して貰おう。

 そうすれば私の他の所持スキルが露見することは避けられるだろう。


 私達は平民街への出入りを一時的に許可されると、平民外の中央通りに位置するという冒険者ギルドへと門番の主任兵士と共に向かった。


「ここが冒険者ギルドですか……?」


 案内された場所で、門番の主任兵士に尋ねる。


「あぁ……ここが冒険者ギルドだ」


 大きい。

 フランシュベルトの冒険者ギルドも大きかったがそれ以上の大きさだ。

 しかも建物も彫刻が施されていて豪奢な装いをしている。


「それにしてはやけに豪華な作りですね?」

「なに、平民の冒険者の他に王都じゃ貴族冒険者が多いからな。

 奴らは金持ちだ。その都合上、王都の冒険者ギルドには多額の献金が寄せられているのさ」


 主任兵士はそう言い、「お前たちはここで待っていろ」と部下の兵士に告げると、「さぁ中へ入るぞ」と私達を促した。

 私達は彼に従い、王都の冒険者ギルドへと足を踏み入れる。


 そして受付で主任兵士が「この者が冒険者ギルドに所属しているかの確認をしたい。それと所持スキルの確認もだ」と言い、私が「出来ればギルドマスターにスキルの確認をして頂きたいのですが……」と付け加えた。


 すると金髪の受付嬢が「ギルドマスターですか? 少々お待ち下さい」と去っていく。


 暫くして金髪のボーイッシュなショートヘアをした女性を伴って受付嬢が戻ってきた。


「初めまして、王都アレリア冒険者ギルドマスターのレア・ライネと申します。

 冒険者ギルドへの所属確認と、所持スキルの確認をしたいとのことですが……」


 レア・ライネと名乗った女性が窺うように私の顔を見る。

 すると主任兵士が「この者の所属と所持スキルを確認したいのです。高位の鑑定妨害スキルを持っているかをです」と再度言った。

 主任兵士の口調が変わったところと姓を持っていることから見て、このギルドマスターは貴族なのだろう。


 私がレアさんへと「よろしくお願いします」とギルド職員カードと冒険者カードの2つを手渡す。


 そしてレアさんがまずはギルド職員カードを受付にある水晶へと当てた。


「……えぇ、セーフガルド冒険者ギルド所属……。上級冒険者ギルド受付のセーヌさん? で間違いはないようです。こうして確認できているので偽造でもないでしょう」

「そうですか……では次にスキルを。高位の鑑定妨害スキルを持っているかを確かめてください」


 主任兵士が言い、レアさんが「よろしいですね?」と私に確認を取る。

 それに私はこくりと頷いた。

 本来冒険者自身にしか所持スキルの確認や開示は許されていない。

 無論、鑑定したり本人が許可すれば別だが。


 冒険者ギルド受付に置かれている水晶がどのような魔導具なのかは研修で一応は習っている。

 Bランクの鑑定及び識別もBランクで付与された魔導具だ。

 カードを当てると、魔法登録をした者の元素力に反応して鑑定及び識別が発動する。


「では、失礼して……」


 レアさんが私の冒険者カードを水晶へと当てた。


「これは……!」


 レアさんが眼を見開いて驚いている。

 それはそうだろう。所持スキルの殆どがSランクなのだ。

 私の研修生Sのことを知らない人ならば驚いて当たり前だ。


「どうでしょうか? 高位の鑑定妨害を持っていましたか?」


 門番の主任兵士がやきもきした様子でお伺いを立てるように聞く。

 するとレアさんが「はい……確かに高位の鑑定妨害をお持ちのようです」と門番の主任兵士へと答え、私に向き直り「特級冒険者のセーヌさん。良くぞ王都アレリアにお越しくださいました……!」と私に恭しく頭を下げた。


 貴族が私に丁寧に接しているのを見たせいか、門番の主任兵士は「それならば構わないのです! ご確認有難うございました! 魔導具の誤検知の件に関しては、上に報告をあげておきます!」と私にさっと胸の前で握りこぶしを作るようにして敬礼をすると去っていった。

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