96 いざ王都アレリアへ

 一週間が経ち、リエリーさんの日曜教室の依頼完了を確認して、まだ日曜の内に私達は王都アレリアへと発つことになった。

 そして、Sランクの開戦派の動向を探る依頼を出したことで、もう一人仲間が増えることになった。


「こんにちは、今回の依頼。特級冒険者のセーヌさんをパーティリーダーとして従えとギルマスに言われてきました」


 現れたのは天才魔法使いのネルさんだ。

 彼女はリエリーさんと同じく上級冒険者なので今回の依頼を直接受諾できない。

 だから私をパーティリーダーとして依頼を受けるという特例をホウコさんが許可したのだ。 ネルさんに関しては、イアさん達同様に特級冒険者相当の実力を持っているとの判断だろう。


「ネルさん。今回はよろしくお願いします」

「初めましてネルさん、天才と伺いました……! その実力頼らせて頂きます!」


 私がペコリと頭を下げ、それにリエリーさんも続く。


「はい。このネル……お二人の後衛として頑張ります! よろしくお願いします!」


 ネルさんも私達に頭を下げ、その燃えるような赤髪を揺らした。


 そうして、私達3人パーティは私の用意していた王都行きの馬車へと乗り込んだ。

 御者に出発の合図をすると、了解! と簡素な返事が帰ってきて馬車が北へと走り出した。


 中に載っているのは王都までの1週間で消費する食品類が主だ。

 資金には困っていないので、生鮮食品を積むために保冷の魔導具を仕入れようかとも思ったのだが、魔導具屋へ寄っても保冷の魔導具の在庫がなかった。きっと開戦に備えてミスリル武具同様に買い占められたのだろうとリエリーさんが推察した。なので代わりにパンや干し肉などの悪くならない食材がメインとなっている。

 生鮮食品類は必要とあらば道中の森で採集したり、寄った村々で補給することとなった。


「はぁ……今から緊張してきました……王都アレリアなんて私のような田舎者が行っても大丈夫なんでしょうか?」


 ネルさんが私とリエリーさんに心情を吐露する。


「大丈夫ですよ、なんと言ってもこちらにはレイナ姫直々の招待がありますから!

 ね! セーヌさん!!」

「はい。レイナ姫自ら私に王都アレリアへ来て貰えないかとのことでしたので、私達が畏まる必要性は全くありません。堂々とアレリアの地に降り立てば良いのです」

「なるほど……このネル。堂々とするのには成れていませんが、頑張りたいです!」


 冒険者としての能力的にも問題はないだろう。

 リエリーさんは戦闘力こそ劣るかもしれないが、その智慧高さは他の追随を許さない。

 戦況判断や作戦立案など、王都アレリアで動く際には大いに役立ってくれるだろう。

 ネルさんに至っては、上級冒険者にして超級炎魔法の使い手だ。その圧倒的な火力で敵を屠ってくれるに違いない。


 私は安心して背中を預けられるパーティメンバーを見て少しだけ笑顔になる。

 いざ王都アレリアへ! 私は新たな冒険に胸躍るのを感じていた。




   ∬




 セーフガルドを出て3日。

 私達は途中寄った村の宿屋で休憩を取りつつ、散会して情報収集にあたった。

 そして各自得た情報を持ち寄り、宿屋で夕食を食べることになった。


「セーヌさん。私、この村の魔法具屋さんへと寄ってきました。やはり補給に必要な保冷の魔導具他、多数の魔導具の買い占めがあったようです。他にも魔法使い用の杖などが在庫切れとなっていました」


 ネルさんが真っ先に報告をあげると、リエリーさんが続いた。


「どうやらリオネスベルクに向かったという使節団が1週間ほど前にこの村を訪れたらしいですね。きっと魔法具屋での買い占めもその際に行われたのでしょう。

 この村での募兵こそ行っていなかったものの、戦闘を行う目的があるようで武装した集団だったようです」

「はい。私も村長さんに確認を取りました。リオネスベルクへ向かう使節団であったが、しかし妙に武装している者が多く、まるで戦いへ赴く兵隊のようであったとのことです」


 私が村長さんから聞いた話を話すと、リエリーさんが「やはり……」と魔女帽子の鍔を掴み考え込む、そして私へと質問をした。


「指揮官はどなただったのでしょう?」

「指揮官……使節団の代表のことでしょうか? それならば村長さんに聞いてきました。

 なんでも代表は貴族で、オーベル家の次男坊だったとか」

「オーベル家の貴族ですか……セーフガルドでは聞かない名前ですね。

 しかし、件の開戦派の動向を探る上では大きな一歩です。

 オーベル家……忘れないようしましょう!」


 リエリーさんが言い、私とネルさんが「はい!」と返事をした。


 今夜は宿屋で休み、そしてまた明日から王都へ向けて馬車の旅だ。

 私は宿屋の食堂で3人と別れた後、風呂へと向かった。

 私が一番風呂を頂けることになっている。

 3日ぶりにお風呂に入れるのは有り難い。

 コルドナードでの温泉と違い、パーティ3人みんなでお風呂というわけには行かないのが寂しいところではある。


 服を脱ぎ、風呂へと入る。

 まずは温水シャワーの魔導具で体を軽く洗い流す。

 こんな辺境の村でも温水シャワーの魔導具があるのだななどと考えつつ、汗を流す。

 そしてそれが終わると浴槽へと入った。


「ふぅ……」


 旅の疲れか、温かいお湯がとても心地よく感じられる。

 浴槽でくつろいでいると、周囲2、3メートルほどに展開していた鑑定索敵に反応があった。

 脱衣所付近に誰かがやってきたようだ。


「リエリーさんでしょうか?」


 私が鑑定索敵での結果をもとに気配の主を当てると、脱衣所から「セーヌさん、もしよろしければお背中お流しします」とリエリーさんの声が聞こえた。


「はい。それではお言葉に甘えて……」

「そう言ってくれると思っていました!」


 風呂には私と同じく裸になったリエリーさんが入ってきた。


 恥ずかしげもなく裸体を晒すリエリーさんに一瞬だけ自身の裸が見られることを躊躇する私。

 背中を流すのに服を脱ぐ必要性はないように思ったが、一緒に風呂に入るつもりだったのか。

 多少手狭ではあるが、頑張れば二人入れる大きさではある……。


「それでは……よろしくお願いしますリエリーさん」


 私は浴槽からあがると、洗い場でリエリーさんに背中を向けた。


「はい。任せてください!」


 リエリーさんが洗い布を持つと、私の背中を軽く擦っていく。

 3日も風呂に入っていないとあれば、垢もそれなりに落ちた。

 馬車旅の道中、水に濡らした布で汗を拭うくらいはしていたが、それでも汚れは溜まっていたようだ。


「リエリーさん。ありがとうございました前は自分で洗いますので……」

「了解しました……!」


 快活に返事をすると、リエリーさんは続けて指をくるくると回しながら「セーヌさん……Dカップとお見受けします……!」と私の胸のサイズに関する推理を唐突に展開した。


「それは……まぁそんなところです」

「やった! 当たりました! ちなみに私はCカップです!」


 と惜しげもなく自身の裸体を披露するリエリーさん。

 胸のサイズと言えば、私の推測ではあるがミサオさんがおそらくBカップ。

 エルミナーゼさんがかなり大きくG~Hカップ。

 コルドナードで一緒に風呂に入ったレイナ姫はEカップくらい。

 リネスさんは私と同じくらいだった。


 そんなことを考えつつ前を洗うと、魔導具からシャワーを浴び頭を洗った。

 それからリエリーさんが自身の体を洗い始めたので、「今度は私がお背中お流しします」と言い、洗い布を受け取った。


「それではよろしくお願いします!」


 リエリさんが私に背中を向ける。私はその背中をゆっくりと洗っていく。


「リエリーさん。王都の貴族が関わっているという話……どう思いますか?」

「はい。オーベル家でしたか、おそらくはそれなりの規模の使節団を動かせることから上級貴族であると思われますが、なんにせよセーフガルドではあまり知られていない貴族です。

 まずはレイナ姫などと情報のすり合わせをするのが肝心かと……」

「そうですね……冒険者ギルドでも話を聞いてみましょう。既に王都の冒険者ギルドにもセーフガルドからの早馬が届いているはずです。開戦派の動向はいくらか探られてもいるでしょうから」


 私が冒険者ギルドでの情報収集を提案すると、リエリーさんは「それもそうですね。王都に着いたら、レイナ姫との謁見を待つ間にギルドで情報を集めましょう」と同意してくれた。


 そうしてリエリーさんの背中を洗い終えると、私は再度浴槽に身を沈めた。

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