95 リオネスベルクの抑えに
日曜教室を訪れた翌日。
私は冒険者ギルドへといつものように出勤。
そしてそこでイアさん達パーティが来るのを待っていた。
無論、必ず来るという保証はなかったが、他にイアさん達に連絡を付けられる冒険者を知らなかった為だ。無論、セーフガルドで聞き込みをすればかの勇者パーティの行方はすぐに掴めるだろう。勇者パーティの賢者が入院しているという街医者で張り込むのも良いかもしれない。
私は今日イアさんがギルドを訪れなかった場合、それらの行動を起こすことにして、取り敢えず日々の業務に邁進していた。
「セーヌ……イアさん達を探しているんですって?
でも、どうしてかしら?」
ホウコさんに問われ、私はありのままを答えることにした。
「実は……リオネスベルクで開戦派による動きがあると知りまして、勇者であるイアさん達に
その場の抑えをお願いしたく……」
「へぇ……それは初耳だわ。詳しく聞かせて貰っても良いかしら?」
ホウコさんに請われ、私はレイナ姫からの手紙やリエリーさんからの情報などを合わせてホウコさんに伝える。するとホウコさんは片耳に自らの長い髪をかけると考え込む仕草を見せた。
「うーん……セーヌ。それ自分でイアさん達に依頼するつもりだったの?」
「はい。個人的にお願いしようかと考えていました」
「そう……良いわ。緊急性の高い依頼であるとセーフガルドギルドマスターである私、ホウコが認めました。これより冒険者ギルドは開戦派の動向を探るものとします!」
「では……?」
私が尋ねると、ホウコさんが「えぇ……みんなで問題解決に当たりましょう」と言ってくれた。
「さすがはセーフガルドギルドマスターです。英断だと思います」
私はホウコさんの素早い決断を称賛する。
セーフガルドの平和はホウコさんの素早い決断のおかげで保たれていると言って良い。
「えぇ……まずは早馬を出して各ギルドへ通達を……セーヌ、文面は用意できて?」
「はい。お任せください。ランクはいくつに?」
私が依頼のランクを書面にしたためるためにランクを問うと、ホウコさんは自信たっぷりに「Sランクの緊急依頼よ!」と言い放った。
「まさか……そこまでしてくれるのですか?」
私が驚きと共にホウコさんを見やる。
「アレーリア王国の平和がかかっているんですもの。それくらい当然よ。ギルドとしては一大任務だわ!」
ホウコさんがそうやる気を見せ、私はSランクの緊急依頼発令の書面を書き終えた。
そして、「複写をよろしくお願いします……!」と同僚の受付たちに指示。
アレーリア王国全土の冒険者ギルドへと書面が届けられることになった。
「北の国ライエスタと魔族領にはどうしましょう?」
「ライエスタ首都であるレイクスタットにのみ緊急依頼の存在を伝令します。セーヌ、書面は作れて……?」
「はい。問題ありません。研修で他国への伝令の際の書式は習いましたので!」
私が素早く新たな書面の作成に取り掛かり、依頼掲示板に緊急依頼が張り出される。
ホウコさんが鐘を鳴らし叫ぶ。
「Sランクの緊急依頼を受付けました! 冒険者の皆さんは詳細を掲示板にてご確認ください!」
と言っても、Sランク依頼を受諾できる特級以上の冒険者はここセーフガルドには私とエルミナーゼさんくらいしかいない。
だからか、集まってきた冒険者にホウコさんが口頭で伝える。
「イアさん達のパーティを見かけたら、すぐにギルドへ来てと伝えて頂戴……!」
私がライエスタの首都――レイクスタットに届ける伝令を書き終え、早馬にそれを託して1時間ほど経った頃、ギルドにイアさん、ナミアさん、ソラさんの3人がやってきた。
「やっほーセーヌさん。ギルマスから用事って聞いたけど、なんなんー?」
「はい。私からもお話は可能ですが、ギルドマスターのホウコから直々にお話がありますので少々お待ち下さい」
私がそう答えてペコリと頭を下げると、イアさんは「おっけ」とだけ答え受付前で待ってくれている。私はギルドマスター室へと駆け込み、ホウコさんにイアさんパーティの到着を知らせる。そうしてホウコさんを伴って受付へと戻った。
「イアさん……いえ、勇者パーティにセーフガルドギルドマスターである私から直々に依頼します。これはあなた達を特級冒険者に相当する冒険者と見込んでの依頼よ……!
リオネスベルクへと趣き、アレーリア王国と共和国ライエスタとの開戦の動向を探ってください。ことと次第によっては、冒険者ギルドはアレーリア王国の命令に背くことになるかもしれないから、そう承知して頂戴。
イアさん、あなた達には開戦派の抑えになって貰いたいの」
ホウコさんが真剣な面持ちで説明する。
本来ならばF~Eランク依頼を下級冒険者が、次にD~Cランクを中級冒険者、そしてB~Aランクを上級冒険者、Sランク以上の依頼を特級冒険者と超級冒険者、神級冒険者が担当する。今回、上級冒険者のイアさん達にSランクの依頼をお願いするのは特例と言える。
「ふーん、これまた重大依頼だね! おっけ、開戦派の抑え承り!」
イアさんがニシシと笑い、依頼を快諾。
ナミアさんとソラさんの二人が心配そうな面持ちで情報を確認し始めた。
相手の規模や人数、そして敵側の意図することを聞かれ、「不明です」、「いまのところ分かりません」との答えを返すホウコさん。
「場合によっては北の国の果てキルエスに引退して引っ込んでる神級冒険者――勇者ファルゲンが出張ってくるかもしれないから、その場合は彼の指示に従って頂戴」
そう続けて指示を終えたホウコさんは「以上!」と以降の質問を全て却下した。
「ほへーキルエスのファルゲンつったらもう70近い爺さんでしょ? 古今東西冒険者図鑑にも載ってないしなー。まだ生きてたの? そんな御老体の世話にならないよう頑張ってくるよ! んじゃ行ってきまー。ほれ、ナミアっちにソラっちもいくよー」
真顔のイアさんが、浮かない顔のナミアさんとソラさんを連れて行った。
私は古今東西冒険者図鑑にも載っていない、神級冒険者――勇者ファルゲンに興味津々でホウコさんに尋ねた。
「ホウコさんは勇者ファルゲンさんとはお知り合いで……?」
「まさか……祖父がギルマスをやってた小さい頃に、祖父から噂で聞いたくらいよ」
「そうでしたか……そんな御老体が神級冒険者なのですね」
「えぇ……まだ生きていればだけど、亡くなったという話は聞かないわね」
「なるほど……ありがとうございました」
私はまだ見ぬ神級冒険者に思いを馳せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます