93 王都からの手紙
ギルドに王都からの手紙が来たのは、私がミスリルの大剣を手にしてから2週間ほど経った時のことだった。
「セーヌこれ、王都のレイナ姫からの手紙よ」
ホウコさんから手渡され、私は赤の蝋印で封じられたその手紙を開いた。
“セーヌさんへ。
和平の道を歩むと約束したのを忘れてはいません。
ですが国内に国の将来を顧みない開戦派がいるようなのです。
そこで相談なのですが、セーヌさんには開戦派の動きを探るために王都アレリアに来ていただきたいのです。
勝手なお願いとは思いますが、ご検討のほどをよろしくお願いします”
手紙にはそれだけ記されていた。
「王都アレリアに私を……?」
私がそう呟くと、ホウコさんはいつものように「あら、良いじゃない行ってきなさいな」と笑う。
「ですが、私のような特級冒険者なりたてのものでなくとも、たくさんの冒険者がアレーリア王国にはいます……」
「けれどレイナ姫は気心の知れた貴方をご指名なんでしょう? セーフガルドでは特級冒険者の出張る依頼なんてそう多くないもの、行ってあげたら良いじゃない」
「それはそうですが……」
私一人では心許ない。
私は王都アレリア行きに関して、リエリーさんやミサオさんに相談することにした。
私は手紙を受け取ったその日。リエリーさんが冒険者ギルドへと訪れる事をずっと待っていたのだが、彼女がギルドを訪れる気配はなかった。
受付業務をしながら彼女の知り合いの冒険者にも聞いてみる。
「あのリエリーさんをお見かけしませんでしたか?」
「リエリーかい? リエリーならここのところ南区の日曜教室で特別講師をするって話だよ」
リエリーさんと一緒に居たことを見かけた事のある女冒険者に尋ねると、そんな答えが返ってきた。
「日曜教室ですか? あぁ……そういえばそんな依頼がありましたね。上級冒険者以上が依頼の条件でしたか……ありがとうございます助かりました」
「良いってことよ!」
ちょうど今日は土曜日。明日が日曜教室の開かれる日だ。
明日、私はリエリーさんが特別講師を務めるという日曜教室に出向くことにした。
今日はミサオさんのところへ寄ろう。
エルミナーぜさんも居れば良いのだが……。
∬
私は本日の業務を終えた午後5時過ぎ、ミサオさんの工房を訪ねた。
呼び鈴を鳴らすと、「どうぞー」とのミサオさんの返事。
工房の中へ入ると、ミサオさんがフランシュベルトで買い込んできたらしき錬金素材が所狭しと広げられていて、錬金術師としての仕事がピークを迎えているらしかった。
「あら、セーヌさん。ようこそいらっしゃいました本日はどのようなご要件で?」
ミサオさんが錬金鍋をかき混ぜながら私に対応する。
どうやら今日はエルミナーゼさんはいないらしい。
「それが……実はレイナ姫から王都アレリアに来てほしいとの手紙を受け取りまして……」
私はミサオさんに事の経緯を説明する。
「それでミサオさんとエルミナーゼさんのお二人にもフランシュベルトのとき同様に来て頂きたいと思ったのですが……」
「それはそれは……お話は分かりました。ですがエルミナーゼはともかくとして、私は残念ですが王都アレリアにはご一緒できません」
ミサオさんが私に背中を向けながらも肩を落とした。
「どうしてでしょうか?」
「セーヌさん。王都アレリアには結界があることをお忘れですよ……あの結界はエルフ族であるエルミナーゼならともかく、生粋の魔族である私は通してくれないでしょう。ゲンゾウの叔父様くらい血が薄いなら特殊な魔導具を用いて結界内に入る手段もなくはないのでしょうが、私は無理ですよ」
ミサオさんがそう言って一層残念そうに肩を落とす。
「そうでしたか……確かに王都アレリアには対魔族結界が張られているんでしたね……私が失念していました。申し訳ありません」
私はペコリと頭を下げる。
「いえ、別に良いんですよ。
私だっていつかはアレリアの観光に行きたいと思っているのですから。
彼の地はフランシュベルトとは違って、また荘厳な雰囲気の町並みが広がっているのだとか……一度は見てみたいものです」
ミサオさんが残念そうに鍋をかき混ぜる。
ならばエルミナーゼさんだけを借りるというのも手だろうか?
「ではエルミナーゼさんをお貸し頂くというのは……」
私が質問すると、ミサオさんは「出来ました」と言いながら私へと振り返った。
「それはエルミナーゼに確認しないと何とも言えませんが、ですがきっと駄目でしょうね……。エルミナーゼは最近のセーフガルドや王都の情勢を案じているようですから、私から離れようとはしないでしょう」
「最近の情勢というと……やはり……?」
「はい。開戦の兆しがあります」
ミサオさんはきっぱりと言いきった。
「やはりそう思いますか」
「はい。王都だけに留まらずセーフガルド中からも戦争に必要な素材その他が在庫切れになっていますから。レイナ姫はきっとよくやってくれているのだと思いますが、一部の貴族達が開戦の動きを止めていないのでしょう」
「それで買い占めが起きていると?」
「はい。間違いないでしょう」
ミサオさんは残念そうに右手を頬に当てた。
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