92 ミスリルの武器

 ついに2週間が経ち、私とリエリーさんの二人でルマさんのいる武器屋へと向かった。


「ごめんください。ルマさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「ルマさん、武器は出来上がっていますでしょうか?」


 私とリエリーさんの二人は意気揚々とルマさんの武器屋を訪れた。

 しかし先客がいたようだ。


「なぁ嬢ちゃん。何度も言ってるだろう? 俺たちにそのミスリルの武器を譲ってくれ」

「だからダメだってば! これは他のお客さんから直接鉱石を貰って受注した武器なんだ。

 どうしてもウチのが良いなら鉄製の武器ならいくらでもあるよ。ミスリルは他を当たってよ」


 ルマさんが男に最後通告とばかりに言い、背の高い男は「ふむ……」と顎を掻く。


「しかしだ。この上級冒険者、剛剣のグレッグさんに鉄製の武器しか用意できないなんて、武器屋としての名折れじゃないのか?」


 背の低い男がルマさんを睨みつける。


「仕方ないだろ。王都からの商人が根こそぎ魔法金属を買い占めていったんだから。

 文句ならそちらに言っておくれよ! あっセーヌさんにリエリーさん! さぁどいたどいた! お客さんだよ」


 ルマさんが私達二人の来店に気付いたようで、男たちを払い除けるように私達を招き入れる。


「こんにちはルマさん。2週間が過ぎました。私達の武器は出来ていますでしょうか?」

「あぁ! 二振りとも完成してるよ! どっちも会心の自信作さ!」


 ルマさんが店に飾ってあったミスリルの蒼い大剣を私へと指し示す。

 その横にはリエリーさんのものであろうミスリルソードもあった。こちらはなぜか少し紫色のようになっていた。


「さぁ持ってみてよ」


 ルマさんに促され、私は大剣を持つ。

 身体強化して持ったつもりだったが、想像以上に重かった。

 身体強化の度合いを上げなければ今まで通りには扱いきれないだろう。


「これは、さすがに重いですね……」

「だろう? 親方と二人で打った自信作さ!」


 ルマさんがえへんと胸を張る。

 私は大剣を鑑定した。


 ミスリルの特製大剣

 ミスリルで出来た大剣。特注品。

 等級値5700。


「等級値5700……! そこらの美術館や博物館に並んでいてもおかしくない業物です」


 私がそう驚くと隣のリエリーさんもミスリルソードの出来に唸りを上げる。


「そうですそうです! より高温で鍛錬されたミスリルは炎元素の赤が混じって紫になると思っていました! 私の予測通りの一品のようです。

 重さはちょっとまだ重いですが、使いこなせるように私頑張りますね!」


 リエリーさんが嬉しそうにミスリルソードに頬ずりすると、背後から男が言った。


「なんだ、嬢ちゃん達がそのミスリル武器の所有者か?」


 大男はそう言って値踏みするように私達二人を見た。


「その冒険者ギルドの受付服……それに大剣の使い手……あんたが特級冒険者の『冒険者ギルド受付』のセーヌかい?」

「はい。私のことをご存知ですか?」

「あぁ……確かに冒険者ギルドの受付で見たことのある顔だ……。

 噂は聞いてるぜ。西方で『エンプレス』を討ったって話じゃないか」

「はい……」

「なるほど、そっちのお嬢ちゃんは知らないがパーティメンバーかい?」

「はい。時折セーヌさんとご一緒させて貰っています。上級冒険者のリエリーと申します」


 リエリーさんがミスリルソードを片手に大男に自己紹介する。


「リエリー……? 聞いたことはないが、まぁいいさ。

 俺は上級冒険者、剛剣のグレッグだ。

 ちょうど武器を変えたくてね、ミスリル製の剣を探していたんだ。

 だが……かの特級冒険者のパーティメンバーから武器を巻き上げたとあっては悪い噂が出かねん……。邪魔したな、帰るぞ!」

「はい!!」


 背の低い男が大きな声で返事をし、二人揃って店を出ていく。


 私は男たちを見送ると、ルマさんに感謝した。


「ルマさん、良く彼らに怯まずに武器を取り置いてくださいました。

 ありがとうございます」

「いやいやいや、こちとら注文受けて作ってるんだ。

 そうそう注文者以外にくれてやるわけないさ! 気にしないでよ!」


 ルマさんがにかっと笑い、指回しをしながらリエリーさんが言う。


「しかし、あれが剛剣のグレッグですか……私も噂ぐらいは聞いたことがあります。

 最近セーフガルドで名を上げている冒険者ですね。

 セーヌさんも受付で見たことくらいあるのでは?」

「はい……。あの体躯ですから、お見かけしたことぐらいは……。

 ですが、私が担当したことはありませんね」


 私が答えると、リエリーさんが自身の魔女帽子の鍔を掴んで言う。


「しかし、王都からの商人が根こそぎ魔法金属を買い占めて行った話、気になりますね……。セーヌさん、レイナ姫は確かに和平を歩むと宣言なさっていましたよね?」

「はい。確かに」

「ではどことの戦いに備えているんでしょう……?」


 リエリーさんが魔女帽子を深くかぶり込んで情勢の推察をしていたが、私には皆目検討もつかなかった。何か悪いことが起きないといいのだが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る