89 神託の少女
翌日の朝5時。
依頼者の商人の店へ向かうと、店の前には1頭引きの屋根付き馬車が3台並んでいる。
店の中へ入ると、サーシャさんが既に来ていた。
「こんにちはサーシャさん。実は私もこちらの護衛依頼を受けることになりまして……」
サーシャさんへ話しかけると、そのオレンジ色の髪を靡かせながら髪色と同じオレンジ色の瞳を私へと向けてきた。
「あれ……? ギルド受付のお姉さん?」
「はい。セーヌと申します。実は私、冒険者もしていまして……」
「へぇ……そうなんですか、じゃあお姉さんが……。
いえ、なんでもないんです。私はサーシャです! よろしくお願いします!」
右手を私に向けて差し出すサーシャさん。
「はい。よろしくお願いします」
私も右手を差し出すと軽く握手をした。
にかっと笑うサーシャさん。
すると依頼者の商人の男が店の奥から顔を出した。
「おぉ……あんた達がギルドから寄越された護衛かい?
また二人共ずいぶんと若いみたいだが、腕の方は確かなんだろうな?」
「はい。私は特級冒険者です」
依頼票を手渡すと、男は驚くような目で私の冒険者階級を見た。
「わ、私はFランクの新米冒険者ですけど……! でも安心してください。
しっかりお守りしますから!」
私同様に依頼票を商人の男に差し出すサーシャさん。
その手は緊張でかプルプルと震えていた。
男はサーシャさんの依頼票を受け取り、そして言った。
「ほぉ、特級冒険者に新米冒険者の組み合わせは意外だなぁ。
まぁいいさ。出てもゴブリン数匹程度だろうからね。お任せするよ。
それじゃあ、早速出発しようか」
男がそう言って店を出るように促す。
店を出ると、私達は隊列の中央の馬車へ乗るよう指示された。
指示通りに中央の馬車へと乗り込む。
中はセーフガルド産らしい野菜をメインとした、たくさんの荷が積まれていたが、二人が乗り入れるスペースは十分にあった。
私は大剣を、そしてサーシャさんは槍を抱くようにして馬車に座り込んだ。
「それじゃあ出るぞ! 行けー行けー!!」
男が他の馬車の御者に聞こえるように大声で叫ぶ。
そうして私達を乗せた馬車はサウスホーヘンへ向けて走り出した。
∬
3時間が経ち、私達は何事もなく無事、港砦サウスホーヘンへと辿り着いていた。
隊商が商売をする間、私達二人は街の中で自由行動となった。
街の治安は防衛隊が居るから悪くはない。
用心棒は不要との隊商主の判断だ。
私はサーシャさんと二人、午後5時までの8時間もの時間を潰さなければならなくなった。
ヨシノに頼まれている手前、サーシャさんを一人にするわけにはいかない。
私はサーシャさんに声をかけた。
「サーシャさん。時間が空いてしまいましたがどうしましょう?」
「えっと……私は占いの館がないか探そうと思ってて……」
「占いの館ですか?」
「はい!」
サーシャさんが元気よく返事をする。
「確かセーフガルドには占い館がありましたね……」
セーフガルド博物館の隣の建物だ。
私は行ったことはないが小さくない占いの館がある。
そこでは古今東西の占い師が在籍して商いをしていると聞く。
「はい。私そこの常連なんです。
実は客としてではなく、占い師としても活動してまして……」
「占い師としてですか? お若いのにそれは驚きです」
私は目を見開いて驚く。
何故かと言えば、私は占い師という職業は基本的にある程度歳を重ねてから就く職業だと思っていた。
こんなに若くして占い師として活動しているとは……。
「そうですよね。若すぎて占い師には見えないですよね。
とにかく、占いの館を探してそこでしばらく占い師をやろうかなと」
サーシャさんは「えへへ」と自身の髪を撫でる。
「それでしたら是非私もご一緒させてください。
占い師としてのお仕事を体験してみたいのです。どうかご教示ください」
私はそう提案した。
研修生の効果があるから足手まといにはならないはずだ。
「え……? そんな別に特別教える事とかないですよ!?
私の占いは太陽神アールカ様のお告げを解釈するのがメインなので……
教えてと言われても、どう言ったらいいのか……」
サーシャさんはそう言って畏まる。
「でしたら占いをやっているところを見せて頂くだけでも結構ですので、どうぞよろしくお願いします」
私がペコリと頭を下げると、サーシャさんは「そんな、どうか頭を上げてください! 分かりましたから!」と大慌てで頭を上げるよう説得してくれた。
私は頭を上げ、「それでは占いの館を探してみましょう」と声をかけた。
占いの館は冒険者ギルドで聞き込みをしたところすぐに見つかった。
セーフガルドにある館ほど大きくはないようだったが、2、3人の占い師が日々そこで活動しているようだ。
私達は冒険者ギルドで教えて貰った通りの路地裏へ入ると、占いの館を見つけた。
中へ入る。
「ようこそ。どちらの占いをお探しですか?」
館へ入って早速、出てきた中年の女性に接客される。
「いえ……私達占い師なんです。こちらで占いをさせて頂けないかなと……」
サーシャさんが女と交渉に入る。
話はすぐにまとまったようで、館に売上の3割の施設利用料を支払う事に決まった。
小さな席へと案内され、サーシャさんは自身のバッグから小さめの水晶球を取り出すと、それを布の上に置いた。
占いを開始して2時間後、ようやく初めてのお客さんがやってきた。
30台前半に見える女性だ。
「こんにちは」
サーシャさんが挨拶をするが返してくる気配がない。
どうやら女性は焦燥しきっているようだ。
「あの、なにを占いましょうか?」
「夫の浮気について占って欲しいんです」
「浮気についてですか、分かりました。それでは旦那さんのお名前と貴方の名前を教えて頂けますか?」
サーシャさんは諭すように告げる。
すると女性は素直に旦那さんの名前と自分の名前を教えてくれた。
「それでは占いに入らせて頂きます……はぁー!」
サーシャさんは水晶球に触れると、初級光魔法を放った。
明るい光が水晶球から溢れ出て見える。
そしてサーシャさんは熟考するように目を閉じると、30秒ほどして目を見開いた。
「ずばり、旦那さんは浮気をしていません!
太陽神アールカ様はそのようにおっしゃっています!」
サーシャさんは堂々と言い放った。
「でも……私確かに見たんです、夫が若い女性と歓楽街に消えていくのを……!」
「そうでしたか……。ですがアールカ様はおっしゃいます。
『誤解があるようだから、よく話し合いなさい』と……」
「そうですか……ありがとうございました」
女性は占いの代金30エイダを支払うと、去っていった。
「あの……サーシャさん。あの初級光魔法にはなにか意味が……?」
私は気になった事を聞いてみた。
「いえ、ただの演出で意味はありません」
ぺろっと舌を出してサーシャさんは言った。
「それでは、太陽神アールカの神託は……嘘なのですか?」
「いえ、本当ですよ。こればっかりはなんとも言えないのですが、私、太陽神の神託というスキルをたぶん生まれた頃から持っていて……それでお告げがあるんです」
「失礼ですが、鑑定しても……?」
「はい。構いませんよ」
私はサーシャさんを鑑定する。
【サーシャ】。
【人族、女性】。
【太陽神の神託S】、【初級槍術A】、【初級光魔法A】、【元素感知A】、【元素操作B】、【認知S】、【新米冒険者A】、【上級占い師S】etc……。
「確かに……太陽神の神託スキルをお持ちなんですね……」
「はい!」
「ではもしや冒険者としての方針もこの神託を頼りに……?」
私は勘付いてサーシャさんに問う。
「はい。少し無茶するくらいで丁度良いと出ました。
それが良い出会いに繋がるからって……!
もしかしてセーヌさんの事を言っていたのかもしれませんね!
私こんなに若い特級冒険者の人がいるなんて知らなかったですもん!」
サーシャさんは私の方を見ると元気にそう答えた。
「そうでしたか……あのサーシャさん、神託はどのように解釈するのでしょうか?」
「えっと、それは正しく物事を見る事が必要になるんです。
私、太陽神の神託の他に認知というスキルをSランクで持ってるんですけど、それが重要なのかなって思ってます」
「正しく物事を見る……ですか?」
「はい。お告げの解釈をありのまま、言葉のままに正しく見ようとすればいいんです。
さっきだったら、お告げは『誤解あり、話し合え』という内容でした。
なので私は、それを正しく解釈して浮気はないって言ったんです」
「なるほど……正しく言葉のままに……」
私は認知についてサーシャさんから教わり、その後も二人で占いを続けた。
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