88 武器注文と新米冒険者

 セーフガルドへ着いてすぐ、東区の採掘師ギルドでジェーンさんの取り分とジェーンさんを下ろす。


「またいつでも誘ってくれ!」


 そう別れの言葉を口にするジェーンさんを残し私は同じく東区へ。

 ルマさんのいる武器屋へと馬車を回してもらった。


「セーヌさん!? これもしかして」

「はい。ミスリル鉱石です。これで私の大剣を作ってくださいますか?」

「それは構わないけど、一体どこでこんなにたくさんのミスリルを……?!」

「それは……秘密です。申し訳ありません」


 すっと人差し指を口の前に立ててそう言うと、ルマさんはそれ以上は追求してこなかった。


「そっか。これだけあればミスリルの大剣の他にもう一本くらい作れるけど……それは?」

「それはリエリーさんの取り分ですので……」


 私がそう言って馬車の中にいるリエリーさんを見やる。


「はい! 私もミスリルソードをよろしくお願いします! 出来ればより高い温度で鍛錬してください」

「なるほどね、了解了解! 前に話した炎元素との相性の話だよね。覚えてるよ」


 ルマさんが「任せといて」とミスリル鉱石を引き取り、私とリエリーさんは発注書にサインした。製作期間は2週間だ。


「じっくり良いものに仕上げたいからね!」


 とルマさんが言うので私は2週間待つことにして武器屋を出た。




   ∬




 冒険者として一仕事を終えた私は冒険者ギルドでギルド受付業務に励むことにした。


「あらセーヌもう休みはいいの?」


 ホウコさんが私に問う。


「はい……武器の当てがついたので、しばらくは受付業務に従事しようかと……」

「そう。それは良かったわ」


 ホウコさんはそう言って微笑むと、ギルドマスター専用の執務室へと消えていく。


「あの、すみません。こちらの依頼を受けたいのですけど」


 そしてすぐに私の受付にお客が舞い込んできた。

 見ればまだ冒険者としてデビューしたばかりの風体を思わせる子供だった。


「はい。こちらグールの群れの調査依頼はDランク依頼となります。

 ……失礼ですがFランク冒険者の方ではお受けできません」

「あ……やっぱりそうなんですね」


 女の子は項垂れてこちらを見る。


「はい。申し訳ありません。

 こちらの薬草採集依頼などはいかがでしょうか?」


 ミサオさんが出している依頼だ。

 初心者には持って来いの依頼に思えるのでおすすめしてみた。


「Fランク依頼だったらもう何度かやったんです。

 だから上のランクの依頼がやりたいなって……」

「そうでしたか……それでしたら明日行われるこちらはいかがでしょうか?」


 私はEランク依頼の中から、サウスホーヘンまでの隊商の護衛依頼を見つけ勧める。


「これは……サウスホーヘン……?」

「はい。ここから南へ馬車で3時間ほどの位置にある港砦です」

「そこの道中には危険なモンスターはでますか?」


 女の子は心配そうに尋ねる。


「いえ……せいぜいDランク相当のゴブリンが現れれば良いほうかと」

「ゴブリン……! それなら私でもやれそうだな……」


 女の子がゴブリンを侮っているようなのが気になる。

 しかしおそらく出て狼や野犬、鷹くらいのものだろうと思い、ぐっと注意するのをこらえた。


「じゃあ、その依頼受けます!」

「はい。こちら依頼票となります。明日、依頼者の元へと向かってください」

「はい!」


 女の子は元気よく返事をして冒険者ギルドを出ていった。

 私が女の子を見送ると、同僚のヨシノが「あぁあの子……」と言って私へ話しかけてきた。


「セーヌ。あの子が受けた次の依頼は何?」

「明日行われるEランクのサウスホーヘンまでの隊商の護衛依頼です」

「そう。それなら無理をすることもなさそうね……。

 あの子――サーシャって言うんだけど、セーヌがフランシュベルトに行ってる間に冒険者になったばかりなの。

 私が最初の冒険者登録を担当したんだけど、背伸びする癖があってね……」

「背伸びする癖ですか?」


 私は視線を左上に飛ばして考える仕草をした。

 たしかに先程もDランクの依頼を受けようとしていたところだった。


「そ。最初からスライム100匹の討伐依頼を一人で受けようとしたりね」

「それは……新米冒険者には中々厳しそうですね」

「うん。だから少数討伐依頼から受けるように言ったりしてたんだ」


 ヨシノが心配そうに受付に右肘を突いて顔に右手を当てた。

 そしてなにか思いついたかのように私の顔を見た。


「ねぇセーヌ。あの子と組んでみない?」

「はい? 私がですか」

「えぇ。セーヌだったらきっとあの子の良いお手本になるわ。

 ねぇいいでしょうセーヌ?」

「はい。私が明日同じ依頼を受けるということでしょうか?」

「えぇ! それで行きましょう!」


 ヨシノはさっと依頼票を書くと私へと渡した。

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