85 ルマさんへのお土産と魔法金属

 セーフガルドへ戻った翌日。

 私は東区にあるルマさんのいる武器屋を訪れた。


「こんにちは、ルマさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「セーヌさん!」


 ルマさんはちょうど店番をしていたようで、すぐに私を見つけてくれた。

 私は早速、例の物をルマさんへと渡すことにした。


 ごとりと重い音を立てて、店の地面にゴブリンブラックスミスの槌を置く。


「これは……なにか凄い年季の入った道具だね」

「はい。ルマさんなら扱えるのではないかと思って……」

「ちょっと失礼するね……」


 ルマさんが重さを確認するように槌を手に取る。

 そうして「ふーん、ほーん」とひとしきり槌全体を確認する。


「うん。使えそうだよ。これを私に?」

「はい。フランシュベルト土産です」

「そっかーありがとう。でもこれ等級値いくつさ? やたら重い槌だけど……」

「等級値は5500になります」

「は!? 5500!? そんな貴重な物貰って良いの?」


 ルマさんが驚いて槌を落としそうになる。


「はい。その代わりに、新しい大剣をルマさんに作っていただきたいのですが……」

「うん。それは良いけど……また鉄製になっちゃうけど大丈夫?」


 ルマさんは槌を置くと、私の顔を気まずそうに見る。


「魔法金属の在庫はありませんか?」


 私が問うと、ルマさんは頭をわさわさと掻きながら説明してくれる。


「つい先日まではないこともなかったんだけどね。この間王都から来た商人が魔法金属の在庫と魔法金属で出来た武器をあるだけ買っていったんだ。だからオリハルコンどころかミスリルすらない状態でさ」

「そうですか……それではミスリルかオリハルコンの鉱石を探すところから始めねばなりませんね……」

「うん。せっかく来てくれたのにごめんねセーヌさん」

「いえ……それでは失礼します」


 私はペコリとお辞儀して、ルマさんの武器屋を出た。




   ∬




 私はルマさんの武器屋を出て、ミサオさんの錬金工房へ向かった。

 ミサオさんの錬金術で魔法金属を作れないかと思ったからだ。


「セーヌです。ミサオさんいらっしゃいますでしょうか?」


 呼び鈴を鳴らし、工房の主を呼ぶ。

 するとすぐにミサオさんが出てきた。


「あらセーヌさん。いらっしゃいませ。中へどうぞ。

 それで……どうかなさいましたか?」

「それが……」


 私はミサオさんの工房に招き入れられながら事情を説明する。


「まぁ、それで私のところへ?」

「はい。魔法金属の錬成をお願いできないでしょうか?」


 私がそうお願いすると、ミサオさんは困ったように両手を組んだ。


「少量であれば今ある材料でなんとかできないこともないのですが、大剣を作れるほどの量となると……申し訳ありません」


 ミサオさんがそう言って項垂れる。


「そうですか……」

「ですけれど、この近辺でミスリルが掘れる鉱山ならばご紹介できますよ」

「本当ですか?!」


 ここセーフガルド近郊でミスリルを採掘できる鉱山など聞いたことがなかった。

 一体どこなんだろうか?


「サウスホーヘンの南にある海底鉱山です」

「海底鉱山ですか……? 聞いたことがありませんね」

「それはそうでしょう。魔族にも余り知られてはいませんから」

「そこへはどうやって行けばいいのでしょうか?」

「サウスホーヘンから船で行くのがいいでしょう。

 鉱山は海底にありますから是非あれをお試しください」


 くいっとなにか飲むような仕草をするミサオさん。

 『あれ』と言われ、私はすぐに思いついた。


「人魚薬ですね?」

「はい! 人魚薬で人魚となって海底鉱山で採掘活動をするのが、ミスリルを大量獲得する方法になります」


 私はミサオさんの言い分に、「なるほど、海底鉱山……」と唸った。




   ∬




 ミサオさんの錬金工房を出て40分。

 私はセーフガルド東区にある採掘師ギルドを訪れていた。

 受付へ行き、受付嬢へ声をかける。


「すみません。採掘師の方を紹介していただきたいのですが……」

「はい。どのようなご要件でしょうか?」


 ミサオさんからは海底鉱山の件は余人に伏せるよう頼まれていた。


「採掘の指南をお願いしたいのですが……出来ればミスリルの採掘が可能な採掘師を紹介していただきたいのです」

「なるほど、採掘の指南を……それでしたら採掘師ギルドへの登録をお願いしています。

 よろしいでしょうか?」

「はい。分かりました」


 私は言われるがまま、出された書類に記入して提出。

 しばらくして採掘師ギルドへの登録が終わった。


「はい。確かに。これで貴方も採掘師の一人です。おめでとうございます」

「はい。ありがとうございます」

「それでは師となる採掘師をご紹介しますね。なにかご希望はありますか?」

「出来れば女性の方を紹介願えますでしょうか?」

「はい。女性の採掘師ですね。それでしたらこちらをどうぞ」


 言われ、私は女性採掘師のリストを手渡された。

 現在地や年齢、採掘師スキルが書かれている。


 私はいまセーフガルドにいる女性採掘師の中から上級採掘師スキルを持っている人を見つけ出した。


「こちらの方でお願いします」

「はい。少々お待ちください……。

 それでは、こちら採掘師の住所と依頼票になります」

「ありがとうございます」


 住所の書かれた紙と依頼表を受け取り、私は採掘師ギルドを出てセーフガルド郊外の住宅地へと向かった。

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