86 海底鉱山へ向かう準備

 セーフガルド郊外。

 セーフガルド中心市街地を東へ離れて徒歩で30分ほど。

 ミサオさんの錬金工房よりかは街に近い場所にある住宅街に私は来ていた。

 私の自宅と実家があるのは西区で方角的に反対側の場所だ。

 東区であるこちらには生産者や商人などが多く暮らしている。


 私はその中で青い屋根の家を見つけると、呼び鈴を鳴らした。

 暫くして家人が出てきた。


「はーい」

「こちらジェーンさんのお宅で間違いないでしょうか?」

「あぁ、間違いないよ。あたいがジェーンさ」


 女性はドアを開けるとドアに寄りかかる。

 そして水色の瞳を私へと向けてくる。


「私、採掘師ギルドに紹介されてきましたセーヌと申します」


 依頼表をジェーンさんに差し出す。

 ジェーンさんはそれを受け取って読み始めた。


「なになに……採掘の指導を私にだって?」

「はい。実は新規の鉱床を発見しまして……」

「ほう……。そこでは何が取れるんだい?」

「ミスリルが取れるようです」

「ミスリルが……?

 そりゃ最近じゃここらの商人や採掘師が喉から手が出るほど欲してる鉱床じゃないか。

 取り分はいくらだい?」


 私は大剣を作れるだけのミスリルを得られさえすればいい。

 採掘を教えてもらう必要性もあるし場所はまだ知らぬ海底鉱山だ。


「7:3でいかがでしょうか?

 私が3でジェーンさんが7です」

「私が7かい。なにか厄介な問題があるんじゃないだろうね?」

「それは……来てもらえば分かるかと……」


 私は言葉を濁した。

 断られる人に海底鉱山の事を教えるわけにはいかないからだ。


「良いだろう……いつ出発だい?」


 私は明日出発予定である事を伝える。

 すると、「それじゃ明日までにミスリルを採掘できる装備は私が整えよう」とジェーンさんが買って出てくれた。

 私はそれに「よろしくお願いします」と挨拶をして、明日の合流場所を決めるとジェーンさんの家を出た。


 それからセーフガルド中央主街区へ戻ると、私は馬車の手配をした。

 そしてリエリーさんに声をかけた。

 これで明日の準備は万端だ。



   ∬




 翌日の早朝6時。

 冒険者ギルドの前で落ち合った私とジェーンさんは、私が手配してあった馬車に採掘道具を積み込む。私は念のため冒険者装備のまま来ていたので、ジェーンさんから「危険な場所じゃないだろうね?」と念を押されてしまった。

 しかし、私が「それについても私が対処します。これでも特級冒険者なので」と言うと、「そうかい、それなら安心だね」とジェーンさんはかっかと笑った。


「こんにちはセーヌさん!」

「リエリーさん。よく来てくれました」

「はい! なんでもミスリルを入手できるとか……とても楽しみです」

「なんだい、アンタ一人じゃないのかい?」


 ジェーンさんがリエリーさんをまじまじと見る。


「リエリーさんには純粋に護衛としてお願いしました。採掘をするのは私だけです」

「そうかい、それなら良いんだ。教えるのも結構な手間だからね」


 リエリーさんも合流して、私達は馬車でサウスホーヘンへと向かった。


 サウスホーヘンに着く頃には朝9時を回っていた。

 太陽が沈む前に十分な量のミスリルを確保したい。

 だがその前にやることがある。


 私達はサウスホーヘンの服屋へと乗り込んだ。


 ジェーンさんが「服なんてなにするんだい?」


 と訝しむ目線を私へ寄越す。しかし向かうは海中なのだ。

 まずは水着がなければ話にならない。

 私は水着売り場へと向かうと、3人に水着を選ぶよう伝えた。


「水着だって!? まさか海にでも潜ろうってのかい!」


 とジェーンさんは渋い顔をする。

 そんな突っ込みも気にせず手早く水着を選ぶと、私達はサウスホーヘンの宿へと向かった。


 宿で二人には水着に着替えてもらい、いざ港へと向かう。


「すみません船を出して頂きたいのですが……」

「お、お客さんかい?」

「はい。ここから南へ20分ほど船を出してほしいのですが……」

「あぁ……そんなことで良いならいくらでも! 釣りかい? でもそれにしちゃあ」


 船頭の男性が不審者でも見るように私達を見た。

 大剣を担ぎその手にピックを持つ私、そして水着。

 どうみたって釣り客には見えない。


「いえ……船頭さんには指定の場所で流されないように待っていてくださればいいのです」

「それで良いならまぁ……金額は200エイダだけど今出せるかい?」

「はい。どうぞ」


 私はすぐに100エイダ金貨2枚を取り出して、船頭の男に渡した。


「毎度あり、それじゃ乗りな」


 船に乗り、私達は南へと進んだ。




   ∬




「ここらでいいかい?」


 船頭の男に言われ、私は陸の方を見た。

 そしてミサオさんに教えてもらった地点にだいたい来たことを確認。


「はい。ここで流されないように待っていてください」

「了解!」


 私はバッグから人魚薬を3本取り出す。

 そして、それをリエリーさんとジェーンさんに配ると試験管1/4ほどを飲んで見せた。

 暫くして、私の下半身に変化が訪れた。


 私は慌てて海へと入る。

 そして下半身が魚の姿となった事を確認。

 一先ず周辺を泳いで、それから海中へと入った。

 暫く海中に没して息が出来るかを確認。

 問題はないようだ。さすがはミサオさんの作った錬金秘薬だ!


「問題ありませんね……」


 そして船へしがみ付く。


「人魚薬に問題はないようです。お二人ともさきほど渡した試験管の1/4ほどを飲んでください。私のように人魚になれますから……」


 私がそう説明すると、リエリーさんが楽しそうに人魚薬を飲み、不承不承とジェーンさんが続いた。船頭の男性は何も言わず唖然として私を見ていた。


 そうして二人共人魚となり、私とジェーンさんがピックを、そしてリエリーさんが片手剣を持ち私達は海中へと潜っていった。

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