84 セーフガルドへ帰って

 4日かけた馬車での移動の末、私達は無事セーフガルドへと戻ってきていた。


 道中、リエリーさんがフランシュベルトで良い片手剣術の師匠に恵まれた事などを話してくれていた。その甲斐もあってリエリーさんは上級片手剣術Sスキルを獲得したらしい。


 冒険者ギルド前で馬車を降りた私達。

 私は早速、ホウコさんへ帰還を報告することにした。

 ミサオさん、エルミナーゼさん、リエリーさんとは冒険者ギルド前で別れる。


「それではまた! 何処かへ行く事があれば教えて下さいね」


 ミサオさんは私の冒険にくっついてくる気満々のようだ。


「ミサオ……あまりセーヌさんを困らせるものではありません」


 エルミナーゼさんがミサオさんを嗜める。

 そしてリエリーさんが「私も何かあればいつでも誘ってくださいセーヌさん!」と冒険に前向きな姿勢を見せた。


「はい。皆さん。フランシュベルト遠征お疲れ様でした」


 ぺこりとお辞儀する。

 そうして3人が去ったのを見送ってから、私はセーフガルド冒険者ギルドへと入った。


 入ってすぐ、ホウコさんを見つける。


「ホウコさん。セーヌただいまフランシュベルトから帰還しました」

「あら、おかえりなさい。どうだったのフランシュベルトは?」

「はい。とても勉強になりました……それと特級冒険者へ昇格しました」

「まぁ!? 上級冒険者になりに行ったと思っていたら、一足飛びに特級冒険者になったの?!」

「はい……。超級冒険者の城塞のレェイオニードさんに推薦していただきまして……」

「なるほどねぇ。まぁセーヌらしくて良いんじゃないかしら。

 特級冒険者へと昇格、おめでとう!」

「はい。ありがとうございます」


 ホウコさんは「お祝いをしなければね!」と言ってくれたが、立て続けに祝って貰うのも気が引けたので遠慮しておいた。


そうして冒険者ギルドを出てすぐ、一匹の狼が私の元へとやってきた。


「王狼さん! まさか着いてきてしまったのですか!?」

「ヴォン」


 王狼さんは嬉しそうに声をあげる。


「群れの皆さんは……? 置いてきたのでしょうか……?」

「ヴォン」

「そうでしたか、置いてきたと……しかし良く四日間も馬車に着いてきたものですね。

 そうですね……私に着いてきたのは良いのですが、私と一緒にいたいのですか?」

「ヴォン」

「そうですか……ですがここセーフガルドで狼を放し飼いするというのも……。

 王狼さん、人を襲わないと約束できますか……?」

「ヴォン」

「分かりました、でしたら私の実家で王狼さんを迎えましょう。着いてきてください」


 私は王狼さんを引き連れ、セーフガルド郊外西区にある実家へと向かった。


「ただいま戻りました……」

「あら、おかえりなさいセーヌ……とワンちゃん……?」

「ううん、実は犬ではなく狼なんだけど……」


 私は母に事情を説明する。

 すると母は、「人は絶対に襲わないのね?」と確認する。


「そうですよね? 王狼さん」

「ヴォン」

「襲わないみたい。王狼さん、私の母のユーナです。食事などを担当するのも母なので母に逆らうと食事抜きになるので覚悟してください」

「ヴォン」


 王狼さんが分かったと鳴き、母の元へとやってくる。

 母は戯れに犬にするように「お手」と右手を差し出した。

 すっと左前足を差し出す王狼さん。


「いい子じゃない。それに言葉が通じるのね……?」

「うん。人語理解スキルを持っているようなのでなんとなしだけど……」

「そう。それなら良いじゃない。家で飼うのよね?」

「うん、私のアパートじゃさすがに飼えないもの」


 私が返事をすると、母がわさわさっと王狼さんの頭を撫でた。


「狼は日に何キロも肉を食べるっていうじゃない。セーヌが食費を出しなさいよ」

「うん。それは分かってる。まだ分配でもらっていないエイダが大量にあるから大丈夫だよ」

「そう。それは良かったわ。それよりフランシュベルトはどうだったの?」


 私は母に聞かれ、フランシュベルトでの出来事を説明した。


「まぁ……! 王女様とお知り合いになったのね。それに特級冒険者だなんて……」


 母はいつものように私の話に驚く。

 しばらくして、父が仕事から帰ってきた。


 父は王狼さんにびっくりして家に入ってそうそう腰を抜かしそうになる。


「大丈夫。王狼さんは人を襲わないから」


 私がそう言うと、父は「そ、そうなのかい?」と王狼さんを見た。


 それに答えるように「ヴォン」と王狼さんが鳴き、父のもとへ頭を寄せる。


「言葉が分かるので、お父さんの名前を教えてあげて」

「そ、そうか、僕の名前はシュタッケだ。セーヌの父だよ王狼さん」


 そう言って父が王狼さんの頭を撫でると、王狼さんは分かったとばかりに「ヴォン」と鳴いた。王狼さんと家族はなんとか上手くやっていけそうだ。

 私はほっと胸を撫で下ろすと、王狼さんの頭をわしゃわしゃと撫でた。

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