82 フランシュベルトへの帰投
朝。
コルドナードでの一泊はふかふかなベッドで快適な一夜を過ごせた。
朝の食事を宿で軽く済ませると、エルミナーゼさんの指揮のもと西の森西端駅へ帰ることになった。来た時と同様私達には4頭の馬が与えられた。
そして暫く進んだところで休憩となった。
「セーヌさん。昨夜はどちらかにおでかけでしたよね?」
レイナ姫が昨夜の私の不在を問う。
「はい。監視の方に頼んで冒険者ギルドへ少々……」
そう答えると、レイナ姫は「えーずるいです。私も連れて行ってくれれば良かったのに!」とぽかぽかと私の背を殴る。
「申し訳ありません。姫様は会食でお疲れかなと……。
それに私もちょっと顔を出して、依頼掲示板を見てきただけですから」
「良いなぁ魔族領でも冒険者ギルドはある程度独立してるんですよね?」
「はい。そのようでした。今度機会があればコルドナードへ招待客ではなく冒険者として訪れたいものです」
私がそう感想を述べると、休憩が終了となった。
私達4人とマスクで顔を隠したエルミナーゼさんの5人は、再び西の森西端駅を目指して平原を走った。
∬
コルドナードを出て1時間ほどして、西端駅目前にある魔王軍陣地に着いた。
馬を返さなければならないので、ここからは徒歩で西の森西端駅を目指すことになる。
私はそこで正体を隠したままのエルミナーゼさんに別れを告げる。
「……ナーゼさんここまでありがとうございました」
「はい。どうぞ皆様お元気で」
エルミナーゼさんに見送られ、私達は徒歩で15分ほどで西の森西端駅へ着いた。
「ふぅー着きましたね!」
レイナ姫が到着してすぐそう言い、私が「はい。何もなくて良かったです」と応じた。
西の森西端駅へはライン騎士団からゲンゾウさんが元素列車でやってきていた。
「どうでしたかな? 魔王との会食は」
「今後、友好的関係を築いて行くことで一致しました」
ゲンゾウさんの問いにレイナ姫が答えて続ける。
「私はこの事実を王都へ持ち帰り、お父様達に再考を促すつもりです」
「それはそれは……良かった。この西方が狂乱の戦地とならなさそうで何よりです」
ゲンゾウさんがそう言って自身の顎を撫でる。
私はゲンゾウさんを鑑定して本当に魔族かどうか確かめようと一瞬思った。
しかし事を無闇に荒立てるのも良くないので、やめておくことにした。
西端駅ですることもなかったので、私は西の森西端駅に残してあった馬を駆りフランシュベルトへと向かった。
∬
フランシュベルトで馬を返すと、私はリエリーさんとエルミナーゼさん、ミサオさんも泊まっている宿へと戻った。
宿へ戻り、ミサオさんの部屋を尋ねる。
「ミサオさん、いますでしょうか?」
「はーい」
部屋の中から返事があった。
そして部屋のドアが開かれる。
「セーヌさん? どうかしましたか?」
なんとなくミサオさんがいなくなってしまうのではないかという漠然とした不安があった。
しかしこうして再びフランシュベルトで会えた事でその不安は払拭された。
「ミサオさん。もう戻っていたのですね?」
「えぇ……私は昨晩の内にこちらへ戻りました。
セーヌさん。コルドナードの宿の温泉いかがでしたか?」
「はい。とても快適なお湯でした……」
「でしょう? 魔族領自慢の宿なんですよ」
ミサオさんはそう言って笑う。
やはりミサオさんが魔王アルケニアで間違いはないのだ。
そして昨晩の会食の内容も……。
「エルミナーゼさんは?」
「エルミナーゼも直に戻ると思いますよ。
ただまっすぐ平原を突っ切って西の森西端駅へ行くのではなく、私達は南のサウスシュルツを経由して行き来していましたので多少時間はかかりますが……」
「なるほどサウスシュルツを経由して……。
それは分かりましたが、魔王様が魔族領を離れて平気なのですか?」
私は疑問を口にする。
「えぇ……フランシュベルト領主城には実は転移の鏡が設置されています。
それはセーフガルドにある私の錬金工房でも同じことです。
ですから用事があれば転移の鏡を通ってすぐに戻れるんですよ」
「転移の鏡ですか……。なるほど、それならば納得です。
ですが出来ることならば一度通ってみたいものです」
転移の鏡なんて聞いたことがない。
きっと上位の魔法の合せ技による魔道具なのだろうが興味をそそられる。
「はい。きっといつかセーヌさんもご一緒に……!」
私の要望にミサオさんが笑顔で答える。
いっそフランシュベルトからの帰り道で使ってみたらどうだろうか?
リエリーさんがいるからダメかもしれない。
けれど、名探偵スキル持ちのリエリーさんのことだ。きっとすぐにミサオさんとエルミナーゼさんの正体にも気付いてしまうだろう。そんな気がした。
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