81 コルドナードにて

「セーヌさん!」


 宿へ戻ると、心配してくれていたのだろう、まだ着替えていないリネスさんを伴いレイナ姫が私へと駆け寄ってくる。


「魔王になにかされたりはしなかったのよね?」

「はい。全く。大丈夫です」

「それで、何の話だったの?」

「私の鑑定の話だとかを少々……」

「へぇ、確かにセーヌさんの鑑定は凄いものね……! それでかー」


 嘘は付いていない。下手に嘘をついても不味いかと思ったのだ。

 レイナ姫は納得してくれたようで安心する。


 私は部屋へ戻ると、ギルド受付の制服へと着替えた。

 せっかくのドレスをダメにする前に脱いでおきたかったのだ。

 それから宿の風呂へと入ることにした。


 風呂は露天風呂だった。私は女性と書かれた脱衣所へ入る。

 脱衣所を見るに、既にレイナ姫と共にリネスさんが入っているらしかった。


「あ、セーヌさん!」


 お湯に浸かっているレイナ姫が私を見つけて歓声を上げる。


「姫、もう少し温まりましょう」

「えぇ……そうね!」


 私は手早く頭と体を洗うと、湯船へと向かった。


「セーヌさん! この露天風呂、凄いわよ。

 魔道具とかを使ってるわけじゃなくて源泉かけ流しなんですって!」

「なるほど……それで少しお湯の温度がお高めなんですね」


 私がそう言うと、「温泉とは……王国では中々お目にかかれない風呂ですね」とリネスさんが感嘆する。そうして暫くお湯に浸かっていると、レイナ姫とリネスさんが「お先に失礼します」と出ていき、私はゆっくりとお湯を楽しむことにした。


「今日は色々なことがありました……」


 一人そう呟く。

 ここがギルドだったならばいつものように冒険者カードを水晶に当てていたはずだ。

 今日得られたであろうスキルにも心当たりはある。

 しかし水晶がないここではスキルを確かめることもかなわない……。


 そうだ! まだ夜は早い。

 ここコルドナードの冒険者ギルドへ行ってみよう。

 無論、自由に行き来させて貰えればだが、まだ私達についている監視がエルミナーゼさんならば自由が効く気がした。


 私は湯を出ると、脱衣所で受付制服に袖を通す。

 そして宿のロビーへと向かった。


 いた! 監視と思しき女騎士に声をかける。

 どうやらエルミナーゼさん本人のようだ。


「すみません。もしよろしければ、ここコルドナードの冒険者ギルドへ伺いたいのですが……」

「セーヌさんでしたか……よろしいでしょう。お送り致します」


 マスクをしたエルミナーゼさんは、宿の外に控えていた騎士に声をかけると、私を馬の背に乗せて冒険者ギルドまで送ってくれる。


 5分ほどして、冒険者ギルドへ着いた私達。

 エルミナーゼさんはマスクを取らず、私達はそのまま冒険者ギルドへと入った。

 からんころんと来客を告げるベルがなり、受付にいた受付嬢が私達を見る。


「大きい街ですので、受付には10人程度いるのが常です」


 エルミナーゼさんがそう説明し、私を受付へと連れて行く。


「ギルドマスターはいますか? こちらセーフガルドから受付嬢をお連れしました」

「え? セーフガルドからにゃ?」


 猫人族の受付嬢がぴょこぴょこと忙しなく耳を動かす。


「ついこの間もフランシュベルトから緊急レイドクエストの発布と終了の知らせが来たところにゃのに、今度はセーフガルドにゃ!? 急いでギルマス呼んでくるにゃ!」

「いえ、そう急がずとも……」


 そう言うエルミナーゼさんの言葉はたぶん彼女には届いていない。

 1分ほどして、ギルドマスターの女性が姿を表した。エルフ族の女性だ。


「こんばんは。コルドナード冒険者ギルドマスターのユースフィアと申します」


 流れるような薄い水色の髪が綺麗な女性だ。


「こんばんは。セーフガルド冒険者ギルド所属、セーヌと申します」


 私が自己紹介しかしないので、「……ご要件は?」と不思議そうに髪色と同じ色の瞳を向けられる。


「いえ、要件と言うほどのことはなく……見学でしょうか? させて頂ければと……」

「見学ですか……? 冒険者ギルド受付スキルはお持ちですよね?」

「はい。上級冒険者ギルド受付Sスキルを持っています」

「それでしたらどうぞご自由に。冒険者ギルドはスキルさえあれば就業場所に制限はありませんから……」


 私もそれは知っている。しかしここは魔族領である。

 勝手が違っては困ったのだが同じなようで安心する。


「それでは失礼します」


 私は受付へ入ると、持ってきていた冒険者カードを水晶に当てた。

 すると新しく取得したスキルが目についた。


 【特級鑑定妨害抵抗S】。

 特級の鑑定妨害に抵抗できるようになる。

 鑑定妨害を上回るランクの鑑定で鑑定を行った時に稀に獲得可能。

 

 【超級鑑定妨害抵抗S】。

 超級の鑑定妨害に抵抗できるようになる。

 鑑定妨害を上回るランクの鑑定で鑑定を行った時に稀に獲得可能。


 【対魔王A】。

 魔王と戦った者に与えられるスキル。

 対魔王時に各種能力が向上する。


 特級と超級の鑑定妨害抵抗スキルをSランクで得られている。

 きっと先程ミサオさんと鑑定妨害合戦を繰り広げたせいだ。

 また対魔王Aスキルを習得していた。

 確かに鑑定妨害合戦は戦いの内に入る。それで取得できたのだろう。


 思っていた通りのスキルの他にも対魔王スキルをゲットできていた。

 ミサオさんと戦うことになるとは思えなかったが、スキルが増えたことは素直に嬉しい。


「魔王スキルはどうやったら手に入るのでしょうか?」


 そう小声で口にする私。

 ミサオさんにはまだまだ教えてもらいたいことがたくさんある。

 まだまだ友人関係を続けてもいきたい。

 少々の不安が脳裏をよぎるが、私はミサオさんがいなくなったりしないと言っていたのを信じることにした。


 そして私は次に依頼掲示板を見にいった。

 フランシュベルトのように通信の魔道具こそないが、所狭しとたくさんの依頼が並んでいた。


・Fランク依頼:東の平原で蜥蜴の収集

・Eランク依頼:東の平原でのゴブリン討伐

・Eランク依頼:フランシュベルトまでの荷物運搬

・Dランク依頼:北の森のモンスター討伐

・Cランク依頼:迷いの森までの護衛

 etc……。


 受けてみたい依頼がいっぱいあった。

 特に迷いの森までの護衛依頼などはとてもやってみたい。

 フランシュベルトまでの荷物運搬依頼などは今受けても良いのではないか?


「どうです? 魔族領でもさほど変わらないでしょう?」


 エルミナーゼさんが私に声をかけてくる。


「はい。基本は同じですが、やはり新しい場所での冒険は胸踊ります」


 私の答えにエルミナーゼさんが「フフフ」と笑う。

 新しく訪れた冒険者ギルドに満足した私は、宿へと戻ることにした。

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