79 魔王との会食

 午後3時半。

 西の森西端駅に着いた私、レイナ姫、リネスさんの3人。それに既に西端駅に居たレェイオニードさんを入れた4人で、私達は魔族領へと向かうこととなる。


「はいこれ、レェイオニードの着替えね」


 レイナ姫からレェイオニードさんの正装が手渡される。


「ありがとうございます姫様。……と、やっこさん達が来たようだ」


 すると魔王軍旗を翻して騎馬が平原をやってきた。

 合計で5騎の兜を身に着けた騎馬が西端駅に降り立ち、その内1騎の女騎士が声を響かせた。兜のせいか素顔は見えない。

 しかし、この間のローレンスハイトさんとは別の人らしい。

 でも何か……私は得も言えぬ不思議な感覚がしていた。


「レイナ・アレーリア姫、その護衛とゴブリンエンプレスを屠ったという冒険者はいるか!?」


 私達が4人が手を挙げて応える。

 すると4騎から兵が降りると、私達に一頭ずつ馬が与えられた。


「皆、乗馬の経験はあるようですね? では着いてきていただく!」


 女騎士が先導し、私達は魔族領へと足を踏み入れた。

 初めての魔族領探索に私は内心ドキドキしてしまう。


 途中休んだりしながら馬上で1時間ほど過ごしただろうか、魔族領最東の街コルドナードへと着いた。

 元素列車こそないものの、フランシュベルト同様の街並みをしている。

 きっと近年は人族との交流もあってかなり街が発達したのだろう。


 街へ降り立つと、私達は宿を与えられた。

 それもきっと高級宿である。

 入り口にあった絵画を鑑定したところ得られた結果がこうだったからだ。


 【ルナのコルドナードの街並み】

 ルナが描いたコルドナードの街並みの絵。

 等級値5000。


 私も一度だけ見たことがある、有名画家ルナの絵だ。

 魔族領にも彼女は進出していたのか……。

 私が見たのはアレーリア王城を描いたという1枚だった。

 セーフガルド美術館に限定展示されていたものだ。


 私は与えられた宿の一室でドレスへと着替えると、レイナ姫とリネスさんの一室へと足を向けた。

 ノックをすると、すぐに緑色のドレスに着替えたリネスさんが出た。


「リネスさんとてもお似合いです……」

「ありがとうございます。セーヌさんも……」


 互いのドレス姿を褒め合う。そして部屋の奥にいたレイナ姫がやってきた。


「セーヌさんもリネスもばっちりね!」


 そう言って出てきたレイナ姫も、冒険者姿と違い豪奢なドレスに身を包んでいて、私の知る冒険者としてのレイナ姫とは少し違って見えた。


「レイナ姫も……さぁ会食の時刻が迫っています。宿のロビーへ向かいましょう」


 私がそう促すとレイナ姫が「そうね!」と力強く応じた。


 宿のロビーへと着くと、私達をここまで連れてきた女騎士らしき女性がいた。

 しかし先程までの鎧姿と違い、男性用の正装に身を包んでいた。

 だが顔はマスクで隠されていて見えない。金髪であることが伺えるようになったのみだ。


 レェイオニードさんも既に私達が買ってきた正装に着替えてロビーにいた。


「用意はよろしいようですね。では、参りましょう」


 馬車を用意してあったらしく、私達は宿の正面玄関で馬車へと4人で乗り込む。

 女騎士はここまで来た時と同様、馬で馬車を先導する。

 そうして10分ほど馬車に揺られ、私達は会食の場であるレストラン・ド・コルドナードへとたどり着いた。


 店に通され、私達は大きな楕円形のテーブル席に着いた。

 まだ魔王は来ていないらしい。

 そう思った時だった。


「魔王陛下、ご来場です」


 私達をここまで案内してきた女騎士がそう言って敬礼する。

 すると、魔王がやってきた。


 紫色のドレスに身を包んだ魔王がゆっくりと近づいてくる。

 今代の魔王が女性とは聞いたこともなかったが、しかし妙齢の女性に見える。

 顔には女騎士同様にマスクがされていて、その漆黒の長い髪以外は窺い知ることが出来ない。


 魔王と呼ばれた女性がゆっくりと私達と同じテーブル席に着き、女騎士も同様に席に着く。

 そして、魔王が口を開いた。


「本日は急な招待にも関わらずご出席頂いた事、感謝申し上げます。

 まずは自己紹介から……私が今代の魔王を務めさせて頂いております。

 魔王として名をアルケニアと申します、以後よしなに」


 魔王がそう名乗り、レイナ姫が続く。


「アレーリア王国第二王女、レイナ・アレーリアと申します。

 本日はご招待感謝致します魔王陛下。

 ご紹介いたします。こちらエンプレスを討伐した上級冒険者で冒険者ギルド受付もやっているセーヌさん、そしてレェイオニードです。それから私の護衛のリネスですわ」

「超級冒険者の城塞のレェイオニード様のお噂はかねがね……。

 しかし、エンプレスを討伐したのがレェイオニード様お一人ではないのですね?」


 魔王アルケニアはそう言って首を傾げる。

 するとレェイオニードさんが口を開く。


「私が魔法攻撃を防いでる隙に、セーヌさんが仕留めました。

 しかし私一人では苦戦していたでしょう。セーヌさんの突進力あっての迅速な討伐でした」


 レェイオニードさんが言い終えると、ちょうど食前酒が運び込まれる。


「なるほど、防御を城塞のレェイオニード様が、攻撃をセーヌさんが行ったというわけですね」


 手を合わせ納得するようにする魔王アルケニア。

 そして、魔王アルケニアは食前酒が注がれたグラスを手に取った。


「それでは、勝利に乾杯といたしましょう。勝利に……!」

「勝利に……!」


 私達が継いで乾杯の合図を口にし、グラスに注がれたワインを一口飲む。

 ワインを飲んだことがないわけではないが、きっと良いワインなのだろう。果物の濃厚な味がいつもよりもした気がする。緊張で分かった味はそれくらいだ。


 私がワインの味について考えていると、前菜が配膳され始めた。

 前菜は薄く切られたハムの上に野菜が乗りソースがかけられたものだ。


「セーヌさんは冒険者ギルド受付もやっているとか……?」


 魔王アルケニアが何故か私に興味津々だ。

 しかし、何故だろう。私はここまで案内してくれた女騎士と同じ不思議な感覚を魔王アルケニアにも抱いていた。


「はい。上級冒険者ギルド受付をやらせて頂いています」


 私が答えると、魔王アルケニアは「まぁ、それは凄いですね冒険者との二足の草鞋だなんて」と驚く様子を見せる。

 それに私は「はい。大変ですが自分なりに頑張っています」と答える。


 その後、話題はリネスさんへと移り、魔王も自身の護衛の女騎士を紹介する流れになった。


「申し遅れました。ナーゼと申します。

 今宵の魔王アルケニア様の護衛を仰せつかりました」


 ナーゼさんの紹介が終わると、皆のドレスが似合っている事などを魔王が褒める。

 そして前菜を皆が食べ終え、スープが運び込まれてきた頃、痺れを切らしたのかレイナ姫が切り出した。


「それで……今回の会食の目的は何もゴブリンエンプレス討伐の祝勝会というわけでもないでしょう? 魔王陛下、何故私達が呼ばれたのかの真意をお聞かせ願えますか?」


 その問いに、魔王アルケニアはじっとレイナ姫を見た。

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