76 レイドクエストの終わりにもふもふ

「レェイオニードさん、念のため鑑定索敵を飛ばしたほうがいいのでしょうか?」


 私が聞くと、レェイオニードさんはむず痒そうな顔をしながら考え込み、


「いや、今はやめておきましょうセーヌさん。

 相手に敵対する意思がないことを示すのが重要だ」


 と答えた。


「しかし、引いてくれるでしょうか?」


 リエリーさんが指回しをしながら唸る。

 確かに私達は、大きくフランシュベルトの北辺りで魔族領境界を、元素列車の線路を超えてしまっていた。本当であれば侵攻であると捉えられても仕方がない。

 しかし事前にフランシュベルト冒険者ギルドから災害クラスの緊急レイドクエストが発布された事は、魔族領にある冒険者ギルドにも知らされているはずである。

 それを確認さえして貰えれば、兵を引いてもらえるかもしれない。


 未だゴブリンの残党狩りが行われていて、ライン騎士団本隊と冒険者大隊が合流できてもいないのだ。このタイミングで攻め入られては、一溜まりもない。


 女騎士が去ってから3時間ほど経ち、後方を監視していた冒険者が声を荒らげた。


「魔王軍! 後退していきます! 繰り返します! 魔王軍! 後退していきます!」


 その報告にほっと胸を撫で下ろす私達。


「どうやら冒険者ギルドで確認が取れたようですね……!」


 リエリーさんが言い、レェイオニードさんも「あぁ良かった」と安心するように言った。


 既にいつもであれば寝る準備をするような時間だったが、今日は徹夜になりそうだ。

 私は交代していく魔王軍の灯りを眺めながら、淹れたての温かいコーヒーを啜った。




   ∬




 魔王軍の後退から2時間経ち、ようやくライン騎士団本隊と冒険者大隊本陣が合流した。

 ライン騎士団本隊もかなり手痛くやられているらしく、後方の部隊とは未だ連絡が取れてはいない。あくまでも前方の部隊とが合流しただけだ。

 既にゴブリンたちの掃討はほぼ終わっているように思えたが、ここまでライン騎士団本隊が疲弊しているとは思わなかった。


「ゴブリン軍師の相手は相当きつかったようですね……」


 リエリーさんがそう推察する。


「こちらには超級冒険者であるレェイオニードさんが居ましたから……被害が少なく済んだのでしょう」


 椅子で眠っているレェイオニードさんの方をちらりと見やる。

 実際、エンプレスの魔法攻撃を凌いでくれなければ、私はエンプレスに接近すらできなかった。レェイオニードさんの功績は大きい。

 もしエンプレスの特級魔法攻撃が、他の冒険者に向けられていたらと思うとぞっとした。


「セーヌさん。私達は早めにフランシュベルトへ報告に向かいましょう」


 エルミナーゼさんがそう提案し、私はこくりと頷いた。

 そうして私、エルミナーゼさん、リエリーさん、キアラさんの4人は西の森西端駅の本陣から東へと歩み始めた。


 5分ほどして、私の元へ一匹の狼がやってきた。王狼さんだ。


「こんばんわ王狼さん」

「ヴォン」

「先程は助かりました……ライン騎士団本隊との戦闘は避けられましたか?」


 私は心配になっていたので聞く。


「ヴォン」

「そうですか、大丈夫だったのですね。良かったです」


 王狼さんが大丈夫そうな声をあげ、私は王狼さんを撫でた。

 モフモフとした毛が私の右手を包み込む。


「セーヌさんいつの間にか、動物と話ができるようになったのですか!?」


 リエリーさんが驚きの声をあげて、王狼さんを撫でたそうにしている。


「王狼さん。私の仲間のリエリーさんです」


 そう王狼さんに紹介すると、王狼さんはリエリーさんへと近づいていく。


「ヴォン」

「触っていいんですかね? やった!」


 王狼さんに飛びかかるように抱きつくリエリーさん。

 王狼さんは重たそうにしている。


「狼達の加勢がなければもっと後方へ後退して、魔王軍に更に睨まれることになっていましたからね。彼らが居てくれて良かった」


 エルミナーゼさんが感心するようにそう言う。


 私達が再び歩み始めると、王狼さんはひっそりと後ろを着いてくるようだった。

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