75 魔王軍

 ゴブリンエンプレスを倒した。

 主君を無くし散り散りになるゴブリン達を追わず他の冒険者に任せることにする。

 ほっと息を吐き出して、この戦場が終わっていく様を最前線で眺める私。


「セーヌさん!」


 レェイオニードさんが追いついてきた。


「エンプレスは……!?」

「はい。倒しました」


 移動式台座の上に転がるエンプレスの亡骸を大剣で指し示す私。


「そうか……! よくやってくれた。さすがは俺に全力を出させたセーヌさんだ!」


 とレェイオニードさんが私を褒めそやす。

 そんな中、私はエンプレスの亡骸から装飾品の類とナイフを戦利品として集める。

 既に倒したオーガや宮廷術師の分の戦利品を回収し忘れているが、そんな余裕はなかったのだから仕方がない。他に周囲の亡骸から首飾りをメインとして、奇術師のナイフや帽子、そして宮廷術師の法衣や杖先の宝石などをできる限り回収した。


 そして後方へと戻ると、リエリーさん、キアラさんを発見して合流した。


「セーヌさん。エンプレスは倒されたと見ました。敵が敗走を始めてますからね」


 リエリーさんが指をくるくるっと回しながら戦況を推察する。


「はい。リエリーさんのご推察の通りです。エンプレスは倒しました」

「本当ですか? 凄い」


 キアラさんがそう言い、リエリーさんも「さすがはセーヌさんですね」と笑顔だ。


 そこへエルミナーゼさんも合流した。


「ゴブリンオーガを倒すのもさすがに疲れました……」


 さすがに疲弊したのかそう言ってキアラさんに回復魔法を要求するエルミナーゼさん。


「お怪我でも?」


 私がそう尋ねると、


「いえ……単純に疲労にもヒールは効くんですよ。元素力の回復が出来るのが大きい。それだけです」と頭を振った。


 すぐにキアラさんのヒールがエルミナーゼさんに注がれる。


「有難う……助かりました」


 元気を取り戻したのか、エルミナーゼさんがそう言い、私達は一度本陣へ戻ることにした。




   ∬




「伝令! ライン騎士団本隊。西の森入り口付近にてゴブリン軍師の討滅に成功したり! 繰り返します。ライン騎士団本隊。西の森入り口付近にてゴブリン軍師の討滅に成功したり!」


 本陣へ私達が戻ってしばらくすると、そんな報告が鳴り響いた。

 よほどライン騎士団本隊は軍師相手に苦戦したと見える。既に作戦開始からは4時間が経過している。


 私達同様既に本陣へ戻って指揮を始めていたレェイオニードさんもその報告を受け、安堵して椅子に座り込んだ。その時だった。


 西の森西端駅本陣後方を警戒していた冒険者から報告が走る。


「伝令! 後方に魔王軍あり! 繰り返します! 後方に魔王軍あり!」

「何!?」


 レェイオニードさんが驚くように立ち上がる。

 その直後の事だった。


「伝令である! 伝令である! 攻撃の意思はない!」


 魔王軍旗を掲げた馬が3騎、叫びながら西の森西端駅へとやってきた。

 そしてその内の1騎から降り立つ一人の女性騎士。

 女騎士は兜を取ると、その長い耳と肩ほどまでのオレンジ色の髪を靡かせ言った。


「我が名はローレンスハイト、指揮官と話がしたい!」


 そう叫ぶ女騎士。

 敵意がないと判断されたのかレェイオニードさんの元へ通された。

 ローレンスハイトさんは鎧を着込んだレェイオニードさんを指揮官と判断したのか、向かって言う。


「この度の軍事行動の概要を聞かせられたし。諸君らは魔族領境界を大きく踏み越えて侵攻してきている」

「それは……確かにゴブリン共を惹きつけるためにフランシュベルトの北で大きく魔族領境界を超えたと思うが、これは災害だ。街の被害を避ける為には仕方がなかった! 我々にも魔族に対する敵意はない!」


 レェイオニードさんがそう説明する。


「どういうことか? ゴブリンと言っているが……?」


 そこへエルミナーゼさんが口を挟んだ。


「我々は冒険者ギルドの災害クラスのB~Sランク緊急レイドクエスト大隊です。

 ゴブリンキングの発生が危惧された為に発足されました。

 今頃、魔族領の冒険者ギルドにおいても伝令が届いているのでは……?」

「なんと……それでは我々魔族と敵対するための部隊ではないと……? 確認しましょう」


 ローレンスハイトさんはは馬のもとへと戻ると、その内1騎が旗を翻して帰っていく。

 ローレンスハイトさんが再び私達の元へと帰ってきて、更に状況を確認する。


「ではこれは冒険者部隊であると……?」

「はい。間違いありません。私は冒険者ギルド受付のセーヌと申します。

 本来の所属はセーフガルドですが、私もこの大隊が冒険者部隊であると保証します」


 私が冒険者ギルド受付で有ることを明かすと訝しむような目線を向けてくる。


「冒険者ギルド受付の服装には見えないが?」

「はい。いまは冒険者として活動していますから……」


 私が説明し、エルミナーゼさんがさらに付け加える。


「普段は冒険者とギルド受付の両立をされていますよ。

 私は特級冒険者のエルミナーゼです。私もこの部隊が魔族に敵対するものではないことを保証します。西の森入り口付近にいまいるであろうライン騎士団本隊も、同様にゴブリン軍団を相手に動いていたことを私が保証しましょう」

「エルミナーゼさん……こんなところで同胞に出会えるとは思っていませんでした。

 であれば、あなた方を信じてみましょう。

 私は魔王軍本陣へ戻ります」


 ローレンスハイトさんは兜を再びかぶると、2騎で魔王軍本陣へと去っていく。

 彼女が去っていった方角を見やると、平原にたくさんの明かりが灯って見えた。

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