73 西の森の激突
なんとか南西に後退してゴブリン本隊を惹き付けつつ、フランシュベルトの街ではなくフランシュベルト西の森まで後退してきた私達。しかし、戦場はすでに魔族領境界を一部超えている。フランシュベルトの街を避けるために仕方がなかったとはいえ、大丈夫だろうか?
西の森魔族領境界ギリギリである西の森西端駅に場所を移された冒険者レイドクエスト大隊の本陣。
私達は超級冒険者レェイオニードさんと向き合う。
「レェイオニードさんレイナ姫たちは?」
「あぁフランシュベルトだ。防衛にかなりの数を置いてきた」
「なるほど……」
確かに念には念を入れてフランシュベルトの街防衛にも数を割いておきたい。
レイナ姫を主戦場に持ってくるというのも危険だし妥当な線だろう。
私が納得しているとレェイオニードさんが問うた。
「敵の動向は?」
「はい。ゴブリンエンプレスなる女帝スキル持ちのレア個体が軍団を率い南下してきているようです」
エルミナーゼさんが報告すると、肘を付いて座っていたレェイオニードさんがにやりと笑う。
「ほう……キングかと思いきや女帝と来たか。噂に聞く皇帝でないだけマシというものか?」
「私の鑑定索敵によれば、ゴブリン軍団は本隊がほぼ無傷でこちらへ接近中です」
「軍師なる個体は?」
「確認できませんでしたが、もう少し後方にいるものかと。本隊にはエンプレスの他に……」
私は机に広げられた地図にゴブリンの個体名や数などを記入しながら報告した。
「いやはや、セーヌさんの鑑定索敵は凄まじいですね。ここまで敵の情報がはっきりしていれば戦いやすいというものだ。ありがとうございます」
そう言うとレェイオニードさんは立ち上がった。
「俺が出てゴブリンエンプレスを討ち取る……!」
レェイオニードさんがそう宣言し、周りの冒険者から歓声が上がる。
「エルミナーゼさん、ゴーガンさん、それからセーヌさんは俺と一緒に来てほしい。露払いを頼みます」
「はい……!」
私は返事をして気合を入れた。
∬
本陣から出撃して5分ほどたち、ゴブリン軍団の本隊が見えた。
魔族領境界ギリギリまでゴブリン達を惹きつける作戦は成功している。
きっとフランシュベルトの街は大丈夫なはずだ。
ゴブリンの前衛を務めるのは無数のゴブリンやゴブリンアーチャーなどの個体だったが、中衛にゴブリンオーガが群れているのがひと目に分かる。
私達はゴブリンの群れと対峙、そして対決の時がやってきた。
「突撃!」
レェイオニードさんの指示で冒険者大隊本陣がゴブリンの群れに突っ込む。
真っ先に敵陣に突っ込んでいったのは城塞のレェイオニードさんだ。
私達も突貫してゴブリンを薙ぎ払う。
しかし敵の数が多い。
このままでは一時的にとはいえ数で押し切られてしまうかもしれない。
そんな時だった。
「ヴォオオオオォオォン」
雄叫びが辺り一帯に響き渡る。上級威嚇魔法だ。
ゴブリンたちや冒険者たちがその上級威嚇魔法で一瞬動きを止めている中、私は必死でそれに対抗し、ゴブリンたちに向けて大剣を振るう。
雄叫びが戦場全体に響き渡ると、やってきたのは狼達の群れだった。
「こんな時に増援か……?!」
私の隣にいた冒険者が忌々しそうに言い放つ。
しかし狼の群れは冒険者集団を通り過ぎると、ゴブリンの群れへと飛びかかっていった。
そして私の隣にこの間会った王狼がやってきて、「ヴォン」と鳴いた。
「助けてくれるのですか……?」
「ヴォン」
王狼は私の言に返事をするように再び鳴くと、ゴブリンの群れへと突貫していく。
「エルミナーゼさん、リエリーさん、キアラさん! 狼は味方のようです! ゴブリンに集中しましょう!」
私が近くにいたパーティメンバーにそう伝達すると、リエリーさんが「皆さん狼は味方です!」と周囲の冒険者達に大声で叫ぶ。
エルミナーゼさんとキアラさんがそれに続き、しばらくすると冒険者たちは狼の群れと協力してゴブリン軍団と戦い始めてくれた。これならば数に押されることもないだろう。
前衛の下級ゴブリンの相手は狼と冒険者たちに任せれば良い。
私は先行するレェイオニードさんに追いつこうと神速を発動した。
周囲の草元素が集まり、緑色の光を帯びた私の体が加速していく。
前方にレェイオニードさんと数体のゴブリンオーガを発見。
「ゴブリンオーガ。一度倒した相手に遅れは取りません……!」
私はレェイオニードさんの相手取るゴブリンオーガの内、左端にいた2体に狙いを定めた。
そして神速で通り抜けざまにその首を立て続けに狩る。
鮮血が乱れ飛び、2体のゴブリンオーガがその巨体をゆっくりと横たえる。
確認すると、レェイオニードさんも残りのゴブリンオーガを倒し終えたところだった。
さすがは超級冒険者である。
そこへ、奥から魔法攻撃がやってきた。
燃え盛る火炎が私の肌を焼く前に、盾を持ったレェイオニードさんが私の前に割り込む。
「ファイアボールですか……?」
「いや、これは上級炎魔法のヘルファイアだよ」
そう言って炎を防ぎ続けるレェイオニードさん。
その盾は元素力の光を帯びて輝いていた。
なんらかの防御スキルを発動しているのかもしれない。
火炎魔法が止み、再び攻勢へと転じる私達。
私が神速で突っ込むと、法衣のようなものを纏ったゴブリン宮廷術師らしき個体を発見。
距離を詰めてしまえば、後衛の術師など脆いものだった。
大剣を遠慮なく振り回し片っ端から撃破した。
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