72 ゴブリンオーガ
私は大剣を構え、ゴブリンオーガを見据える。
痺れを切らしたのか、先に動いたのはゴブリンオーガだった。
ゆっくりとしかし確かな速さで右手に持たれた大斧が左から右へと払われる。
私はその攻撃を大剣で受けると、そのまま左側へといなす。
ギィィイィィ。
鈍い金属同士が擦れ合う音が辺りに響く。
ゴブリンオーガの攻撃は重かった。
私は堪らず身体強化して、大斧を左側下方へと強引にいなしきる。
すると、地面に大斧が斜めに突き立った。
チャンスだ! 私は咄嗟に大剣を構え直すと、ゴブリンオーガの首めがけて一閃。
ザシュッという音を立ててゴブリンオーガの首へと大剣が切り込む。
しかし甘い。完全に首を切り落とすには至らず、大剣と共に宙に浮く私。
宙に浮いた私にゴブリンオーガの左手が迫った。
「これで終わりです……!」
私はゴブリンオーガの左手に捕まる前に、両腕を身体強化して大剣で強引にゴブリンオーガの首を薙ぎ払う。すると、ゴブリンオーガの左腕を巻き込む形で、大剣が振り下ろされた。
ゴブリンオーガの首が飛び、左手も断ち切られる。
私が着地するのと、ゴブリンオーガの首から血飛沫が溢れ出るのとは同時だった。
「まず1体!」
私はそうしてゴーガンさんの方を見た。
するとゴーガンさんがゴブリンオーガの大斧を受けているところだった。
私は加勢すべきか迷ったが、相手は特級冒険者である。
ゴーガンさんに任せておくのが正解だろう。
私はそっとゴーガンさんに近づくと、「ゴブリンオーガ1体を倒しました」と小さく報告した。
「おう……! こっちももう終わるところだ!」
とゴーガンさんが良い、ゴブリンオーガの左胸へと鋭い斧撃が刻まれた。
もう数度同じ箇所に攻撃を受けていたようで、ゴブリンオーガは雄叫びをあげると暫くして倒れた。
「これで2体目……! いや3体目か。やるな嬢ちゃん達」
ゴーガンさんがそう言うと、ゴブリンオーガを倒したエルミナーゼさんが合流してきた。
「まさか俺よりも早くゴブリンオーガを仕留めちまうとはな……嬢ちゃんたち名前と階級は?」
「特級冒険者のエルミナーゼです」
「上級冒険者のセーヌと申します」
そう報告すると、「片方は上級冒険者だって!?」とゴーガンさんは驚くような視線を私へと向けた。
「上位個体のゴブリンオーガをこうも容易く相手にできる上級冒険者たぁな。驚いたぜ」
「いえ……大きな相手を前にするのが初めてではなかっただけです……」
「ほぅ……ゴブリンオーガほどの巨体を相手取るのが初めてじゃないと……?」
私が答えると、訝しげな目線をこちらへ向けてくるゴーガンさん。
「それよりもです。本陣のレイド責任者レェイオニードさんより西へ展開しつつ徐々に後退せよとのことです。ゴーガンさんのパーティメンバーはどこに?」
エルミナーぜさんが再びゴーガンさんに伝令しつつ聞く。
「あぁ、聞いていたよ。
だがしかし、もう少し先にうちのパーティメンバーが王冠持ちのキングを発見したんだ。
それを後陣に伝える為に一度パーティには下がってもらったんだが……同じくらいにゴブリンオーガ3体に襲われてな……助かったぜ」
「では他にパーティメンバーはいないのですね?」
「あぁ……俺が
「2km先にエンプレスなる個体を――女帝スキル持ちを発見しました。追いつかれる前に下りましょう」
私が報告すると、ゴーガンさんはひゅーと口笛を吹いた。
「おいおい、女帝だって!? つい昨年、王国の東でゴブリンエンペラーという皇帝スキル持ちの個体が出現して、神級冒険者の誰だかが倒したって話じゃねーか。そのレベルの個体が出現してるのか?」
「はい。そのようです。しかし皇帝とは神級冒険者が相手に出てくるような厄介な敵だったのですね……」
私もその話を研修時代に聞いたことはあった。
精神をやられてしまった者がいた話だ。
だかがゴブリンと思っていたが、神級冒険者がでてくるなんて……!
それほどの敵をいま私達は相手にしているのか……!
私は自分の無知に、そしてゴブリンエンプレスに恐れおののいて震えてしまった。
「おし、じゃあ下がるぞ。エンプレスの相手は超級冒険者様に任せるとしよう」
ゴーガンさんがそう言い、私達は残ったゴブリンを蹴散らしつう南西へと後退を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます