66 リオネスベルクにて

 発車して4時間ほど経ちお昼の時間になった頃、私達はリオネスベルクにたどり着いた。

 西側は谷。北側は登山するとなれば過酷極まる中央山脈が位置し、これ以上ない侵入者を阻む壁となっている。ここリオネスベルクでは、南側と東側から以外の侵入はほぼ不可能と言って良い。


「停車は1時間程ですって、どうするセーヌさん?」

「こちらには冒険者ギルドがあるはずですから、そちらへ顔を出してみようかと」

「ほぉ……こんな中央山脈の玄関地に冒険者ギルドが……?」


 リネスさんが知らなかったようで、不思議そうな顔をしている。


「えぇ……なんでも十数年に一度、北の国からの使節団が中央山脈を超えて訪れることから、重要国境として冒険者ギルドを置いておく必要性があったとかなんとか」

「……ここアレーリアではなく北の国からの……」


 納得するかのようにぽつりとそう言うリネスさん。


「北の国からの使節団……私はまだ王都でお相手したことはないわね。

 私が小さい頃に来たのかしら?」

「はい。私も同様です」


 レイナ姫はまだ北の国の人たちに会ったことがないらしい。

 それはリネスさんも同様のようだった。

 私も生まれてこの方セーフガルドに住んでいるが、北の国の使者を迎えた記憶はない。

 王都アレリアに向かうとなれば、セーフガルドを通るはずなのだけれど……。

 無論小さな頃に訪れていれば、その記憶は残らないからそれが原因かもしれない。


「とにかく、あまり時間もありませんから急ぎましょう」


 そうして私達は急いでリオネスベルク冒険者ギルドへと向かった。




   ∬




「こんにちは。セーフガルド冒険者ギルドから来ましたセーヌと申します。

 ギルドマスターはいらっしゃいますでしょうか?」


 冒険者ギルドへ着いて早々、受付で私がそう尋ねると、私とそう変わらない年齢の少女が対応してくれた。


「はい……少々お待ち下さい。お母さん! セーフガルドから来た人だって~」


 少女がそう背後の婦人へと呼びかける。


「はいはい。それから業務中はギルドマスターと呼びなさいっていつも言ってるでしょう?」

「は~い」

「どうも、こんにちは。私がギルドマスターのミランダです」

「ご丁寧に……私はセーヌ。わけあってセーフガルド冒険者ギルドから来ました」


 それから私がここへ来た経緯を話す。

 するとミランダさんが納得した表情を見せ、私の横にいたレイナ姫に一礼する。


「フランシュベルトにお姫様が来るって話は聞いてはいましたが、まさかここリオネスベルク冒険者ギルドに来てくれるだなんて思ってもいませんでした。

 なにもないところですが、歓迎致します」

「そう、ありがとう。特に最近なにか変わったこととかはないかしら?」


 レイナ姫が聞き、ミランダさんが「特に何も……」と答える。


「そう……それじゃあ依頼を見させて貰うわね!」


 レイナ姫がそう言って、私達は受付から依頼掲示板へと向かう。

 掲示板を見やるが、ミランダさんの言うように特別な依頼は何も張り出されていない。


・Fランク依頼:羊の毛刈りの手伝い。

・Eランク依頼:東の森で木の実収集依頼。

・Eランク依頼:フランシュベルトまでの行商の護衛依頼。


「この護衛依頼というのは……?」

「えぇ、最近フランシュベルトに向かう道中でゴブリンが増えてまして、そのせいで護衛が必要になっているようです。もしやキングが現れたのではと、フランシュベルト冒険者ギルドの方へ調査依頼を出している最中なのですが……」

「あぁ、その依頼なら私達も見たわ!」


 レイナ姫がぽんと手を打った。


「杞憂であれば良いのですが」

「えぇ……そうですね」


 ミランダさんの心配に、私も相槌を打つ。


「セーヌさん私達でなんとか出来ないかしら?

 この間Eランクに昇格したわけだし、Dランク依頼を受けることもできるわよね?」

「依頼の受注は可能ですが、もしゴブリンキングが発生していた場合、到底私達に請け負える仕事ではなくなります。止めておきましょう……」

「ならちょうどいいじゃない。いま私達はライン騎士団を伴ってるわけだから問題ないわ」

「それはそうですが……」


 レイナ姫はゴブリンキングの調査依頼にご執心のようだ。


「斥候として向かうだけよ。もしキングがいたらライン騎士団本隊に任せましょう! ね?」

「本当に偵察だけですよ?」


 私が折れて強く偵察だけだと念を押すと、「やったー!」とレイナ姫はおおはしゃぎだ。


「ゴブリンはどの辺りで?」


 私が聞くと、ミランダさんが地図をだして「この辺りです」と指し示した。

 ちょうど、行きで通ってきた途中駅のある場所付近だ。

 私はこくりと頷くと、リネスさんの顔を見た。


「それでは本隊に連絡に向かいましょう」


 リネスさんが神妙な面持ちでそう言って、私達はリオネスベルク冒険者ギルドを出た。

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