65 元素列車

 領主城でレイナ姫とリネスさんに合流した私は、元素列車を前に佇んでいた。


 一番後方の車両だ。

 ライン騎士団と姫様たちが出陣式を行っているので、私はそれに参加することなく、一足先に元素列車へと来ていた。


「セーヌさん!」


 ライン騎士団と出陣式を終えたレイナ姫が、私に駆け寄ってくる。


「私達はどちらの車両に乗り込めばいいのでしょうか?」


 私がレイナ姫に問うと、


「中程の車両が最も安全性が高いってことでそこらしいわ。

 さっそく行きましょう! ほらリネスも」


 後ろに向かってリネスさんに呼びかけるレイナ姫。

 レイナ姫に遅れてやってきたリネスさんが「お待ち下さい姫様~」と姫に声をかける。

 しかし姫はそれを聞いてか聞かずか、私の腕を取ると足早に元素列車へ乗り込み、中程の車両へ向けて足を進めた。


 中へ入ると、既に乗り込んでいるライン騎士団の後衛と思しき人員が目に入った。

 車両に席はなく、積み込まれた木箱を傍らに床にそのまま座るライン騎士団の後衛達は声をかけてくることはなく、私達は順調に車両の中央付近へと向かう。


 人員こそまだだが物資の搬入は既に終わっているようで、車両の中には食材が入っていると見られる木箱から芳しい香りが漂っていた。


「これは林檎かしら?」


 くんくんと鼻を鳴らしながら姫が私に問う。


 私も姫に習い車両全体に漂う匂いを嗅ぐと、芳醇な甘い香りが鼻へと伝わってきた。


「たぶんそうでしょうね。セーフアップルなら食べたことがあるのですが、フランシュベルト産は食べるのが初めてなので楽しみです」

「そうね! 私もセーフアップルなら城でいくらでも食べたことがあるわ。

 セーフガルドから納入されている林檎はどれもおいしかったわね」

「……王室御用達のセーフアップル。私も食べてみたいものです」


 おそらくは普通のセーフアップルが1~2エイダで買えるところ王室納入品は5エイダはくだらないのではないだろうか。セーフガルド有数の林檎農家が丹念に育てた一品はきっと美味しいに違いない。


 そんなことを話していると、次々にライン騎士団の兵が乗り込んできた。

 手狭になる車両を掻い潜るように進み、ようやく私達は目的の中央車両にたどり着いた。

 先程までの席のない車両と異なり、こちらにはしっかりと席が備え付けられている。


「ここね! 早速座りましょう」


 中央車両の更に中程の席に駆け込むように座るレイナ姫。

 私と少し遅れたやってきたリネスさんも、向かい合わせの席へと腰を据えた。


「元素列車に乗るのは初めてだから、乗り心地がどうなのか気になっていたのよね

 他の兵達と同じで床にそのまま座るのもありだけど、こうして席があって良かったわ」


 姫が嬉しそうに語り、私とリネスさんが相槌を打つ。


 座ってすぐに、リネスさんが行く先について話し始めた。


「まずは北東へ、魔族領境界北端の地リオネスベルク。

 その後、西の森西端駅など複数の駅で止まりつつ、南端は魔族領境界域唯一の港町サウスシュルツで一泊となります」

「なるほど……」


 私は視察旅程の日程を知らされていなかった。

 北はリオネスベルクから南は港町まで、それに昨日訪れた西の森西端駅にも止まるという。

 特に気になるのは港町だ。

 一泊ということは現地での食事に、海鮮にありつけるかもしれない。

 お使いで行ったサウスホーヘンで、二種の海鮮卵のごはんドンブリを食して以来の海鮮だ。


 食事の事を考えていると、レェイオニードさんやゲンゾウさん、ライン騎士団のお偉方が同じ車両に乗り込んできた。そしてジリリリリと車両内にベルが鳴り響くと車内アナウンスが流れ始める。


「ライン騎士団元素列車へご乗車頂きまことにありがとうございます。

 リオネスベルク行き、まもなく発車致します」


 そうして、私達の列車旅は始まった。

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