64 初めての視察

 トランを見つけた事で、ほどなくして西の森をあとにして冒険者ギルドまで戻ってきた私達。

 依頼掲示板まで来ると、備え付けられていた魔道具を手に取った。

 掲示されている依頼紙に書かれたとおりに数字のかかれた押しボタンを押すと、相手を呼ぶ音が受話器に鳴り響いた。


 暫くして、相手が応答する。


「はい!」


 可愛らしい女の子の声が聞こえる。


「あの、こちら冒険者ギルドなのですが、迷子犬の捜索依頼の達成をご報告する為にご連絡さしあげました」

「お姉さん? トランを見つけてくれたの!?」

「はい。あの、親御さんはいますでしょうか……?」

「ちょっと待ってね! ママー冒険者ギルドの人がトラン見つけてくれたってー」


 なにやらガタゴトと音が聞こえたと思うと、1分ほどして親御さんに変わってくれたようだった。私は事情を説明すると、トランを引き渡すために冒険者ギルドで待ち合わせをした。




   ∬




 30分ほど経っただろうか。

 小さな女の子を連れ立って、婦人が一人冒険者ギルドを訪れてきた。

 ギルドに入ってすぐ、私達を女の子が見つける。


「トランー!」

「ワン!」


 トランの名を呼びながら走ってきた女の子がトランに飛び込むように体当たりをする。

 トランはそれを受け止めると、再び「ワン!」と吠えた。


「どうもこの度は本当にありがとうございました」


 遅れてやってきた母親らしき婦人が私達に挨拶をする。


「いえ……本当に見つかって良かったです!」


 レイナ姫が答えると、婦人は事情を説明し始めた。


「えぇ本当に! 家族で西の森に散策に行った帰りにトランがいなくなってしまって、本当に困っていたんです。普段はとても賢い子で手綱すら必要のない子なんですが……。あぁ……そうでした、こちら依頼達成証です」


 そう言って、依頼達成証を手渡されたレイナ姫は、「確かに!」と言って微笑む。

 その無邪気な笑顔だけを見れば、この人が王族だなんて誰も思わないだろう。


 程なくして、親子はトランを引き取って去っていき、私達はギルド受付へと向かった。

 私が冒険者服のまま受付カウンターを超えて、依頼達成の報告をレイナ姫から受ける構図だ。


「はい。確かにEランクの緊急依頼達成となります。

 同時にEランク昇格おめでとうございます!

 報酬は100エイダとなります」


 レイナ姫に100エイダ金貨1枚を手渡す。


「初めての報酬ね!」


 レイナ姫はとても楽しそうに金貨を受け取った。


「おめでとうございます姫様!」


 とリネスさんも満足げだ。


 私は王狼の情報を書き記してギルドへの軽い報告書を作って提出。

 そして受付業務を終えた私は、二人の元へと戻る。


「セーヌさんもお疲れさま!」

「はい。お疲れ様でした」


 私がレイナ姫にペコリとお辞儀をすると、レイナ姫は今日の冒険の感想を述べ始めた。


「セーヌさん。トランと狼の群れを見つけたときに使ったあれは鑑定ですよね? あんな広大な範囲を鑑定してしまうなんて……凄すぎて途方もないです」

「いえ……受付業務に付随して付いてきたスキルですので」


 私がそう答えると、それでもあの範囲を一斉に鑑定してしまうなんて凄いとしきりにレイナ姫が私を褒めちぎった。それにリネスさんも「確かに姫様の言う通りです」と続いた。


「それよりも、私はレイナ姫の二刀短剣術におみそれしました」

「そ、そうかしら? 剣術指南役から教わったのだけれど、剣は重いから短剣にしたのよ。そしたら個人的に2つ持つ方がしっくりきて……あとは戦闘の基本を叩き込まれただけよ。

 セーヌさんに褒めてもらえるなんて照れるわ」

「それでは二刀なのは我流なのですね。とても良く訓練されたのでしょうね。

 狼の群れの攻撃にもしっかり対処できていたのが素晴らしかったです」


 私が褒めると、レイナ姫は「いやいや、そんなことはないです」ととても照れている。


「姫様は剣術指南役から入念に訓練を施されていましたから、当然の結果でしょう。

 このままフランシュベルトの視察が上手くいくといいですね」


 とリネスさんが藍色の瞳で優しくレイナ姫を見つめる。


「えぇ、そうね!

 西の森の西端には魔族領との境界があったはずだけれど、西の森自体は狼たち以外は平和そのものだったわね。植物系の魔物は定点に近づかなければ良さそうだったし、それにトランを連れた一般の家族が散策に行けるほどなんだもの」

「はい。狼たちには喧嘩を売らなければ攻撃を受けることもなかったでしょうから。とても安全性の高い森だと言えます。魔族領との境界までは行ってみませんでしたが、次回こそは」


 私がレイナ姫の言に賛同し、次こそは魔族領との境界を拝もうと心に決める。


「明日ライン騎士団を伴って、元素列車で端から端まで境界を視察する予定がありますから、魔族領との境界はその時にいくらでも見れるでしょう」


 リネスさんが腕を組み、明日の予定を述べる。


「そうね! 楽しみだわ。もちろんセーヌさんにも一緒に行って貰うから!」

「はい。楽しみにしています」


 そうか、明日には魔族領との境界に行けるんだ!

 私は心躍る気分で、まだ見ぬ魔族領との境界へ想いをはせた。


 そうしてレイナ姫とリネスさんと別れた私は、まだ人の多いフランシュベルト冒険者ギルドで、ひっそりと冒険者カードを水晶へと当てた。


 【鑑定妨害S】。

 鑑定を妨害する。


 【護衛戦闘S】。

 対象を護衛しながら戦闘を行えるようになる。


 【動物交流B】。

 動物と交流することができるようになる。


 まずミサオさんとフランシュベルトへの道中で特訓した結果だろう。

 鑑定妨害スキルがSランクで得られている。


 次に護衛戦闘スキルを獲得出来たのは大きいかもしれない。

 今までパーティーの後衛を守りながら戦ってきたことは何度かあったが、今回で初めて守護騎士のリネスさんに指示を受けて戦闘したことで獲得できたのだろう。

 今後はより上手く護衛対象を守れるようになるはずだ。


 動物交流スキルは、王狼とコミュニケーションをしたことで獲得したスキルだろう。

 今後、知性ある獣と話をする機会がないとも言い切れない。

 誰かに教えてもらえれば、Sランクを獲得できるのだが……。

 どちらにせよ、相手が人語を話せなければ交流は難しいのかもしれない。

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