63 フランシュベルト西の森
歩いて十数分ほどで西の森へと着いたレイナ姫、リネスさん、そして私の3人。
手がかりとして与えられた犬の絵を頼りに、森の捜索を始めた。
「黒の毛に白い顔……。それから折れた耳……。名前はトラン」
ぶつぶつとレイナ姫が探している犬の特徴を口にする。
私は鑑定索敵を使おうか悩んでいたが、ここフランシュベルトでの礼儀よりもレイナ姫の安全が最優先であると結論付け、鑑定索敵を展開することにした。
二人には「鑑定します。失礼します」と小さく謝る。
鑑定。
半球を描くように私の元素が辺りへと発散していく。
【レイナ・アレーリア】。
【人族。女性】。
【王族S】、【中級二刀短剣術A】、【中級炎魔法B】、【中級雷魔法B】、etc……。
【リネス】。
【人族。女性】。
【上級守護騎士A】、【上級片手剣術A】、【中級治療魔法C】、etc……。
近くにいた二人の鑑定情報が私の脳裏に刻まれる。
そして、辺りにいる魔物の情報も入ってきた。
【プランプランター】。
【植物族。不明】。
【捕食S】、【食虫S】、【食人D】、【光合成S】。
【王狼】。
【狼族。雄】。
【王狼S】、【噛みつきS】、【引っかきS】、【飛びかかりS】、【統率S】、【上級威嚇魔法A】、【人語理解C】etc……。
【狼】。
【狼族。雄】。
【噛みつきB】、【引っかきB】、etc……。
【狼】。
【狼族。雌】。
【噛みつきB】、【引っかきB】、etc……。
プランプランターはどうやら食虫食人の植物のようだが、王狼というのが気になる。
数々のスキルを備えていて、一筋縄ではいかない相手に思える。
私は鑑定索敵を続ける。
【トラン】。
【犬族。雄】。
【噛みつきC】、【引っかきC】、etc……。
見つけた!
私は即座に二人に報告する。
「迷子の犬を鑑定で見つけました。7時の方角に狼の群れと行動をともにしているようです」
「狼の群れですか、厄介ですね」
私の報告レイナ姫が苦い顔で返し、短剣を握りしめる。
「レイナ姫、狼犬との戦いのご経験は?」
私が問う。これだけの規模の狼の群れとなると、素人を連れてはいけない。
「いえ……私は対人訓練で短剣を習っただけです。でも……きっとやれます!」
「護衛ならば私におまかせを! 深手さえ負わなければ私の治療魔法でなんとかなります。
セーヌさんも私の指示通りに前衛として動いてくだされば問題ありません!」
リネスさんが姫の護衛の指示をしてくれるならば大丈夫かもしれない。
「それでは狼の群れへ向かいましょう。
途中、いくらか植物系モンスターに遭遇するやもしれません。注意してくださいね」
私の言に二人が頷きを返す。
そうして群れのいる方角へと一直線で向かう私達。
すると、プランプランターと思しき個体を確認。
巨大なウツボカズラのような姿で、地面に固定されていて動く気配はない。
私はさっと近づくと大剣を横に一閃。
プランプランターはグチュルルルというおぞましいうめき声を上げながら倒れた。
「この程度なら、私でも……えい……!」
姫様がプランプランターに近づきざまに一撃二撃を加える。
私が横薙ぎを繰り出した時と同様に、おぞましいうめき声を上げながら倒れるプランプランター。
「やった! やりました!」
「お見事です。姫様!」
レイナ姫はリネスさんと、初めてのモンスター討伐に喜んでいるようだった。
そうして狼の群れへ向けて進むと、直に群れの後方が見えてきた。
「あ! 黒の毛に白い顔、それから折れた耳……! トラン!」
レイナ姫が後方の狼の群れに混ざっていたトランを見つけて声をかける。
トランはレイナ姫の呼び声に気付いた素振りを見せるが、こちらに近づいてくる気配はない。
そして、トランと同様に隣にいた数匹の狼たちがこちらを見つけた。
そして上げられる遠吠え。
「ウォォォォォォン」
群れの全てに接敵を知らせるかのようなその遠吠えが響くと、暫くして私達は完全に狼に囲まれてしまっていた。
そして同時に、前衛らしい狼が私たちへと迫る。
「セーヌさん前衛は任せました! 私は姫を補助します! 姫もよろしいですね!?」
「了解しました……リネスさん、レイナ姫をよろしくお願いします!」
「……っはい! 頑張りましょう二人共!」
私は前衛として、迫りくる先頭の一匹に大剣を一閃。
狼は私の大剣で真っ二つとなり、死骸を散らす。
2匹、3匹と私の大剣の餌食となっていく狼たち。
私の背後からレイナ姫たちへも狼が数匹迫った。
しかし、私はそちらにかまけている余裕はない。
神速を使えば無論対応は可能だろう。
しかし、私は取り敢えずとばかりにレイナ姫とリネスさんの実力を見ることにした。
まずレイナ姫へと牙を露わに襲い来る狼。それをレイナ姫は見事な短剣捌きで片手でいなすと、もう片方の短剣が閃いたと思えば、狼の首が飛ぶ。
レイナ姫の背後に回ろうとした狼はリネスさんが対処し、その片手直剣で狼の胴を切り払う。
姫たちは見事な連携で狼を寄せ付けず、十二分に狼に対処できているようだ。
そうして私達が群れの数を減らすこと数分。
襲って来なくなった狼たちの群れのトランがいる方向へレイナ姫が声をかける。
「トラン! おいで! お家に帰ろう!」
そう声をかけられても、まだ狼たちの元を離れようとしないトラン。
どうやら群れのある一角を気にしているようだった。
鑑定索敵によれば、そこには王狼がいるはずだ。
「トラン! どうしたの! おいで!」
再びレイナ姫が声をかけるトランへ歩みよるが、トランはこちらへ来る気配がない。
そこへ、王狼と思しき個体が声を上げた。
「ヴォォォォン」
ただの雄叫びではない! 上級威嚇魔法だ!
標的となった姫様が「ひっ」っと小さく声を鳴らして尻餅をつく。
リネスさんは「姫様!」と言うのがやっとで恐れ慄いている。
私も腰が砕けないようにしっかりと地を足で踏みしめた。
しかし、上級威嚇魔法を放ってきた王狼だったが、それだけで私達を改めて襲ってくる気配がない。すると王狼が歩み出てきて私達を見据えた。
「……」
真っ直ぐに私を見つめる王狼。
私は負けじと視線を外さずに王狼を凝視する。
そんな状況が1分間ほど続いただろうか。
王狼は視線を私から外すと、トランに向けて「ヴォン」と軽く吠えた。
その王狼の声を聞いたトランは、ゆっくりとこちらへと歩み寄る。
そしてレイナ姫のもとへとたどり着き、レイナ姫が「よーしよく来たわね、よしよし」とトランを撫でる。
どういうことだろうか? そう言えば……。
私は思い出して再び鑑定索敵をかける。
【王狼】。
【狼族。雄】。
【王狼S】、【噛みつきS】、【引っかきS】、【飛びかかりS】、【統率S】、【上級威嚇魔法A】、【人語理解C】etc……。
やはりそうだ。王狼は人語理解スキルをCランクながら所持している。
もしかしたら、私達の言葉が通じているのかもしれない。
そう思いたち、私は王狼へと説明を始めた。
「その、私達は迷子になったこの子――トランを探す依頼を受けてきた冒険者です」
「……」
王狼は黙ったまま私を見つめる。なので私も説明を続けることにした。
「私は冒険者のセーヌ。
トランを見つけ声をかけたところ、そちらから攻撃を受けたので反撃しました。
ですが私達はあなた達を討伐しにきたわけではないのです」
「……」
王狼は再び黙ったまま私を見つめ、そしてトランへと視線を向けた。
「ヴォォン」
「ワン!」
トランに向けて王狼が軽く吠えると、命令を理解したかのようにトランが嬉しそうに応えた。
王狼は私達に背を向けると、「ヴォォン!」と大きく吠える。
そうしてトランを残し、私達のもとを去っていこうとする。
私はその背中に「あの、王狼さん。ありがとうございました!」と声をかけた。
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