58 エルミナーゼさんの特級への昇格試験

 私たちがライン騎士団の訓練場へ着くと、番人の兵士に止められてしまい中に入れなかった。

 しかし少し遅れて鎧を着込んだレェイオニードさんが来た。


「よう、お客さんだ。開けてくれ」

「はっ!」


 番人の兵士は訓練場の封鎖を解き、私たちは中へと入っていく。

 中へ入ると、何人もの兵士がトレーニングしているのが目に入った。

 彼らを呼び集めることなく、レェイオニードさんがエルミナーゼさんを見やる。


「特級に値する実力を持つかどうか、こいつらを使って確かめさせて貰う。

 王都から連れてきてライン騎士団に合流したばかりの精鋭達だ。

 一人々々は良くて上級冒険者に毛が生えた程度の実力だが、油断していると痛い目に遭うぞ……。カイル……! エーニア……! ダールハイゼン……!」

「はっ……!」


 呼ばれた兵士が順々に私達の元へとやってくると、レェイオニードさんに向かい敬礼した。


「装備を整えて訓練の準備だ。相手は特級冒険者に昇格希望だ。抜かるんじゃ無いぞ」

「はっ……!」


 呼ばれた3人が自身の装備を取りに、訓練場の端々へと散っていく。


「すまんが木剣を使ってもらう。

 実力を示すのに装備の質で戦いが決まっちゃ困るんでね」

「構いません」


 エルミナーゼさんが答え、木の両刃大剣がレェイオニードさんの手によってエルミナーゼさんに渡された。

 暫くして装備を整え終わったレェイオニードさんの部下たちが集まってきた。

 加え、呼ばれていない兵士たちも観戦しようと集まってきていた。


「エルミナーゼさん、頑張ってください」


 私がエルミナーゼさんの大剣を預かりそう言うと、エルミナーゼさんは「任せてください」と答えて剣を構え前に出た。


「勝負は一本勝負だ。相手を殺すのは避けること、それでは始めっ!!」


 レェイオニードさんの掛け声で勝負が始まった。

 相手は最初に呼ばれたカイルという青年らしく、周りのギャラリーから「やっちまえーカイルー」という声援が聞こえる。

 カイルさんは片手で木剣のみを構え、盾は持っていない。

 リエリーさんと同じく、典型的片手直剣の流派らしい。


「てやあああああ!!」


 最初に動いたのはカイルさんだった。

 雄叫びを上げると、凄まじい勢いで袈裟斬りを放つ。

 しかしそれを冷静に躱したエルミナーゼさんがカウンターの一撃を加える。

 カイルさんはなんとかそのカウンターに対処しようとしたものの間に合わず、エルミナーゼさんの木剣による重い一撃が、カイルさんの身につけていた胸当てへと炸裂。

 ボゴっという金属が拉げる嫌な音を響かせながら、カイルさんの身体が吹っ飛ぶ。


「そこまで! 勝者、冒険者のエルミナーゼ!」

「うぉぉおおおおぉおお!」


 男女入り混じったギャラリーからの歓声で耳がおかしくなりそうだ。

 歓声がひとしきり鳴り止むと、レェイオニードさんがエルミナーゼさんに声をかけた。


「さすがにやるな……だが次も同じように行くかな?」


 そう言うと、今度は槍使いの女性が前に進み出る。


「この程度の実力ならば武器を変え何度やっても同じでしょう……!」


 エルミナーゼさんが強気にそう言い放ち、剣を構えた。

 そして始まった二戦目。

 エルミナーゼさんがあっさりと相手のエーニアさんの槍を払い、一撃を加えた。


 そして三戦目の斧使いダールハイゼン。

 エルミナーゼさんは最初の相手の一撃を受けて距離を離すと、神速から渾身の一撃を放つ。

 ダールハイゼンさんはそれを受けたものの、木斧がそれに耐えきれず折れてしまいカイルさんと同じく胸元の防具に重い一撃の傷跡が残った。


「それまで! 勝者、冒険者のエルミナーゼ!」


 エルミナーゼさんへの祝いとダールハイゼンの健闘を称える声が混ぜこぜになった歓声が注がれる。

 エルミナーゼさんは木の大剣をレェイオニードさんに返すと、私達のもとへと戻ってきた。


「さすがです、エルミナーゼさん」

「上級冒険者クラスの相手がまるで相手にならないだなんて……何故今まで特級に昇格していなかったのですか?」


 私が尊敬の眼差しを向け、リエリーさんは疑問を口にする。


「たまたまですよ。私がフランシュベルトに滞在していたときに、超級冒険者がいなかっただけです。それで上級冒険者に留まったままだったんです」

「なるほど……!」


 リエリーさんも納得したようだ。そこへレェイオニードさんがやってきた。


「よぉ……やるじゃないか。さすがはゼフの爺が寄越した冒険者だけはあるな。

 特級への昇格に実力十分だと判断させてもらったよ。

 あとで手紙を渡すからそれを冒険者ギルドに届けるといい」

「ありがとうございます」


 エルミナーゼさんがお礼を述べて一礼。

 するとレェイオニードさんが私へと向きなおった。


「で、だ。

 冒険者ギルド受付のセーヌさんだったかな?

 貴方の実力は俺自身の手で確かめさせて貰おう」


 自信満々の表情でレェイオニードさんが立ち塞がった。

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