57 城塞のレェイオニード
「私が呼ばれたのは受付嬢としてではなかったのですね……?」
「そうとも言い切れん。だが冒険者としての腕を見込んだ。
それに冒険者ギルド受付としても使えるってんだから、今回の一件には持って来いだろう?」
言いながらゼフさんが自信満々に言い張る。
「それで、件のレイナ姫はいつご到着するのでしょう?」
私が問うと、ゼフさんは肩をすくめる。
「さぁな……護衛のレェイオニードが先行して来てるんだ、そろそろじゃないのか?
どっちにしろ王族の移動スケジュールなんてものはこっちには入ってきてないのさ。
ただ、フランシュベルトを訪れた際に、受付を一人付けてくれって話だ」
「それで私にお鉢が回って来たと……?」
「そういうこった」
話は早かった。
王都アレリアから第二王女のレイナ姫がフランシュベルトに視察に訪れるというのだ。
そして、その際に受付を一人供出しろとの命令だったという。
お姫様には無論、冒険者からレェイオニードが、そして王都の騎士団からもレイナ姫付きの凄腕騎士が守りとして配されるという。
加えて、冒険者ギルドから受付を一人付けるというのだが、その際に、戦闘が出来る者が望まれたらしい。
そうして私にお鉢が回ってきたというわけだ。
「話はレェイオニードにでも聞くんだな。エルミナーゼの特級昇格の件もある。
やつの入り浸ってる酒場は教えてやれる」
そう言うと、ゼフさんは紙片に住所と地図のようなものを書くと私に渡してきた。
それから短く、特級への昇格をとだけ書いた手紙をエルミナーゼさんに放ってきた。
「全く、人使いが荒いですね。こちらは3日の長旅を終えてきたばかりというのに」
エルミナーゼさんがゼフさんを睨みつけるが、当のゼフさんは素知らぬ顔だ。
「……宿の手配がしたいなら――」
ゼフさんが面倒そうに言いかけたところで、エルミナーゼさんが遮った。
「――いいえ、結構。私たちは自分で宿を探しますので。行きましょうセーヌさん」
「はい……」
そうして私たちはフランシュベルト冒険者ギルドを後にした。
∬
エルミナーゼさんの案内で宿を見つけると、私たちは当面の荷物を宿に預け置くことにした。
私は受付嬢の服に着替えると、冒険者としての装備をその上に身につける。
山葵色のエアムーンシャークの手甲は黒が基調の受付嬢の服にも似合っていた。
「セーヌさん。もうよろしいですか?」
部屋の外からミサオさんの声が聞こえる。
私は準備が終わったので部屋を出た。
「はい。お待たせしました」
「いえいえ。では早速、レェイオニードさんのいるという酒場に向かいましょう!」
ミサオさんの掛け声で宿をでて歩くこと数分。
私たちは冒険者たちで賑わうという街酒場にやってきた。
エルミナーゼさんが酒場のマスターにレェイオニードさんの事を聞くと、
「奥の部屋に入りな……」
と店の奥へと案内された。
どうやら常連だけが入室を許可される部屋があるらしい。
私達4人は店主に言われるがまま、店の奥へと入っていく。
そして入っていった店の奥の薄暗い部屋で、女と共に酒に浸っている男を発見した。
男は完全に酔い潰れているようで眠りこけている。
それにしても酷い酒の匂いだ。
「もし、そちらはレェイオニードさんでお間違えなく?」
私が問うと、付いていた女がレェイオニードの肩を揺すった。
「ちょっとレェイオニードさん。お客さんだよお客さん」
「んぁ……」
緩々と頭を上げるレェイオニードさん。
その酔った視界に私達4人が入ったところだろうか。
「なんだ? お前ら」
とレェイオニードさんは淀んだ目線をこちらへ投げてきた。
しかし少しして、私が冒険者ギルド受付の服装をしていることに気付いたようで、頭を振るともう一度こちらを見た。
「冒険者ギルドから来た人か……? じゃああんたが例の戦える受付嬢ってやつか」
「はい。セーヌと申します……」
「ニーナ明かりを……」
レェイオニードさんに言われ、ニーナと呼ばれた女性がなにやら魔道具を弄ると、薄暗かった部屋の明かりがかなり明るくなった。
「そうか……あんたが噂のセーヌ。俺はレェイオニードだ。よろしく頼む」
「……はい。よろしくお願いします」
噂の、という部分が引っかかったが、私はレェイオニードさんにぺこりとお辞儀をした。
「それからこちら、一緒に来た冒険者のリエリーさん。エルミナーゼさんに、錬金術師のミサオさんです」
「こんにちは!」
「どうも、エルミナーゼです。ゼフさんの紹介で特級への昇格を頼みに伺いました」
「私は付き添いのようなものです」
リエリーさん、エルミナーゼさん、ミサオさんが立て続けに挨拶をして、レェイオニードさんはニーナさんに汲んで貰った水を飲みながら話を聞いていた。
「特級への昇格を俺に……?」
「はい。こちらゼフさんからの紹介状です」
「ほう……エルミナーゼさんだったか、出身はこちらで?」
「いえ……魔族領のエルフの森ですが、なにか?」
「……なるほど、いやなんでも無いですよ。むしろ都合がいい」
「はい……?」
レェイオニードさんの言い分に、エルミナーゼさんが怪しむような目線を向ける。
「盾と剣くらいしか持ってきてないんでね……鎧を持ちに一度宿へ戻らせてくれ。
なに、すぐ近くさ。それから、街の西にライン騎士団の訓練場がある。そこへ来てもらおうか」
レェイオニードさんがぽんぽんと自身の頭を叩きながらそう言い、私たちは酒場を出てライン騎士団の訓練場へと向かうことにした。
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