55 フランシュベルトについて
「フランシュベルト。
言うまでもなく大陸中の人々が知る魔族領との最前線です。
その実態は、対魔族を掲げるフランシュベルト領主擁するライン騎士団が魔族領とを隔てる境界を守っていて、民間人、冒険者その他は、魔族との戦いには一切関わっていないのです。
そしてライン騎士団団長を務めるのが、フランシュベルト領主であるミサオの叔父上なんです」
揺れる馬車の中、エルミナーゼさんがフランシュベルトの実態を説明してくれる。
「私、冒険者も魔族との戦いに加わっているものと思っていました……」
「私もです!」
私とリエリーさんが自らの思い違いを告白すると、エルミナーゼさんが「無理もありません」と言って話を続ける。
「そもそも魔族側が攻勢を強めたのは、ここ300年ほどは観測されていませんからね。
ライン騎士団が魔族との戦いに明け暮れているというのも名ばかりなのです」
「なんと……そんなにも昔から魔族からの侵攻はないのですか?!」
リエリーさんが驚きを口にする。
「はい。実のところ、魔族側から攻め入る事よりも、ライン騎士団が王都からの要請で攻勢を強める事の方が多かったくらいですよ」
「では、魔族との戦いは……?」
私が問うと、
「ほぼ終結していると言っていいでしょう。
そして現在それを支えているのがミサオさんの叔父上であるゲンゾウさんです」
と、エルミナーゼさんが再びミサオさんの叔父さんの話を挙げる。
その言葉に、「おぉ~」と、私とリエリーさんは称賛を含む笑みをミサオさんへと向けた。
「止めてください! 私は別に叔父様とは関係ありませんから!
平和なのは良いことですけれど……!」
ミサオさんはぶんぶん首を振りながら、自身の関与を否定する。
「ゲンゾウさんはフランシュベルト領主でありながら、性を持たないのですか?」
リエリーさんがそう疑問を口にすると、
「いいえ。叔父様にはゲンゾウ・モリウチという姓がちゃんとあります。
大昔にフランシュベルト領主家が王族に与えられた性だそうです。
けれど使いたがらないんですよ。西方地域に住む、東方の血が濃い人達はほとんどがそうですよ。そもそも性を使えと強いているのは、王都アレリアに住む王族とその血縁の権威を高める為ですからね」
ミサオさんがそう教えてくれた。
「なるほど……王都の意思をあまり介さないのが西方流という事でしょうか?
セーフガルドではあまり考えられませんね」
私がセーフガルドでは王都の意思を軽視するのは考えられないとばかりに言うと、「確かにセーフガルドは平和そのものですものね」とミサオさんが感心するように漏らした。
実のところセーフガルドは考えもなく、王都の意思にある程度恭順を示しているに過ぎない。
しかしそれが出来るというのは、牧歌的田舎街であるセーフガルドならではだ。
みな何も王都の意思に従って、ギチギチに締め付けられているという意識などないのだ。
もし仮に西方での性を名乗りたがらない風習がセーフガルドに齎されたところで、セーフガルドの民達はみなその風習を素直に受け入れるだろう。
それはその人その人が選ぶべきものであって、強制されるものではないからだ。
セーフガルドにはそういう平和の為の土台があると言える。
「セーフガルド領主はきちんとその名の通り、セーフガルドの名を姓に持っていますからね。
別にこれは王都から与えられたというよりは、この地に昔から根ざしている名称ですから拒否反応というのが起こり辛いのでしょう。
実際、領主のレミーリアさんは平和的な手法を好む方だと聞いています」
私がセーフガルド領主について知る限りを語る。
「平和的手法を好むというならば、フランシュベルト領主のゲンゾウさんも負けず劣らずだ。私とてその象徴であると言ってもいい。エルフ族は魔族領の出身者がほとんどだからな。
私のようなものにも扱いを変えない素晴らしい人格者だよ、ゲンゾウさんは」
エルミナーゼさんがさんが誇らしげに言い、ゲンゾウさんを評する。
「なんにせよあと2日もすればフランシュベルトです!
聞くより実際に見て感じる方がより分かりやすいものですから!
セーヌさんとリエリーさんのお二人にも是非好きになって貰いたいですね!」
ミサオさんが元気よく言って、私たちはフランシュベルトの話を終えた。
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