52 西方からの使者

 私達が即帝領の未踏領域を踏破して1ヶ月ほどたった。

 イアさんから順調に分配金が配布されていて、私達の懐具合はとても良く毎日楽しく冒険をしている。

 今日も各地のギルドから届いた分配金の為の資金を受け取るため、私はギルド業務に従事していた。


「はい。確かに……西方のフランシュベルトギルドからの委託金全てお預かりしました」

「はい……!

 それとこちらフランシュベルトのギルドマスター、ゼフさんからのお手紙になります」


 元気よく挨拶する兎耳獣人の女子ギルド受付から手紙を受け取る。

 どうやらギルドマスター宛と指定されているわけではないようだったので、私は業務に則り手紙の封を切ることにした。


「これは……!」


 手紙にはただ一言、「セーヌってやつを俺に貸せ」とだけ記されていた。

 私は首を傾げる。

 どうやらホウコさんに宛てた手紙らしいが、あけすけに私を貸せとはどういうことだろうか。

 西方でギルド業務に困っているというわけでもないだろうに。


 フランシュベルトといえば、魔族領を隔てる最前線にある街だ。

 北方の王都アレリアに引けをとらないほど繁盛しているギルドであるといえるだろう。

 エルミナーゼさんとミサオさんは西方出身ということだから詳しいのかもしれない。


 そんな街のギルドマスターが私を欲しているとはどういうことだろうか?

 私は眼の前にいる兎耳の女性に聞いてみることにした。


「あの、失礼ですがあなたはフランシュベルトのギルド員で?」

「え? 私ですか? 私はフランシュベルトギルド員で間違いないです!

 あ……! こっちでは獣人がギルド員をするのは珍しいですかね……?」

「いえ……この周辺でも南のサウスホーヘンでは猫人族であればよくお見かけするのですが……」

「そうなんですか? 兎耳族ラビッツは確かに西方でしか見ないですかね……?」


 女性はそう言って、長い耳をピクピクと動かした。


「えぇ……それで、一つ質問があるのですが……」

「はい、なんでしょう?」

「ずばり、西方ではギルド職員が不足しているのでしょうか?」


 私は単刀直入に質問した。

 そうでなければ何故私を貸せなどと言ってきているのか分からないからだ。


「いいえ? 確かに日々の業務は大変ですけど、特に人員が足りないってほどでは……。

 私なんて暇してるなら委託金届けに言ってこいって追い出されたくらいですもん」


 女性は困ったように耳を畳むと、不思議そうな顔を私に向けた。


「そうですか……では何故私なんかを……」

「はい?」

「いえ、なんでもありません。長旅お疲れ様でした。

 ここセーフガルドで十分休息なさっていってください」

「はい! ありがとうございます!」


 私がそう言って仕事の達成を祝い送り出すと、女性は元気よくギルドを飛び出していった。


 そうだ。ホウコさんに相談してみよう。

 フランシュベルトのギルドマスターであるゼフという人も知っているのかもしれない。


 思い立つと、私は辺りを見回した。

 しかしホウコさんは受付にでてはいなかった。

 どうやらギルドマスター室で仕事中らしい。

 私はすぐに席を立つと、ギルドマスター室へと向かった。


「ホウコさん。失礼します」

「あらセーヌ、どうかした?」

「いえ、西方のギルドから即帝領遺物の支払いに使われる委託金が届いたのですが……」

「えぇ? それで? まさか足りなかったとか?

 途中で盗賊にでも襲われて全額奪われちゃったなんてことないわよね?」

「いえ……それは抜かり無く、冒険者の傭兵を雇われてきたとのことでしたので……」

「ん? じゃあ何が問題だったの?」


 ホウコさんが作業時に良くかけているモノクルを外すと、私に不思議そうに向き合った。


「それが……フランシュベルトのギルドマスターからこんな手紙が同時に届きまして……」


 私が手紙をホウコさんへ渡すと、ホウコさんは文面を読んですぐにフフっと笑った。


「あら、いいじゃないセーヌ。

 西方には行ったことないんだし、行ってきてみたら?」

「はぁ……? ですが何故私なんでしょうか」

「さぁ……たぶんあなたの実力を買ったんでしょう?」

「実力ですか……?」


 と言っても、私はしがない中級冒険者だ。

 実力と言ってもたかが知れている。


「まぁいいじゃない。

 それにフランシュベルトだったら特級冒険者もいるんじゃないかしら。

 あなたもそろそろ上級に昇格したいんじゃない? セーヌ」


 ホウコさんは立ち上がると、私の背中をパンと叩いて「いってらっしゃいな」と笑った。

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