46 ホーヘンズベーカリーの看板娘
「いらっしゃいませ、ホーヘンズベーカリーへようこそ!」
黒髪の女店員がレジから元気よく接客の声を響かせる。
見たところ小さな店だが、2、3のテーブルが用意されていて買ったパンをすぐその場で食べられる店構えだ。
店を見回すと、すぐにアシェル―ヤさんの姿が目に入った。
私は彼女の元へと駆け寄る。
「アシェルーヤさん。お探ししました」
「あら……セーヌじゃない。どうしたのサウスホーヘンへ用事かしら?」
「はい、私が用事があるのはアシェルーヤさんにです」
ホウコさんから受け取った郵便物をアシェルーヤさんへ手渡す。
「あら、ありがとう……」
そうして中身を確認しようと、アシェルーヤさんは添えられていた手紙の封を開けた。
「即帝領の未踏領域で大太刀を見つけたですって!?
セーヌが鑑定したから本物に間違いないっていうのは本当のことなの!?」
「はい。たしかに先日鑑定して本物に間違いはありません。
等級値は1万8000。大層な業物でした」
「それで実物は……って、結界に阻まれていて入手不可能だったですって!?」
アシェルーヤさんが大声を上げて残念がる。
「そう。それで識者によれば即帝の近縁や子孫じゃないと結界は破れそうにないってわけか……。なるほど、そうきたかー。でもそれならちょうど良かったわ。ねぇトーワ!」
アシェルーヤさんは店のレジに佇んでいた黒髪の女性に声をかけた。
「はい。アシェルーヤさん。どうかされましたか? 追加のパンでしたら……」
「そうじゃないのよトーワ。ほら、例のギルドに持ち込んだお祖母様の遺物。
あれに含まれていた即帝領の鍵。その扉の先で本物の大遺物が見つかったって話よ」
「えぇ……! じゃあお祖母ちゃんが手放したがらなかったのは……」
「えぇ! 昔からの言い伝え通りに、どうやら貴方達が即帝の子孫みたいね!」
「私、そんな昔話全然信じてなかったのに……!」
トーワと呼ばれた女性は驚きで口を両手で塞いだ。
「それで、遺物の結界を解く為に、貴方の家族に一緒に即帝領へ来て欲しいんですって」
「そんなこと言われても……お店の仕事だってあるし……」
「大丈夫よ。マスターには私が話しておくから!
セーヌ。どれくらいの危険度だったのか教えてあげて」
「はい。それは構わないのですが……良いのですか?」
番人は倒した。だから発生するスケルトン達の頻度や強さは大幅に下がっているはずだ。
だがしかし、元々かなりの高難易度ダンジョンだったのだ。
その脅威度を民間人で冒険者ではなさそうなトーワさんに話していいものだろうか?
「良いのよ。もう攻略済みなんでしょう?」
「それはそうですが、結界を解いた扉の先に何が待ち受けているかは不明です」
「お宝を前に即帝御本人が登場するとでも? まさか……」
そう言って、アシェルーヤさんは「心配しすぎよ」と笑った。
なので、私はトーワさんに即帝領の未踏領域が如何に恐ろしい場所だったかを語って聞かせた。
「そんな恐ろしいところに一般人の私が行かなきゃいけないんですか……!
あのこれってお断りすることは……!」
「それはできるけど、それならお母さんが代わりに……」
アシェルーヤさんは困り顔で説得を続ける。
「母だってそんな危ないところには行かせられません……!
すみませんが、お断りさせてください!」
トーワさんがそう言い放った。
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