44 古式魔法を教わります

 ネルさんに魔法を習おう。

 そう決めたのは、彼女が特級炎魔法の更に上、超級炎魔法を会得していたからだけではない。

 私の知らない古式無詠唱魔法や古式元素感知、古式元素操作といった見たことのないスキル郡を保持していたからである。


 私はネルさんが冒険者ギルドに訪れたのを見つけて声をかけることにした。


「ネルさん。おはようございます」

「おはようございます。セーヌさん……でしたか?」

「はい。セーヌです。

 研修時代に何度かと先日お会いしただけですが、覚えていて頂けたんですね」

「えぇ……それはもう、ごめんだけど私の鑑定Aである程度実力を見させて貰いましたから。

 同じ上級冒険者同士、仲良くしましょう」

「そう言って頂けると……実はご相談がありまして」

「はい?」


 私は包み隠さず、ネルさんに魔法の手ほどきをして貰いたいと頼んだ。


「無論、報酬は出します。

 3000エイダほどでなんとかお願いできないでしょうか?

 短い期間でも教えてくれる内容がしっかりしているのなら問題はないのですが……」

「3000エイダ!?

 いや、そんなに出してくれなくても、1000エイダほどで教えるよ

 どうせ殆どの人が私の魔法訓練には着いてこられないから……」

「本当ですか? ならばよろしくお願いしてもいいでしょうか?」

「えぇ……いいですけど……いつからにしますか?

 今日の午後であれば予定が空いてるんですけど……」


 ネルさんの提案に私は乗ることにして、私は再び「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。




   ∬




 午後。早速セーフガルドからすぐの草原に来た私とネルさんの二人。

 私は恥ずかしがっているのか俯きがちになっているネルさんを見た。


「その、古式魔法について教えてほしいんですよね?」

「はい。超級炎魔法よりはそちらを教えてもらえると幸いです」

「ですよね。それなら良かったです。超級炎魔法に関してはまだまだ感覚で出来てる段階なので、私も説明が難しいから……」


 ネルさんは恥ずかしがっていたのが嘘かのように笑顔を見せた。

 どうやら超級炎魔法を教えるのを恥ずかしがっていたらしい。

 でも、それはどうしてだろうか?

 いや今は考えなくてもいい。それより古式魔法を教えてもらおう。


「それで古式魔法なのですが……」

「あぁ……! うん。古式魔法はフレちゃんから教わったんだ」

「フレちゃんですか?」

「うん。そう古代竜フレイムエンド――略してフレちゃん。

 あぁ見えて雌だからちゃん付けなんだよ」

「なるほど……フレちゃん……」


 私が顎に右手を添えて納得してみせると、「うんうん」とネルさんは嬉しそうだ。


「古式魔法の基本は元素より更に先、クアンタを意識するところから始めるんだ」

「クアンタですか?」

「うん、そうクアンタ」


 全く聞いたことのない単語が出てきて困惑する私。


「クアンタの基本は光と闇元素にあるの。

 こうやって光の基本魔法ライトと闇の基本魔法ダークこの2つを全く同時に無詠唱したとき――」


 闇と光が渦巻いたところに透明な輝きを示す元素結晶が生成され、少しして消えていく。


「これがクアンタの基本中の基本の元素結晶ね」

「なるほど……」

「このクアンタを意識しながら魔法を組み立てて行くのが古式魔法です。

 まずはライトとダークで出来るクアンタの生成を練習してみて」


 言われ、私はライトとダークの詠唱句を教わると、無詠唱でそれを実行した。

 さきほどネルさんが行ったのと全く同じように、透明な輝きを放つ結晶――クアンタが生成され消えていく。


「うんうん。いいねいいね。

 あと1つ言っておくと、別にクアンタは相反する2つ元素の魔法を重ねたから生じるわけじゃないからね。1つの元素の魔法でも等しくクアンタは存在する。

 ただ相反する2つをあわせたときに可視化できて分かりやすいからってだけだからさ」

「なるほど……元素よりも更に小さい、クアンタと呼ばれるもので全ての魔法が成り立っているのですね……!」

「そうそう! あとはそれを自分なりにイメージするだけだよ。

 炎魔法で言えば、強い炎のところ、つまり蒼炎部分にはたくさんのクアンタが密集しているイメージにするんだ」


 言われ、私は風魔法のエアストリームでそれをやってみることにした。

 風の流れが速いところには、たくさんのクアンタが密集しているイメージ――。

 ――ヒュンっと小さな音を立てて風の流れが通り過ぎていく。

 小さな規模での魔法だったが、明らかに魔法の質が上がったのが分かった。


「大体掴めました……このクアンタを探知し、操作するんですよね? やってみます!」

「うん。でも出来るかな。中々これらをできる人はいなく――」


 ――神速を発動。

 さきほどのようにクアンタを意識したエアストリームとウィンドカッターの複合イメージはすぐに頭の中で整理できた。

 少ない元素消費量にも関わらず、いつもよりも凄まじく速い速度で体が前に出た。

 身体強化の強度もクアンタを意識して上げねば体が耐えられない……!


 私はすぐに神速状態を解除すると、筋肉痛に苛まれながら元いたネルさんの横に帰ってきた。


「これは……なかなかに鍛錬が必要なようです……」

「いやいやいや! すごいよセーヌさん。一発で出来るなんて!

 しかも同じ元素とはいえ複合魔法でしょ今の! 半端ないって!」


 ネルさんは私のクアンタを用いた古式魔法を褒めちぎった。

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