43 帰ってきた天才冒険者
今日も今日とて、ギルド業務に従事している私。
日々の業務にも慣れ、そして冒険者としての日々にも慣れつつある。
二足の草鞋生活は順風満帆に進んでいる。
受付業務をする傍ら――客である冒険者達を待ちながら、机に寝そべるようにして私は自信の冒険者カードを水晶へ押し当てて、自分が獲得したスキルを確認していた。
「上級冒険者S、特級大剣術S……ふふふ」
自信が着実に強く、賢くなっている事に微笑が漏れた。そんな時だった。
私の鑑定に見たことのない冒険者がひっかかった。
ここまでの魔法の使い手はそうそういない。
「――どうも、久しぶりです。こちらの依頼達成の報告に窺いました」
「はい。お疲れ様で……え? ネルさん!?」
私の眼前に立っていたのは、かつて研修時代に会ったこともある冒険者――炎魔法の天才と言われた魔法使いのネルさんだった。
「そんな……ネルさん。よくぞご無事で」
「いえ、依頼達成に時間がかかってしまいました」
そう言って、ネルさんは懐の大きな袋からごとりと音を立てて骨のような物を取り出した。
「こちらは……?」
「えっと、まだ依頼は有効だと思うのですが……古代竜の討伐依頼です。
詳しく経緯を説明するのはやぶさかではないのですが、討伐とはならずとも今後麓の村々への攻撃は控えてくれることになりました。
ですのでその盟約の代わりとして、生え変わった古代竜の歯を預けてくれたのです」
「では……こちらがその?」
「はい。古代竜の奥歯です」
「それでは……鑑定させて頂きます」
【古代竜フレイムエンドの奥歯】
11古代竜の一角を占める煉獄のフレイムエンドの奥歯。
強い炎元素を宿している。
等級値1万3000。
「確かに……確認させて頂きました。
ですが、一体何故こんなにも長い時間がかかったのでしょう?」
「それは、話せば長くなるのですが……」
そうしてネルさんがこれまでの顛末を語ってくれた。
要約すればこうだ。
まず古代竜討伐部隊は速攻で壊滅。撤退を余儀なくされた。
しかし、ネルさんは最初の攻撃の余波による落石で足を痛め、撤退できず取り残される事となる。そして、古代竜に見つかった彼女に、なんと古代竜が話しかけてきたのだという。
そうして始まった奇妙な交流。
それを通してネルさんは魔法使いとしてさらなる高みに至ったとまで言っている。
そして、古代竜に盟友として認められたネルさんは、奥歯を託され戻ってきたというわけだ。
「では……ネルさんはあのフレイムエンドに師事を……?」
「はい。そうなりますね。元素感知や元素操作の基本からみっちり教わりました。
他元素との複合魔法なども教わりましたね……。その他にも古代知識や無詠唱魔法の効率化など……なんにせよ色々です。色々」
「なんと……私はてっきり亡くなられたものかと……」
私の言を受けて、ネルさんは「1年近く空いては無理もありません」と笑い、その炎のような赤い髪を揺らした。
「私はギルドマスターへの報告を。少々お待ち下さい」
「はい」
私は席を立つと、ホウコさんの部屋へと向かった。
「ホウコさん。失礼します。
聞いてください。あのネルさんが戻ってきたんです!」
「え……? ネルさんって魔法使いの天才だったネルさん……!?」
「そうです。ギルドマスター案件であると思いますので、来ては頂けませんか?」
「分かったわ」
そうしてホウコさんを連れ立って再びネルさんの元へ。
ネルさんの周りには既に昔馴染みの冒険者が囲いを成していた。
「よぉーネルちゃん! よくぞ戻ってきたな。
俺はてっきり死んだものかと思ってたぜ!」
「その節はどうも」
ネルさんはじとりとした目で男を睨みつけながら言う。
きっと撤退したパーティーにいた冒険者なのだろう。
「ネルさん。ギルドマスターがいらっしゃいました」
「はい!」
ネルさんが再び事の経緯をホウコさんへと報告している。
「……まさか。本当に生きて戻ってくるなんて……」
そう小さく呟きながら、私はネルさんに冒険者として尊敬の眼差しを向けた。
【ネル】
【人族。女性】
【超級炎魔法S】、【特級古式氷水魔法D】、【特級草魔法B】、【特級水魔法C】、【特級氷魔法D】、【上級光魔法A】、【上級闇魔法A】、【古式元素感知A】、【古式元素操作S】、【古式無詠唱魔法A】etc……。
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