42 リエリーさんとの買い物

「お待たせしました」

「いえいえ、私もさっき来たところですので」


 待ち合わせの冒険者ギルド前へ着くと、リエリーさんはいつも通りの格好で私を迎えてくれた。


「それでは参りましょう」

「はい!」


 今日はアベンジャー討伐で軍資金も手に入ったことだからと、リエリーさんに買い物に誘われている。私も自分の鑑定以外に、リエリーさんの買い物鑑定眼を拝んでみたいと思っていたところだったので、すぐにその案に乗ることにした。


 まずはリエリーさんが武器を新調したいということだったので、武器屋を回ることになった。


「無論、行き先はルマさんのいる武器屋です!」


 リエリーさんが初っ端からそう豪語する。


「なるほど、リエリーさんはルマさんを依頼で知ったんでしたね」

「はい。あれほどの贋作を作る腕前があれば片手直剣も簡単でしょう」


 リエリーさんの案内でルマさんが研修後に斡旋されたという武器屋さんへと向かった。


「いらっしゃーい。ってセーヌさん!」

「はい。ご無沙汰しておりますルマさん」

「あれー? セーヌさん、そちらリエリーさんじゃないですか!?

 まさかまた即帝領の大太刀について、今度は冒険者ギルドまで私を追って!?」

「いえ……今日はただの買い物です」


 私がそう答えると、ルマさんは胸を撫で下ろした。


「はぁ……この間の一件で先輩の鍛冶師が一人親方にドヤされて、そりゃもう大変だったんだ。また即帝領の大太刀についてだったらどうしようかと思ったよ……」

「その節はご愁傷様です」

「ほんとそれ! それで……? 今日はどんな得物が欲しいのさ」


 聞かれ、リエリーさんくるくると左手の人差し指を回しながら、


「ずばり、片手直剣です! 出来ることならばルマさん製の物を希望しますが、それ以外に良い業物があればそちらでも構いません」

「おっけー。片手直剣ね。

 それならこの間親方にドヤされながら作ったのが確かこの辺に……」


 ルマさんはごそごそと複数の剣が納められた木樽を掻き回した。


「あった、あった! これなんてどうかな?」


 選び出されたのは、無銘も無銘。

 どう見たって本当にただの片手直剣にしか見えない代物だった。


「鉄の配合は……なるほど悪くありませんね。重さはどうでしょうか?」


 リエリーさんはルマさんから片手直剣を受け取ると、数度振るような仕草を見せる。


「少し重いかなくらいですね……今後の私には相応しい剣と言えるかも知れません。

 ですが……失礼ですが、これ以外の剣はありますか?」

「えっ……?」

「あるけど、どうしてだい?」


 私も意外だった。てっきりルマさんが作ったというそれを購入するものかと思っていた。


「値段ならどれも変わらないよ。そこの木樽に入ってる剣はどれも50エイダさ」

「いえ、問題は値段でも剣の質でも無くてですね……単純にこの剣が作られた時の炎元素の状況です。もっと高温で鍛錬されたものはありますか?」

「もっと高温で……? 変なことを聞くなー。

 それなら無いことはないけど、親方と一緒に作ったものだからただの鉄剣じゃないから少し値が張るよ?」

「はい。構いません」


 私はリエリーさんの買い物に付き合うがてら、先程のただの片手直剣を鑑定してみた。


 【鉄の片手直剣】

 鉄で作られた片手直剣。

 等級値560。


 やはり問題はなさそうで、等級値は50エイダの剣にしては郡を抜いて高い。


「良いですね。こちらはおいくらでしょう?」


 そうこうしていると、リエリーさんは買う剣を決めたようだ。


「300エイダだよ。6倍だよ? 本当にこっちにするの?」

「はい。こちらのほうが私の使うエンチャントに耐えられるかと」


 【鉄の片手直剣】

 鉄で作られた片手直剣。

 炎元素の影響を強く受けられる。

 等級値580。


 確かに、私の鑑定でも違う結果が得られている。

 後者は見た目は割りと豪奢に装飾されているが、鉄の片手直剣には変わりなく、等級値もさほど変わるものではない。ただ炎元素の影響を強く受けられるのが後者の剣だ。


「まぁお客が良いって言うならいいけど、なんか私には分からないな……」

「私が炎魔法のエンチャントを武器に施すことがあるから……としか言い様がありませんね。恐らく、より強い炎元素で鍛錬したものの方が良いと思うのです。

 無論、ただの推測ですが……」


 リエリーさんがそう言って魔女帽子の鍔を掴む。


「いいえ、リエリーさん正解です。私の鑑定でもそのように出ました。

 後者の剣の方が炎元素の影響を強く受けられるそうです」


 私がそう言うと、ルマさんが「へぇ」と珍しそうに唸り、リエリーさんが「やはり……」と呟いた。

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