41 復讐者の遺物

「それでは、討伐品の計算を行いますね。ですがその前に……」

「アベンジャーの短刀ですね……!」

「はい」


 リエリーさんとそんな会話をして私はゴブリンアベンジャーの所持していた短刀2本を鑑定した。


 【復讐者の短刀】。

 復讐を誓ったモノが使い込んだ短刀。

 等級値760。


「等級値760……!」

「なんと……!」


 これだけの等級値だ。

 既に冒険者の一人や二人を殺めていてもおかしくない。

 たった一匹のゴブリンの所持品としては常軌を逸している。


 私はレアな個体の戦利品をどう捌いたらいいか自信がなかった為、ホウコさんを呼ぶことにした。いまはカウンターにでていないようだ。

 カウンター奥へと行き、ギルドマスター室への扉を叩く。


「どうぞ」

「失礼します。そのホウコさん。とある戦利品をどう捌いたらいいかが判断に困り……。

 できれば見て頂けないでしょうか?」

「分かったわ。セーヌがそんな事を言うなんて珍しいわね」


 ホウコさんは書類仕事用の眼鏡をしていた。

 時折このメガネをしている姿を目撃することがある。きっと視力が悪いのだろう。

 眼鏡を外すと、ホウコさんは席を立った。


 そしてリエリーさんの待つカウンターへ。

 私が裁きあぐねていたゴブリンアベンジャーの短刀2本を見て、ホウコさんはすぐに顔色を変えた。


「セーヌ。これをどこで?」

「狩人の森です。

 先日ゴブリン長老を討伐して村落を破壊したので、その残党狩りをと……」

「それで、この短刀を持つ個体と遭遇したってことね……?

 名前は分かるの?」

「ゴブリンアベンジャーです」


 既に私が話していたので、リエリーさんが答える。


「そう……アベンジャー。復讐者というわけね……。

 これだけの等級値となると、犠牲になった冒険者がいるかもしれないわ。

 連絡の取れなくなっている冒険者がいれば捜索依頼をだしましょう。

 ヨシノ……頼めるかしら?」

「はい……?」


 ホウコさんは隣のカウンターにいたヨシノさんに連絡の取れなくなっている冒険者の捜索依頼に関して伝えると、再び短刀に向き直った。


「良いわ。マニュアルにない個体だもの私が報酬額を決定します。

 3000エイダだすわ。これ以上進化されたていたらと思うとぞっとするわ……」

「3000エイダですか!?」


 リエリーさんが驚きの声を上げる。

 3000エイダと言えば、ここセーフガルドで働くものたち1、2ヶ月分の報酬だ。

 驚くのも無理はない。


「他にこれに付き従っているような個体はいなかったのよね?」

「はい。辺りにはアベンジャー1匹のみでした」

「そう……。この個体が統率を持つなんてことになったら、討伐依頼はAクラス依頼になったかもしれないわね……」

「Aクラスですか!?」


 私が狼狽えて声を上げると、ホウコさんは冷静に「えぇ……」と返してきた。

 そこまでなのか……! ゴブリンの進化個体恐るべし。

 あるいは、私が研修中に聞きかじった、『エンペラー』なる個体も……。

 私は心底過去の自分が用意周到に冒険者ギルド受付になってから、冒険者任務をこなし始めることにした事に感謝した。そして私を受付に誘ってくれたホウコさんに格別の感謝を、言葉なく贈ったのだった。

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