40 ゴブリンアベンジャー
「リエリーさん。ゴブリン討伐に行きませんか?」
「え? もうゴブリン長老は討伐されたのでは?」
「はい。ですから残党狩りです。早くゴブリンをすべて掃討して、狩人の方に森を開放して差し上げたいんです」
私がそう言うと、リエリーさんは「なるほどなるほど」と相槌を打った。
「いいですよ。私の中級片手剣術がどこまで通用するかは分かりませんが、一体一体だったらゴブリン相手にもどうにかなるでしょう。セーヌさんの鑑定索敵があれば、複数に囲まれるということもないでしょうし!」
「はい。では行きましょう!」
私達は馬屋で馬を借りると、狩人の森へと向かった。
私は自分専用の馬を買う事も考えたが、世話をするのが面倒という理由からその考えは没となった。無論、イアさん達から馬を借りた時のように名馬とまでは行かない。
リエリーさんも乗馬スキルを持っていたようで、私達は1時間ほどで狩人の森へとたどり着いた。
森に草元素は満ち満ちているが、木々に遮られて風が入ってこないためか風元素は抑えめだ。
これでは神速を常時使用しての狩りは不可能だろう。
前回同様、要所要所で使うのが適当だ。
「どうしましょう? 私が前衛を務めましょうか?」
「うーんそうですね……1、2体を相手にするのがせいぜいだと仮定するならば、私はゴブリン弓士とゴブリン呪術師との戦闘は避けたいです。
遠隔攻撃には余り慣れていないもので……。
ですからセーヌさんが前衛でそれらのゴブリンの相手をしていただけるとありがたいです」
確かに、即帝領でもリエリーさんは基本的に後衛で遠隔攻撃からは聖騎士であるナミアさんの盾により守られていた。ならば、私が前衛に出るのが良いだろう。
「はい。分かりました。それでは私が前衛で呪術師と弓士を引き受けますね」
リエリーさんにそう返し、私は前へと出た。
私の鑑定索敵の範囲内には、数こそ少ないが複数のゴブリン達が引っかかっている。
リエリーさんとの距離が離れすぎないように、私は呪術師と弓士を狙っていく。
「まずは1匹!」
背後を取った状態で背中から大剣で袈裟斬りにした。小さな断末魔を残して倒れるゴブリン弓士。戦利品の篭手を剥ぎ取ると、次の目標へと進む。
そうして1時間ほど、ゴブリン戦士の相手をするのに慣れてきたらしいリエリーさんが私に追いついてきて言った。
「いやはや、私の中級片手剣術でも行けるものなのですね。
多少手こずる個体もいますが、炎魔法との組み合わせで相手取れば恐るるに足りません。
ほら、セーヌさん見てください。私、セーヌさんを参考に剣への炎元素のエンチャントができるようになったんですよ!」
そう言って、リエリーさんは刀身にメラメラと炎元素を這わせる。
どうやらリエリーさんは刀身の元素による強化を会得したらしい。
「さすがの観察眼ですねリエリーさん。私はお教えしていないのに」
「えへへ」
「そうですね……。私からアドバイスできるとすれば、炎は蒼炎をイメージすることです。
あちらの方が元素強度が強いんですよ」
「なるほど、なるほど。勉強になります」
「いえいえ、いつもは私が教えてもらってばかりですから。
あとは……そうですね、刀身に這わせるよりは難しいですが、同じ要領で身体強化が可能です。できればやってみてください。
この狩人の森では草元素を用いるのが最善なのですが……」
私がそう言うと、リエリーさんは難しい顔になった。
どうやら草魔法は全く知識がないらしい。
しかし、私もあまり草魔法には詳しくなかった。
考えてみれば、身体強化をする時以外に草元素を意識したことがない。
見た草魔法と言えば、この間狩ったゴブリン長老による鞭魔法攻撃だ。
あれを元に説明すればいいのだろうが、発動や詠唱の仕方などまるで分からない。
私は出来る限り詳細に、自分が草元素を用いて身体強化するときのイメージを伝えた。
あとはリエリーさんには自己流で頑張ってもらう他ないだろう。
そんな事を話して再び狩りに戻る。
すると私の鑑定に1匹のゴブリンが引っかかった。
しかも場所がリエリーさんに近い。
【ゴブリンアベンジャー】
【ゴブリン族。男性】
【上級二刀短刀術S】、【中級炎魔法A】、【元素感知A】、【元素操作A】、etc……。
スキル郡を見るだけで分かった。
この個体はレアな進化個体だ。
進化条件は詳細は不明だが、名前からして復讐者という事だろう。
きっとゴブリン長老の率いる村落を壊滅させたことで生じた進化個体だ。
私は急ぎ、リエリーさんの元へと向かった。
そうして叫ぶ。
「リエリーさん! 気をつけてください! 珍しい進化個体が近くにいます!!」
「え?!」
リエリーさんが私に視線を向けた、その時だった。
森に生い茂る木々の上から、ゴブリンアベンジャーがリエリーさんを狙って姿を見せた。
これでは間に合わない!
そう判断した私は即座に神速を発動。
凄まじい勢いで降下してリエリーさんを襲い来るアベンジャーに向けて跳躍した。
2本の短刀が私の大剣に阻まれ、ゴブリンアベンジャーが「ギェェエ!」と唸り声を上げる。
「落ちろ!」
空中で鍔迫り合いに勝った私は、地面にアベンジャーを叩きつけるように大剣を振るう。
決して弱くない強さで地面へと叩きつけられたアベンジャーだったが、見事に受け身を取っていた。
着地した私は、すぐにリエリーさんへと警告を発する。
「下がってくださいリエリーさん! 私の後ろへ!」
「はい!」
リエリーさんがすぐに私の後方へと張り付く。
敵のアベンジャーはと言えば、敵の数が2体に増えたことに特に危険を感じていないように見せていた。だがしかし、ジリジリと後退するかのように後ずさりしているのを私の目は見逃さなかった。
きっと怯えているに違いない。
あるいは、私達が長老を倒す場面を目撃していた個体なのかもしれない。
ゴブリンの心境をいくら読んだところで仕方はないのだが、敵のゴブリンアベンジャーの目には確かに恐れの色が浮かんで見えた。
「リエリーさん。敵は逃げようとしているようです。
ですがこんなレア個体をここで逃がすわけには行きません。
私が突っ込みますので、その隙きに止めの一撃を!」
「はい……!」
そんなやり取りの直後、アベンジャーは私達に背を向けた。
「逃しはしません!」
私は即座に神速を発動して、重い一撃を放つ。
しかし、向き直ったアベンジャーは十字にした短刀で私の大剣を防いだ。
そうして鍔迫り合いとなりアベンジャーの足が止まる。
「今です!」
「はあああああああああああああああ!」
リエリーさんが先程見せてくれた、エンチャントを施した片手直剣でアベンジャーを狙う。
突くような斬るようなその一撃が見事にアベンジャーの腹部を捉えた。
どうやらリエリーさんなりに身体強化をして全力の一撃を放ってくれたらしかった。
それが功を奏したのだろう。
それがなければ、私達の速度に追いつけなかったに違いない。
ゴブリンアベンジャーがリエリーさんの一撃で血反吐を吐き、私の大剣が緑色に染まる。
よろよろと私の方へ倒れ込むアベンジャー。
私は距離を離すと、トドメの一撃をアベンジャーの首へと打ち込んだ。
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