37 即帝領の探索

「待ってください。そこにはまだ仕掛けがあるようです」


 ナミアさんが素通りしようとしたところにリエリーさんが待ったをかける。

 そしてコンコンとダンジョンの側面を叩き始める。


「ここですね」


 そう言って、リエリーさんが側面を押した。

 地面からザシュっと空を切り裂く槍が突き出す。

 あと少しナミアさんが進んでいたら、もしかしたらこの罠を踏んでいたのかもしれない。


「真面目にか!」


 よほどびっくりしたのかイアさんが大声をあげ、ナミアさんが「助かりました」とリエリーさんに何度もお辞儀をする。


 前回のゴブリン長老討伐の後、即帝領の未踏領域探索に誘われた私。

 しかし、どうしてもリエリーさんなしに初めての危険なダンジョンに挑むという賭けをすることが出来なかった私は、リエリーさんをパーティーメンバーに推挙。

 恐らくはBランク超のダンジョン探索依頼に怖がるリエリーさんを「後衛だから!」となんとか説得し、連れ出してきたのだ。

 結果は今の所は大成功と言える。


「いやはや、前回も帰り道のときも偶然踏まなかっただけの罠があるとか……。

 即帝領半端ないっしょ……! 一体最奥には何があるんだろなぁー」

「それに先程は隠されていた仕掛けを解いて、新たな宝物まで発見できました。

 さすがは名探偵……よもや仕掛けに対しては賢者よりも上なのでは……?」


 イアさんとソラさんがワイワイいいながらリエリーさんを褒めそやす。

 私は知り合いが認められているようでなんだかとっても嬉しかった。

 当のリエリーさんはと言えば、「いえ、私は別になにも……!」と謙遜するばかりだ。


 やはり名探偵リエリーさんは最高の冒険者なのだ。

 私が彼女に師事したことを本当に誇りに思っている。


 リエリーさんが褒められる度になんだかうれしくなってきて頬が緩む。

 しかしここは即帝領の新探索領域。決して油断するわけにはいかない。


 ここに出現する魔物はスケルトンファイターがメインだ。

 稀に弓を持ったスケルトンマーダーが出現する。

 閉所であるダンジョンで、正確無比な遠距離攻撃を仕掛けてくるだけあって強敵だ。

 聖騎士で盾役のナミアさんが必死に戦闘で味方全員を守っている。


「ファイターだけならば良いのですが、マーダーが厄介ですね」


 私がそう言うと、イアさんが剣を携えながら前方を監視しつつ振り返らずに首肯する。


「そだね。でもマーダーをセーヌさんが事前に鑑定索敵で見つけてくれるからほんっと有り難いよー。セーヌさんの鑑定索敵最強っしょ!」

「いえ……私は普通に鑑定を展開しているだけですので……」


 役に立てていそうなのは嬉しい。

 嬉しいが、本当に私は近くにマーダーの鑑定結果が流れた時のみ口頭で伝えているに過ぎない。やっていることはただの伝達なので、本当ならばマーダーによる後衛への正確無比な射撃を完璧に防ぎきっているナミアさんこそが称賛されるべきなのだ。


 【スケルトンマーダー】。

 【アンデッド族。女性】。

 上級弓術B、初級短刀術A、etc……。


 再び、私の鑑定範囲に元は女性だったらしいスケルトンマーダーがかかった。

 前方には複数のスケルトンファイターも従えている。


「後衛への矢は私が防ぎます。イアとセーヌさんの二人はファイターを!」

「オッケーオッケー!」

「了解です……!」


 そうして私達二人が前へと出ると、直に暗がりからファイターが3体姿を現した。

 ソラさんの初級光エンチャント魔法のおかげで視界が開けていて助かった。

 そのエンチャント魔法のおかげで、私達各人の中心から光が球形に生じている。


 ファイターは一体は槍を持ち、もう2体は剣を装備している。

 確認を怠って突っ込めば、剣の2体を相手にしている内に間合いの外から槍撃を食らうところだった。明かりというものの大切さをダンジョンでは知るばかりだ。


 剣持ちファイターの一体目をイアさんが剣戟の末に仕留める。

 そして私が力任せに残りの2体毎を水平切りで薙ぎ払う。

 一体目の剣ファイターは私の大剣による強撃を剣で受けたが、筋力が足りなかったのだろう。腕毎折れて2体目の槍ファイターに体毎叩きつけられた。

 1体の剣を持っていた方の目から元素の明かりが消える。

 2体目の槍ファイターも仲間の体が叩きつけられたのに耐えられずに態勢を崩す。


 あともう1体――!


「――ファイアーボールを撃ちます! 離れてくださいセーヌさん」


 リエリーさんが事前にそう言い、態勢を崩した槍ファイターに炎弾を放つ。

 アンデッドは炎魔法に弱い。

 炎弾を受けて、槍ファイターの目からも光りが消えた。

 リエリーさんは既に中級炎魔法のファイアーボールを習得しているようで、たまにこうやって遠隔攻撃を撃つ。

 名探偵+片手剣術+魔法の、名探偵魔法剣士というわけだ。


 残るは後方のマーダーのみだ。

 先程から後衛のリエリーさんとソラさんを狙った矢が数発届いていたが、それをナミアさんが見事に防ぎきっている。


 私とイアさんがマーダーに迫る前に、ソラさんの詠唱句がダンジョンに響く。


「光の加護を受けて、その魂よ、光神サーミュエルの許へ還り給え。

 ――ターンアンデッド!!」


 詠唱が終わると突如として、光の鎖がマーダーを左右から捉える。

 そうしてギリギリと鎖の拘束がその強さを増していき、マーダーの体毎弾けて崩れ去った。

 これが上級光魔法ターンアンデッド。


 発動までに時間がかかるらしいが、アンデッドを光神の許へと誘って上手く行けば一撃で仕留める。一撃での撃破に失敗したとて、光の鎖でしばらくの間動きを拘束できるという、撃つだけで有利が取れるというアンデットに対してとても優れた魔法だ。


 しかし、光元素が満ちているとは冗談でも言えないこのダンジョンでは、その身に多くの光元素を常時宿し生み出すことのできる聖女ならではの荒業と言える。


「ソラっちナイスー! これで大体既存の探索エリアは終わりかな。

 この先は番人だけど……どうする?」


 イアさんが不敵な笑みを浮かべてそう言う。

 私達は番人がいるというエリアまで到達することに成功したのだった。

 しかし……私には番人に挑む勇気はない。

 ここらで引き返すのが筋というものだろう。

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